森を進む
小国領ガルシャの国土の大半は森で覆われており、底の無い奈落へと続いていると昔物語が継がれる程の深い渓谷地帯が国端に幾つも点在しているのである。これがガルシャが森林と渓谷の小国領と言われる所以だ。
くわえてリリィ達が進みゆく
リリィ達が二人の魔獣使いの扇動で現在進んでいる地帯は道が整備された比較的天然魔力濃度の薄い林業区と果物業区である。街からもさほど遠くはなく魔獣の脅威も皆無と言ってよい区画だ。周りには伐採された丸太材木類の積まれや、天然栽培な果物の収穫所などの人々の仕事色の着いた跡が見える。避難勧告さえ無ければ今も汗水流し働くガルシャ民の姿が見えた事だろう。
一行は進む。まだまだ自然魔獣の姿ひとつと見えぬ安全圏であり神経をすり減らす一際な警戒をする必要も無いだろう──なぞと考えるものはこの場には一人とていない。
魔獣使い二人の乗る魔獣エル・ファントゥが動きを止める。様子がおかしい事をひとりが片手振って隊長フィジカへと伝える。
『全騎甲、止まれ』
『
フィジカの号令よりもいち早くリリィの指揮型〈ハイザートン〉の巨脚が地を強く踏み、左脚部鞘に納まった
僅か数秒とも掛からずの戦闘態勢が完了する。他騎甲も同様だ。
(どうやら、ここはもう安全圏とも呼べぬようだな)
リリィは光彩強い青の瞳を険しくさせ、
『散開、各個撃破』
両腕に
「ラープト・ヴェルォ」全高二メートル程度の小型魔獣である。人の身丈と大差無く、約二倍の大きさな
ラープト・ヴェルォの群れは数の理を取り一斉に襲いかかり魔結晶と一体化した爪と鋭い牙を
フィジカの
フィジカ騎の後方から四騎の〈ガルナモ〉が魔騎装銃を構え一斉に「
「あれが、ガルシャの得意とする風魔法の力か」
だが、一瞬であろうとも戦場で隙を見せてしまえば獰猛な魔獣の標的にされるというものだ。
「くっ──」
一直線に走り込んでくる数体のラープト・ヴェルォに気づき近接用の
ダイスがそう思った瞬間、灰色の大盾に覆われた巨碗がラープト共を殴り飛ばしていた。
エイモンの大盾〈ハイザートン〉である。
『よそ見してんじゃねえぞッ』
「す、すまないッ」
『思ったよりも数は多いが俺の「ラープトガン」じゃこいつらには弾の無駄になっちまうか?』
エイモン騎の両腰部に装備された連続速射の威力を誇るラープトガンは読んで字の如く目の前の魔獣共から付けられた武器名称である。両手持ちに構える姿がラープト・ヴェルォの立ち姿によく似ている事からこの名が発案されたのだが、今の状態で悠長にそんな事を考える暇はない。
『ダイス! エイモン!』
その時、凛と響く力強い声と共に戦熱の焔を宿した
『我々は鉄馬車の護りを優先的に固める! ヤツらに狙わせるな!』
「了解!」
リリィの力強い命令を聞き、二人は瞬時に行動へと移し鉄馬車の護りを固めるのだった。
魔獣ラープト・ヴェルォの襲撃を一行は蹴散らす事に成功した。だが、あまり喜ばれる事では無い。人間の働く生活圏内に魔獣が姿を現す現実は、ここがもう安全な場所では無いことを物語っている。先行している第五小隊が押し戻していたにも関わらずだ。事は一刻を争う事になり、同時に魔獣の予想出来ぬ襲撃を受ける可能性がある。
『ウェックス隊員。念の為、街の護りを固めておく必要があると判断します、アナタはそちらの現場指揮者に伝えてください。町民から間借り提供いただいている拠点です。あそこには魔獣一匹と侵入させてはなりません。護るのです必ず』
『
フィジカの命令にウェックスは了解の復唱をし、魔刃騎甲をすぐ様に街の方角へと走らせていった。
『ウェックス隊員が戻ってきた後に予定通り砦へと進みますが、鉄馬車を一台ずつわけ二手に分かれて行く事にしましょう』
『二手に?』
『はい、ここから先は魔獣の世界といえる森であり、今も思わぬ襲撃がありました。ひとかたまりで動くよりも身軽に二手に分かれて迅速に砦へと進みましょう』
『了解した』
リリィはフィジカの考えに異論無しと頷き、一行は二手分かれにケヨウス砦に向かう事とするのであった。
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