骸との戦い──リリィ


「フィジカ、貴方はベティを守っていてくれ、ここは──ワタシが、やるッ」


 決意固めたリリィの声がフィジカへと交信術式コンタクションで送られると同時に骸の魔刃騎甲が触手のような異形植物を伸ばし鋼鉄骨格アイアンスカルから分離した腕先を飛ばしてきた。リリィは瞬時に鋼刃剣ソードでそれを避けることなく真正面から受け止め、腕に刃を掴まれると同時に焔の魔力を燃え上がらせ魔力で膨れ上がった魔獣鋼化筋肉ブルートゥマルスの剛力とした一歩を踏み込み、両断と断ち斬り伏せる。勢いをつけ前のめりに崩れた態勢のままに人差し指を引鉄トリガーにかけ、魔騎装銃アサルトガンを構えると狙い定めずの戦熱甲弾ブラストブリッドを撃ち込んだ。


 閃光マズルが走る──銃火閃き可視化された炎は帯を作らず目の前で炸裂し、まるで火炎球のような砲撃が放たれ、目の前の骸魔刃騎甲が豪炎に飲まれながら吹き飛ばされてゆく。同時に炸裂威力の砲撃を片手で撃ち込んだ反動で〈ハイザートン〉の左腕部が引きちぎれんばかりに魔結晶関節部ジョイントの魔結晶が砕けヒビ割れるような軋む音をあげ、後方へと飛ばされる魔騎装銃アサルトを手放す。魔騎装銃は銃身が焼け溶けて弾け、もはや使い物にはならぬ鉄屑スクラップと化して地表壁に砕けぶつかった。


(甲弾残りも少なかった、あれを今は必要としない)


 有り得ない規模の戦熱甲弾ブラストブリッドの威力もリリィに驚きは無く、彼女は左の繰術杖ケインを振りかぶるように後ろへと引き、筋肉が伸びきった左腕部の摩耗した魔結晶関節ジョイントに溜まる魔力を絞り切るようにして魔導神経マギニューロへと注ぎ込み、前方に繰術杖ケインを振り急速と魔力を循環させ強制的に伸びきった魔獣鋼化筋肉ブルートゥマルスを正常域にまで引き戻す。掌から指先の鋼鉄骨格まで魔力が行き渡る感覚を五本の指で鉄拳を握り作る動きで確認し、攻撃を仕掛けんとする骸の魔刃騎甲へと向かって前進すると次なる反撃に打って出る。


 迫る敵ハイザートンに二騎の骸魔刃騎甲は攻撃を仕掛けんと突撃前進せんとする動きを捕縛しようと異形植物腕を両拳で飛ばしてくる。リリィは座席を後ろに引かせる意識でかがみ込み、両の繰術杖ケインを真中に構えると踏板ペダルを一気に踏み込む。体勢低く〈ハイザートン〉が、頭部スレスレと飛びゆく四つの異形植物腕を回避し、骸魔刃騎甲の腹部に目掛けて刃と柄を握り込んだ鋼刃剣ソードを前方に叩きつけるように押し出し、背部に集中させた重力低減を爆発させて力の限りに押し飛ばす推進騎道突撃ブーストストライクを仕掛ける。


 二騎の魔刃騎甲の腹部に集まった侵食せし異形植物が筋肉の筋が破壊されていくように引きちぎれてゆく。重力低減の制御下に無い異形植物に強制に立たされていた状態の骸魔刃騎甲は草木編みの人形のように腹部から胴体部を折り曲げて後方へと押され飛ぶ。


「これで──燃え尽きろ」


 リリィが静か呟くと共に繰術杖ケインを横凪に繰ると、左腕に掴む刃が煌々とした焔をあげ、焔燃え移る〈ハイザートン〉のえる拳ごと斬り裂くように煌焔瞬断フレイスラッシュの一閃を放つ。

 柄側に押されていた骸魔刃騎甲の腹部が燃え裂かれ、勢いのままに一回転をした〈ハイザートン〉は焔拳フレイフィストを振り被りもう一騎の剥き出しなマギイリュアイを鷲掴み砕き潰すように剛力豪腕と絞め潰す。まるで骸が悲鳴をあげるように指の隙間から焔のけむをあげ軋み潰れるマギイリュアイの破裂音が響いてゆくと頭部潰れな骸魔刃騎甲の異形植物の伸びきった腕部がダラりと下がった。リリィはその本当の意味での亡骸へと戻った魔刃騎甲ガルナモを力任せに振りかぶり腹部燃える骸魔刃騎甲へとぶつけにかかる。


 だが、燃えさかる腹部を庇うこともなく骸魔刃騎甲は立ち上がり状態を捨て、魔獣そのものと呼べる這いつくばりな姿勢へと変わる。頭部潰れ魔刃騎甲の一撃を避け、四つん這いに〈ハイザートン〉へと組み付してきた。


「いつまでも──」


 リリィが冷淡とした声を発すると同時に左脚部を踏み込み脚部鞘からもう一刀の鋼刃剣ソードを射出し、燃える腹部へ向かって撃ち込んだ。腹部にめり込んだ鋼刃剣ソードの柄が骸魔刃騎甲の状態を持ち上げる〈ハイザートン〉の右腕で持った鋼刃剣ソードの刃が無防備に晒された首元へと飛び戦熱の焔が燃え上がり


「──魔繰術士ウィザードの誇りを辱めるなッ」


 リリィの怒る声と共に首元を溶解一閃と焼き斬った。頭部が中空を飛び胴体部にまとわりつく異形植物が断末魔をあげるように激しく蠢いて〈ハイザートン〉に絡みつこうとしてくる。リリィはそれを足蹴りに突き転がし、重力低減下の中空を緩やかに落下する鋼刃剣ソードを左腕で掴み取りひと振りすると、両手の鋼刃剣ソードの刃が赤熱と発光し焔を燃え上がらせ、しぶとく蠢く異形植物に両剣を何度も振り下ろす。異形植物は逃げ惑うように蠢き続けるが〈ハイザートン〉は逃すこと許さず容赦なく振り下ろし続ける。


 その姿はまるで冷徹に罪人へと刑を執行する処刑人のようである。ただ、粛々と罪人たる異形植物を右の剣で燃やし刻み続けてゆく。


「……」


 リリィは言葉発せず左の剣を一回転とし逆手に持ち変えると、前方ではなく後方へと突きへと向かって剣先に集めた重力低減術式グラビトロを破裂させた。


 焔燻る骸魔刃騎甲が衝撃に吹き飛ばされるとリリィの〈ハイザートン〉は両の鋼刃剣ソードを構え直し、両手脚をバタつかせて体勢を立て直そうとする骸魔刃騎甲を双眼で見つめ


「あの火球威力で燃え尽きていなかったか。しぶといじゃないか」


 冷淡に呟くと同時に最後の骸魔刃騎甲に向かって駆け出していった。







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