「衝撃」を討て!
洞窟内の全ての生ある存在を殺さんとする衝撃波の支配は数十秒のうちに終わりを迎えた。岩壁に張り付くルメ・ルメヌゥの群れは衝撃波に耐え吹き飛ばされずにいたがいまだ微動だにせずその場に固まっている。
それは、大盾構えに衝撃波を全面に受けたエイモンの大盾〈ハイザートン〉も同様である。
(ちょっと、キツかった……か)
前面に構えた合着大盾は目の前でへしゃげ潰れ、合着を解除する事も叶わない。軽口を叩く余裕も無くエイモンは
(
『お、おい、アンタ何で俺なんかを守ったんだよっ?!』
「ハハ、別に、アンタを守った訳じゃ、ねえってよぅ。後ろの──大事なもん守っただけなんだって。たまたまアンタが、そこに突っ立っちまってただけなんだよなぁ……ま、でも、せっかく、盾になっちまったからなぁ。ついでにアンタも守っちまったて事に、しておいてやるよ」
『お、おい本当に大丈夫なのかよっ?!』
「うるせぇ……て、言いてえんだが、ちょっとマジ、きッちィなァ。ちと、クチ、閉じるわ……ァ」
エイモンは身体全体が気だるさに支配される感覚に、前のめりに倒れ、意識朦朧としながらも妙に甲高い声が「エイモンおまえふざけよなッ、起きっだよテメェッ」と上手く言葉にできていない自分に対する雑言が聞こえてきた気がした。
ガルシャに着いてからずっと鉄馬車の中にいる「サマージェン」が大粒いっぱいな涙で泣いているような気がするのだ。
(オマエ大げさだな、こんくらいで、俺は死にゃしねぇ。ちと身体がどうしょうもなくダリいだけだって。ちぃとばかし休めば、動けるさ、なぁ、サージェ。こんなんでよぅ、死んじまったら俺、カッコつかねぇだろ……バカ──みてぇ、に──ァ、ねえさ……)
エイモンの視界は暗く落ち、意識が途切れた。
「ダイス! 仕掛けてきた敵を「
『やっています!』
エイモンからの交信が途絶えた瞬間。リリィは怒号に近い荒声でダイスに命令を出していた。ダイスも瞬時に行動に移す。
長距離支援型〈ハイザートン〉の兜被りな
ダイスは衝撃波の撃ち込まれた方角に補正を合わせ、遠くを見据えるように意識を集中させ、
ダイス自身が懸念するは、あの衝撃波がこの実験段階である
(いや、見つけてやるぞ。絶対にだッ)
ダイスは弱気な自分を全て殺し、リリィの命令の遂行を続ける。友の護りを無にせぬためにも。
『いました!──だけど、コイツはッ!』
ダイスの眼は遠くで座する「敵」を発見した。だが、その声は驚愕に震えている。
「どうした、何が見えたッ」
リリィの更に強くなる荒声に驚愕と震える心を打ち消し、敵の見姿をダイスはリリィに伝える。
『見たこともない魔獣ですッ。
混乱するダイスが伝えるように投影境面の映像からとらえるその姿はとてつもなく巨大な蝙蝠のように見えた。大きな翼を地面につけ、顔面は鉄仮面に覆われてるようであり銀色の頭蓋が剥き出しになっているようにも見えた。魔獣の特徴たる魔結晶が身体のどこにも見当たらず洞窟通路が塞がってしまいそうな程のその巨躯も全高二十五メートルはあろうかと錯覚してしまうのだ。文字通りの得体の知れないバケモノの姿がそこに見えるのだ。
(あれは本当に生物である
未知の巨大蝙蝠魔獣の情報を探ろうと投影境面を食い入るように確認するダイスの眼に、巨大蝙蝠魔獣が態勢を低くし、大口を開けるのが見えた。ダイスはあの
『敵の
「ッっ!?──頼むぞッ!」
リリィの命令よりも願いに近い声を聞くと同時にダイスは両肩部に背負った特殊な形の魔騎装銃二挺の固定を解除し、素早くその手に掴むと二つを合着とさせ、長大な銃砲を作り上げた。
敵は低く翼を地面につけ、大口を開けた態勢は魔力溜めであると理解する。遠くの距離に強い一撃を叩き込む一部の魔獣の行動に酷似しているのだ。ならば、奴が叩き込んでくる一撃はあの衝撃波に違いないと判断する。エイモンの大盾装甲が無い今、あのとてつもない衝撃波を
そんな事はさせるものかとダイスの長距離支援型〈ハイザートン〉は
『鉄馬車を寄せるっ!
鉄馬車からの声と共に
『
相手が魔獣だと言うなら重力低減による防壁を計算しなくてもよい、だが、あれが普通の魔獣で無いとするならば。ダイスの思考は一瞬のうちに絞り込まれた。
『キサマだけは墜とすんだようっっッ!!!』
ダイスの絶叫にも近い吼声と共に──
巨大蝙蝠魔獣の大口が一際強く開かれ、翼が大きく広がり、衝撃波の発射態勢に入る絶望の瞬間が投影境面から真正面に映る。
刹那──洞窟全体は再び衝撃音に支配された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます