魔刃騎甲──救出 二

「あれは、正規軍アギマスの〈ハイザートン〉に違いない。新しい御領主おやかたさまが魔刃騎団の魔繰術士ウィザードさまをよこしてくださったんだよッ」


 村民のひとりがその勇壮なる巨大な背を見つめ叫ぶと周りから歓声が上がった。助けが来てくれた。領主を継承したばかりの新たな御領主おやかたさまはこの小さな村を見捨てられていなかったのだと。


『ヤロウッ、どっから湧いて出やがったッ!』


 だが、歓声も束の間。外音化術式スピーカを響かせ二体の敵〈ザートン〉が突然の敵襲に動揺としながらも水色の魔刃騎甲〈ハイザートン〉へと向かって魔騎装銃アサルトガンを構えて突撃してくる。人質ともなる足元の村民達の事など構い無しに踏み潰さんとする勢いは村民達を阿鼻叫喚とさせる。


『な──にいッ!?』


 だが、構い無しに先行してきた〈ザートン〉頭部が突然、何かに撃ち貫かれ、へしゃげ、後ろへと吹き飛んで行った。


 ──銃撃!? 姿なんて見えねえぞっ。どっからッ!!? 重力低減術式グラビトロを突き破る威力だなんてっ!?


 後方を進んでいた〈ザートン〉が吹き飛んでいく仲間ザートンの惨状に戦慄を覚える。銃砲撃の威力を低減する障壁バリアともなる重力低減術式グラビトロ魔障膜バブルと呼ばれる魔力の膜に包まれた魔刃騎甲ジン・ドールを吹き飛ばす威力を有した敵がいる事に恐怖の根が心を竦ませてゆく。竦む心のままに〈ザートン〉は魔騎装銃を構え、目の前にいる水色ハイザートンを狙う選択肢を選ぶ。姿無き銃撃者よりも目前の脅威となる者を払う決断をしたのだ。敵はコチラに背を向けたままだ、銃撃威力が低減されようが何度も連発で打ち込めば重力低減術式の障壁能力は一時的に崩れる。狙うなら無防備な今だと。


 発砲──閃光マズルを発し戦熱甲弾ブラストブリッドが連続で放たれた。


 戦熱甲弾は可視化された赤い魔力の尾を引き未だ背を向けたままの〈ハイザートン〉を襲う。


 ──っッッ!!?


 しかし、戦熱甲弾が〈ハイザートン〉をとらえることは叶わなかった。突然真横から中空を滑り込むようにして、巨大な灰色グレーの装甲が〈ハイザートン〉を護ったのだ。


『なん、だ、ぁ──ッッッ!!?』


 何が現れたかと思うも一瞬、外音化術式スピーカを垂れ流したまま狼狽する〈ザートン〉目掛けて灰色装甲が中空を滑走し突撃を仕掛けてきた。〈ザートン〉は何が起こったかも分からぬまま両腕脚部が折れ曲がった鉄屑スクラップと化し遙か中空へと吹き飛ばされてゆく。


 灰色装甲は中空で回転を繰り返し衝撃を抑えてから脚部を突き出し地面へと着地すると村民達を護るように軍服達の前に立ち塞がると装甲を縦に割開き、魔刃騎甲の姿を晒し両腰に装着された特殊な魔騎装銃を奴らに構えた。


 それを確認するかのように水色の〈ハイザートン〉は力強く前方へと進み、強襲を仕掛けてくる二体の魔刃騎甲へと反撃を仕掛ける。


『指揮官騎がァっ、〈ギーヴォル〉の前にノコノコと突っ込んでえッ!』


 外音化術式スピーカを無駄に鳴らし突っ込んでくる魔刃騎甲〈ギーヴォル〉の動きは明らかに虚勢と動揺を張った策もない愚かな騎動である。水色の〈ハイザートン〉は前進しながら右腕に握られた魔騎装銃を発砲し、戦熱甲弾を正面〈ギーヴォル〉の単眼な頭部に撃ち込んだ。ろくな整備もされていない騎体を覆う重力低減術式グラビトロは充分な防護障壁の役割を果たせずあえなく撃ち貫かれ、後ろへと吹き飛ぶ。


『わ、うわぁぁあッッッ!』


 撃ち貫かれた味方騎の無惨な姿に半狂乱となったもう一騎の〈ギーヴォル〉は魔騎装銃を放り投げ、電磁投斧ショートアクスを手にしようとする。


 瞬間、水色〈ハイザートン〉の真紅双眼レッドアイが鈍く輝き、魔障膜バブルたる重力低減術式グラビトロの流れを後方へと移してゆく。後方へと溜まった魔力の溜まりを破裂させ、推進出力ブースターとし、脅威的な加速力で迫る。


 迫りくると感じた瞬間には既に水色〈ハイザートン〉は撃ち抜いた〈ギーヴォル〉の胴体を足場とし、左腕に握った赤く発光する鋼刃剣ソードを振り被る。可視化された魔力の焔が燃え上がり刃を熱する。足場たる胴体を蹴り、横に飛ぶ刹那の一閃、〈ギーヴォル〉の頭部は溶解両断され、地に倒れ伏した。


 水色〈ハイザートン〉は重力低減術式グラビトロを調整し低重力下騎動を緩め、滑り込むように着地すると同時に最後の魔刃騎甲ジン・ドールを双眼に捕え、重力低減を使用せずの重く強い脚力で地を蹴り前進する。


 最後に残った魔刃騎甲ジン・ドールの姿は先の〈ザートン〉や〈ギーヴォル〉の人を模した姿と比べると異様なものだ。塗装の無い鉄錆の浮いた巨大な笠のような装甲が頭からスッポリと被るように装着され、二対の細長な銃口が〈ハイザートン〉に向けられ〈ギーヴォル〉に似た巨大な黄色の単眼が鈍く光る。


『どんなスゴ腕だろうと〈グラーゲ〉の性能差には適わねえって事を知りなッ』


 細長な銃口から水の飛沫が上がり黄色の肥大な脚部を地に固定し水圧流弾スプラブリッドを二発撃ち込んでくる。

 水色〈ハイザートン〉はその迫りくる可視化された水の魔力弾に対し、瞬時に脚部を深く沈め、体勢低く回避行動を取る。掠め過ぎる水圧流弾をものともせず前へ前へと姿勢低く駆ける。


『ヤロウッ、水遊びが趣味じゃねえならッ』


 迫りくる〈ハイザートン〉に〈グラーゲ〉の鋏型両腕部に掴まれた長槍の刃先から紫電が迸る。


『黒焦げに焼かれて痺れなああぁっ!!』


〈グラーゲ〉は水色〈ハイザートン〉へと超電磁長槍スパークランスの一撃を真正面に突きくり出した。


 魔力の電流が〈ハイザートン〉に迫ろうとした瞬間──〈ハイザートン〉は重力低減術式グラビトロを沈み落とした脚部へと集中させ、上空へと高く、高く飛び上がった。


 目標を一瞬のうちに見失い超電磁長槍を地面へと突き立てる〈グラーゲ〉の無防備な装甲だけは厚い頭部へと飛び移るように垂直落下すると、可視化された魔力の焔を燃え上がらせた鋼刃剣を巨大な単眼に突き立てる。頭部装甲全体が真っ赤に熱上がり、剣を引き抜き蹴り飛ばすと同時に爆発を起こした〈グラーゲ〉頭部を丸ごと失い無様な格好で地に仰向けと倒れるのだった。


『か、勘弁してくれよッ。投降するからッッッ!』


 外音化術式スピーカは生きているようで〈グラーゲ〉に乗った男から情けなく怯えきったうわずりな声が届く。いまだ焔の熱が赤く揺らめく鋼刃剣を片手にした〈ハイザートン〉がゆっくりと近づき、仰向けな〈グラーゲ〉をその双眼で見下ろす。


『へ、へへ、すぐに投降するからよ、後ろ向きにしてくれって、これじゃ──はァッッ!?』


 投降を求めた男の映り悪い魔結晶幻影境面マギイリュモニタに映し出された〈ハイザートン〉は鋼刃剣を逆手に持ち替え振り下ろさんとしている。


『よせ、まさか空間圧縮術式ハイスペルスの中に入る魔操術器コックピットを貫く気じゃねえよなッ! そんな事をすりゃどうなるかっアンタだってタダじゃすまねえんだぞッ!?──イヒィッ、ヤメテッッ!!?』


 泣き叫ぶ男の声を無視し、〈ハイザートン〉は鋼刃剣を突き振り下ろす。


 鋼刃剣は魔操術器では無く鋏型の腕部を貫く、魔操術器内の男は恐怖におののき失神でもしたのだろう。声が戻って来ることは無い。


 ──ゲス


 水色〈ハイザートン〉の魔操術器コックピット内で操者は蒼の瞳でつまらなげに物言わなくなった〈グラーゲ〉を見おろすと操術杖ケインを繰り、突き刺した鋼刃剣を一振りとし、大気に霧散してゆく魔力熱を鎮めると脚部鞘へと納めた。

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