蝙蝠魔獣の正体は
洞窟全体を揺らす衝撃音の支配は、数十秒と続いた。それは
『やったのか?』
耳に聞き心地の良いリリィの交信を受け、ダイスは頭を座席から持ち上げ、ようやく硬く閉ざした指が操術杖から少しづつ剥がれてゆくのを見つめながら交信に応じた。
「はい、映像で
ダイスの緊張した声は最後の言葉尻だけ気の抜けたものとなる。いつもの少々とヘタレ気味な彼の姿を取り戻している事は逆に狙撃による
魔力溜めな口の中心を射抜いた魔甲弾は攻撃に向かう魔力の熱に反応し、文字通り戦の熱を炸裂させ、頭部を丸ごと内側から爆裂と吹き飛ばしたのだ。
ダイスの見つめた
「そうか、よくやってくれたな。さすがは信頼するダイスの腕前だな」
『り、リリィ隊長が自分を信頼するッ──てぇッ』
大役をやってのけたダイスに心からの感謝を伝えたつもりだったが、本人は妙に素っ頓狂な裏返り声をあげるので「疲れているんだな。そっとしておくか」と、気遣って次の声を掛けずに、前を見つめる。
「すぐにでも動いて正体不明の魔獣とやらを確認しに行きたい所だが、先ずはエイモンの安否だ。持ち上げて鉄馬車に乗せる必要があるだろう」
『俺が、手伝いますよ』
「む、そうか。助かるよゼト」
この場で動ける
エイモンを
『そんな、馬鹿なことが……』
現場が見えてくるなり唖然とした声をあげたのはダイスであった。彼がこのような声をあげる理由は目の前の光景にある。
『自分は、確かにこの手で仕留めたはずなのに……なぜ、やつの死骸が無いんだ?』
「落ち着くんだダイス。確かに死骸は消えているが、ここに巨大な存在がいた痕跡は残っている」
リリィは諭すように声を掛け、地面を巨体が擦り付けられた跡と、ちょうど頭部があったであろう位置の岩壁が熱に焼かれた跡、熱反応の残りを確認する。
(熱の流れは奥へと向かっていったようではあるが)
熱反応は奥へと逃げこんでゆく形跡はある。確かにここに、巨大な存在がいたという事が理解できる。分からないのは頭を撃ち抜かれた頭部無しの死骸がどうやって逃げ出せたのかという不可解さと不気味さである。どんな生物でも生き物である以上、脳髄を無くしては生きてはいけないはずだ。異常な生命力があろうとも眼球を無くしていれば視界や光を感じる事も叶わない筈だ。
(我々は、もしかしたら何かもっと得体の知れない存在と対峙していたのかもしれない)
リリィは漠然とした考えを心打ちに止めながら、見上げる奥側に小さな光りが見えているのがわかった。
『あれは、間違いねえ、出口だッ』
ゼトの声が弾み聞こえる。確かにあれは太陽から照らされる陽の光であると確信できる境面越しからも暖かに感じられる光だ。
『出口の先はすぐにケヨウス砦なんだッ。こいつも安全に休ませられるッ』
言葉足らずだが、ゼトの言いたいことはその場にいる全員が分かりきっている事だ。自分達の身体の疲労もそうであるが、とにかくエイモンの安否をその目で確認、彼を
「よし、衝撃波の連続でいつここが崩壊するかもわからん。先ずはユーヤングと鉄馬車を脱出させ、その後はすぐ様にケヨウス砦に向かうッ」
リリィの声に一行は頷き、洞窟抜け道を脱出した。
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