フレイム騎甲館にて──整備班と専属法術式士 二
「おいしょっと、さてさて
サマージェンは
「へいへい、まずはダイスくんの長距離支援型をチェックしますよう」
独り言を呟きながらサマージェンは充血の少しだけ治まった赤い眼で魔結晶版面に映し出された魔法術式の複雑な文字列を見つめ爪先で魔法術式文字列の一部を中空へと弾き見えやすい位置に固定すると球体型操術具を慣れた手つきで繰りながらダイスの〈ハイザートン〉の元へと移動する。
「ほほいのほいほいっと」
移動式小型昇降器を左右上下させ〈ハイザートン〉の俯きな顔部辺りに目線の高さが合うように調整すると見えやすい位置に固定して置いた文字列を爪先で解き、目の前の〈ハイザートン〉の胸部を囲うように揃えた。爪を魔結晶版面の横に刺すと赤く加工された付け爪が綺麗に外れ、爪を短く切り揃えた綺麗な指で版面を鍵盤楽器を奏でるように素早く操作し、サマージェンは
(
サマージェンは今は取り外されて整備作業を受けている魔操術器を一瞥する。魔操術器の今の大きさは〈ハイザートン〉の胸部には到底収まりきらないものだが、法術式士が調整した
また、
(しっかし、
(あ〜、おセンチはやめてもらっていいっすかねあたし。はい、お仕事戻りますよっ)
自分に心の中で叱咤を入れたサマージェンは続いて
(ん~、リリィよりはマシだけどあらためてしっかりチェックすると荒れた使い方してんね。まぁ、相手の重力低減術式のブレを計算して撃ち込む長距離射撃てのは神経使うのかも知んないけど)
その優秀な
(ま、隊長への愛が為せる努力と才能て事かな。よしよし、後でバッチリ調整しとくかんね。んじゃ、次はと)
ダイスの長距離援護型〈ハイザートン〉の術式組み替えプランを幾つか纏めると、昇降器を折りたたみ、大盾と分離し下半身部のガッシリとした体型と上半身のアンバランスさが目立つエイモンの両肩大盾装甲型〈ハイザートン〉である。
サマージェン個人としては個人的恨みあるエイモンの粗を探してやりたいと躍起になるところであるが。
(はぁ、嫌味な程にバランス良く使ってくれてやがる。ホント面白みのねえ男だよアイツあぁよう)
何度チェックしても術式の荒れも歪みもなく調整の必要性がまるでない。両肩の
「ほいほい、軽薄優等生にもう用はありませんよっと。ヤロウ、調整楽にさせやがって仕事させろッ」
ブツブツ独り言を愚痴りながらエイモンの大盾装甲型のチェックを終わらせると、まだまだ下半身部が取り外しなリリィの〈ハイザートン〉のチェックをする事はできない。
「しゃーなし、メインディッシュは後にして過去の調整記録でも整理しましょうかね?」
サマージェンはその場で
(うへぇ、相変わらずメチャクチャだぁ……。 よくこんなん治してきてるもんだなぁあたし)
記録を眺めるだけで青ざめてしまうリリィの魔法術式記録は荒々しさが目立つ。特に
(ま、今はもうちょい騙し騙しやっときますが、そろそろお古から新品に変える時期かなと思いますよっと。ここは周りと要相談すわ。頼むからそれまでヤベェのに遭遇すんなよぅ)
サマージェンは記録を整理しながら今回の術式構築のプランを思考していた、その時。
「みんな、整備作業おつかれさまッ」
凛とした響きの中に可愛げが残る声音が整備場に反響する。サマージェンが上から覗き込むと悩ませの種であるリリィュ・フレイム隊長その人が現れた。後ろには巨大なバスケットを持ったダイスとエイモンもいる。
「いつもワタシ達の
リリィの声に整備員達はマリオ整備主任の顔を一斉に見る。
「俺の顔色うかがわなくても
マリオの笑い混じった声に整備員達は「うっす!」と一斉に元気よく頷くと我先にと水道場へと向かう。
「サマージェン、君もそんな所にいないで一緒に食べてくれ。出来たてだぞ?」
リリィがサマージェンに顔を向けて柔らかな笑みを魅せる。散々ぱら頭を悩ませてくれるリリィのこの人を惹きつけてくれる笑顔には正直心が癒される。恐らく整備員達もリリィの人柄に惚れてこんな無茶苦茶な整備状態でも文句言わずに整備作業を行えるのだろう。サマージェンも間違いなくそのひとりではある。
「今すぐ降りっから、一番美味しいのちょうだい」
「わかった、一番美味しいのだな。む、どれも一番美味しそうに見えるのだが、どれが一番美味しそうだろうか?」
「いや、俺たちに聞かれても」
「自分は隊長が手に取ったものが一番だとッ」
「そうか……ちょっと待ってダイス。また隊長と呼んでくれたな。いや、それよりワタシ達も手を洗わなければ渡すことができないんじゃないか?」
整備場にドッと笑いが溢れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます