最奥に撃て
長距離照準術式発動から一分を過ぎた、超加速の甲弾の如き視界の中ではかなり深部まで進んだ事になる。その間、樹木以外に魔獣はおろか、他の生物の存在も確認できぬ事がダイスは不気味で恐ろしく感じる。
やがて、ダイスの
『ッ──っ!?』
ダイスは思わずと息を呑み、そのこの世のものとは思えぬオゾマシイ姿に
コレを生物として認識してよいのかと重い脳髄が否定を繰り返す。
ソレは枯れ朽ちた巨木のような姿である──いや、地にしっかりと根を張り枯れ枝が深く伸びきったコレは巨木そのモノである──だが、地を張る根は心の臓が脈打つように蠢き、まるで地の底から何かを吸い上げているようであり、巨木胴体のヒビ割れの隙間からは魔結晶鉱石の淡い輝きが漏れている。枯れ枝には枯葉ひとつと茂りは無く、変わりに熟し腐った種のような物体がぶら下がっている──そして、巨木の中心部には眼玉のように巨大な魔結晶鉱石が張り付いているのだ。
(こんな──ッッ?!)
ダイスが存在を認める思考を拒否する中で、巨木は枯枝から熟し腐った種を落とし中心部の
ダイスは直感から瞬時に指に力を込めて
瞬間──種が超加速弾と化し境面中央へと迫りくるのが見えた。それと同時に耳の奥で何かがぶつかり破裂する音を聞いた。直感から撃ち込んだ魔力込めの無い甲弾があの種を迎撃したのだと理解した。
『どうしたッ、何かが見えたのかッ』
自騎の大盾を台座とさせたエイモンが突然の発砲と
『襲撃者を、見つけた。あれは蝙蝠魔獣なんかじゃない、巨木なんだよ』
『巨木、なんだと? 言っている意味がまるで──』
『──巨木としか言いようがないんだよッ。しかもあれは生物なんだ。生きているんだ間違いなく、自分の直感は魔獣だと言っている。魔獣でなければ説明なんて着くはずもないッ』
ダイスの声は震えながらも身体は次弾の装填へと動いていた。
『木が魔獣、生き物だなんてッ』
『植物も空気中の魔力を吸収し、呼吸をしていると聞くっ。魔獣の森最奥禁足地の魔力濃度の高さ、植物が魔獣となってもおかしくはないだろうッ。押し問答なんてしてる場合じゃないんだ。次で
もはや、誰の声を聞いたかもダイスは分かってはいない。ただ、次弾に
『エイモン、射撃位置はこのまま固定させてもらうぞっ』
『了解だ、しっかりと固定してやるから思いっきりやってくれッ』
ダイスの声にエイモンは了承とし、大盾上部覗き穴に差し込まれた銃砲をより精確に固定するために重力低減を調節せんと集中力を高める。サマージェンらが乗り手が生き残るためにあつらえた各外装と大盾の堅牢な厚みは無理やりと差し込まれた銃砲の反動を殺す固定台座としての役割を充分に果たす物だ。
(──戦熱甲弾充填──魔力注入……角度をそのままに)
ダイスは
『ッ──いまっ!?』
中心を捕らえたとダイスは
銃火閃く──捕らえた獲物を炸裂に穿つ牙が超加速し、巨木魔獣へと撃ち込まれた。
ダイスは巨木魔獣を倒すイメージのままに
呆然とする間も無く、枯枝の腐種が三つ落とされた。
『来るぞッ』
ダイスの短く危機を伝える叫びに全員、射撃の失敗と反撃が来る事を瞬時に理解した。
瞬間──大盾装甲へと続けざまに三つの衝撃が襲い来る。
『上空に向けて風を撃てッ!』
アルフの声に反応したゼトとウェックスの〈ガルナモ〉が上空に向けて
(ヤツは同時に何発も撃てるッ!? 落ち着け、こちらだって
礼を言う間も無く、ダイスは次弾装填を始める。サマージェン提案の長距離を連発と撃てる筋力調整がことを成し、まだ巨木を仕留めるチャンスは繋ぎ止めている。だが、一射目に起こった中心魔結晶の直前に甲弾を消し飛ばした謎の現象の謎が分かってもいない。恐らくもう一度撃ち込もうとも結果は同じだろう。ダイスは
(リリィ隊長、自分に力をください)
勇壮なる
ダイスは地に張り巡らされた血を吸うように脈打つ根に注目した。
(コイツ、下から何かを吸い上げているのか?)
下といえば、いまだ大穴から帰還してこぬリリィ達である。仮に下から何かを吸い上げているならば、リリィ隊長がその本元を見過ごすはずは無いだろうとダイスは考えた。
(──ッ?!)
その時、巨木のヒビ割れた隙間から漏れ出る魔結晶鉱石の淡い輝きが徐々に焔色へと変化して行っているのが見えた。
(あの色は、リリィ隊長の戦熱の色だッ。やはり、隊長達も自分らと同じく戦っている)
ダイスは確信を持ってヒビ割れに染み込んでゆく焔色が中心魔結晶鉱石へと到達するのを待つ。
『勝機は隊長達が運んでくれるぞ』
己でも驚く程に落ち着いた声でダイスは呟いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます