四章──ケヨウス砦──
到着、ケヨウス砦
魔獣の森中枢──ケヨウス砦前
地上ルートを通ってやってきたフィジカ
(あちら側に進ませてしまったのが仇となったか)
フィジカの〈ガルナモ〉は迷いなく踵を返し、洞窟抜け道の方角へと向かおうとする。
だが、それをアルフ騎が前を塞ぎ無理やりにでも止めに入った。
『いったいどこに行こうというのですか隊長』
「あちらへと哨戒をしに行くだけですよ。そこをどいてくださいアルフ隊員」
『そういう事でしたら俺が行きます。隊長殿に、いま必要なのは休息です』
凄み強めるフィジカの飛ばす
『そうですわ隊長。あんな予想外な
ベティも行かすまいと強い言葉で止めに入り、行く手を阻む壁を増やしてゆく。彼らの真っ直ぐとこちらに向ける信頼と心はとても振り解けそうには無い厚い壁となり、フィジカを黙らせた。
フィジカ
「しかし、私の見通しの甘さが、リリィさん達やゼト隊員を──」
『──ですからそちらには俺が行くと言っています。貴方は身体をすぐにでも休め、騎甲も万全に動かせるように調整する必要があるんだよッ!』
どこか冷静さをかいて見えるフィジカにアルフはより強く前に出て組み伏せる勢いで止めようとする。隣に立つベティとウェックスもここは引く気は無いだろう。これ以上の押し問答は逆に時間の無駄となると判断したフィジカは頑なな自分を律し、冷静さを取り戻そうと声低く溜めた息を吐きだした。
「それでは、どうか頼みます」
『はいっ、ベティ、洞窟には言った通りに俺が行く。君とウェックスは隊長を頼むぞ』
『分かりましたわアル、お気をつけて』
アルフ騎はベティとウェックスにフィジカを託すとすぐ様に洞窟方面へと動き出そうとした──その時である。
腹の底をしびれさせるような強い轟音が鳴り響いた。これは、地下からの轟音であると四人は判断した。
(やはり、洞窟で何かあったのかッ)
フィジカが無意識に〈ガルナモ〉を走り出させようとした瞬間、とてつもなく巨大な存在が森の樹木をへし折らん勢いで上空に飛び出し、飛翔して行くのをその目にとらえた。
(あれは、なんだ……魔獣なのか──っっ)
背高い樹木に遮られ、その姿は一瞬にして見えなくなったが、得体の知れない何かが、洞窟抜け道の方角から飛び出して来たのだけは理解でき、四騎共にその場から洞窟へと駆け出していた。
そこから、地上に出てきた武装実験部隊フレイムの一行と合流するまでに数分とは掛からなかった。
***
約六百年前に建造されたというケヨウス砦は千年に及ぶエイハート公国とマハーデス帝国との戦争の歴史の中で建てられた建造物である。ガルシャに現存する建物のなかでも
元々現在駐留していた魔獣討伐第五小隊の
だが、この格納整備区画に、第五小隊の魔刃騎甲は一騎たりと見当たらず、不気味な程に騎甲館区画は静寂と冷たさの広がる空間となっていた。
しかし、ケヨウス砦の整備員達は健在なようで、第四小隊一行を迎え入れると数日ぶりとなる
「謝罪の必要は無いよ。あの洞窟の抜け道は本来ならば安全なルートであったのだとゼトからも聞いているんだ」
「しかし──」
「──それに、そちらの地上ルートも苛烈であった事は、あなたの〈ガルナモ〉を見れば分かるというものだ」
リリィの見つめる先には魔獣の血肉に汚れたフィジカの〈ガルナモ〉がある。
「謝罪し合うよりもお互いの情報を交換し合う方が有意義であるとワタシは思う」
「そうですね、それは仰る通りです。謝罪はまた改める事といたしましょう。それより、今は」
頭を上げたフィジカは後方へと振り返り、こちらへと近づいてくるガルシャ民特有の褐色肌を惜しげなく晒す軽装服な長身の女に低く声を張った。
「ここに駐留している筈である第五小隊の隊員達はどこに?」
「そいつは話すと長くなっちまうんだが、聞いてくれるかいフィジカ隊長」
女は軽い口調ながら切れ長な黒い眼は冗談めかした色を見せてはいない。フィジカは鋭さのある眼を彼女に至近に真っ直ぐと向け話を聞く事を示してみせた。
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