罠???
第四小隊・武装実験部隊一行は、もはや僅かな陽光も射し込まぬ暗闇の世界を進んでゆく。人の手によって整えられぬ道は巨大な草花木花が生え散らかる魔獣道であり、全高四メートルを超える
一行はなるべく魔獣に察知されるのを防ぐために明かりを灯す事をやめ、ゆっくりと前進を続けている。魔獣は普通の獣とは違い、火や光を恐れる事は無い。光は魔獣にとっては好物である魔結晶鉱物の印であり、魔結晶では無い光と本能が理解しようとも攻撃衝動を異なる光を持つ獲物へと向けるのだ。この攻撃衝動を向けられず余計な戦闘を避けるために灯りを消すという事である。
一行は暗がりのなか、エイモン騎〈ハイザートン〉の
エイモンは普段ならば「俺がいてよかったろ?」と軽口でも叩きながら進んで行きそうではあるが最奥に入ってからはそんな軽口を
故に、今の状況に気づけている者は少ない。
いまだ、最奥に入ってから魔獣の襲撃を受けていないという事に。いくら意図的に灯りを消しているとはいえ最奥は魔獣共の住処である。不穏分子たる
(妙ではあるとフィジカも気づいているだろうが)
リリィは
『ん……前が明るくなってきやがったぞ』
最前列を進むエイモンは
すると同時に大盾で押し退けていた巨大な草木花が消え、開けた空間が現れた。エイモン騎は大盾を両肩の位置に広げ止め、両手で遮るような意味で後方に注意を促す。
『なんだろうなこりゃ、自然にできた渓谷てほどにゃ深くはねえようだが』
エイモンの黒い
『まるで、空の月が落っこちてきたみてえだ。下に向かって月光の道ができてるような』
そんな詩的な感想を漏らしたのはエイモン騎のすぐ後ろを歩いていたゼトである。
『リリィさんの綺麗な髪色のような輝きですわね』
ベティもどこか惚けた呟きを返す。この感想はリリィ以外の面々は同意せざるを得ないだろう。リリィの不思議な月色髪の輝きに暗闇を照らす魔結晶鉱石の淡い輝きはよく似ているように感じるのだ。
『底が見えてるなら降りて確認をしてみましょうか? この程度の深さなら
底を眺めながらウェックスが進言する。実際降りて調査をするのも正しい判断のひとつではあるだろう。何故、こんな大地削れな大穴が空いているのかという理由が解明できる可能性もある。不安材料は潰しておくのも精神を保つには重要である。
『いや、ここは不用意に降りるべきでは無いでしょう』
だが、その進言をフィジカの重く鋭い声が制止した。ウェックス騎も動きを止めてフィジカの次の声を待つ。
『これだけ大量の魔結晶鉱石が剥き出しとなっているのに、魔獣の一匹もありつきに来ないのは妙だ』
その体表に魔結晶を生やす魔獣の好物は自然発生した魔結晶鉱石であり、その淡い輝きはご馳走があると鈴を鳴らして手招きをするようなもので魔獣が惹かれないわけは無いのだ。こんな魔結晶鉱石の群生状態なぞ、魔獣同士が争いを起こしていても不思議ではない。魔力濃度の重さに酔い意識力が低下傾向にある中でも納得と頷ける。
『ならば、
「うむ、このまま手をこまねいて立ち止まったままではジワジワと消耗するだけだな。ワタシはありだと思うぞ」
リリィはアルフの提案に賛成の票を投じた。周りも賛成と片腕を上げて示す。
『では、私も含め賛成多数。アルフ隊員、一発だけ
『はっ』
了承を受けたアルフは魔騎装銃を大穴へと向け構え奥側に輝く魔結晶鉱石に目掛けて
『──ッッ』
瞬間、アルフの魔騎装銃が重く引っ張られる感覚に襲われる。
『アミ・メレオゥッ』
アルフの叫びと同時に、魔結晶と同化した肥大な眼がギョロギョロと動き、メレオゥ種特有のイボ付いた緑の体表が次々と姿を現してゆく。その姿は増してゆくばかりである。
淡く輝く剥き出しな魔結晶鉱石の妖しい輝きは魔獣アミ・メレオゥの狡猾な罠であったのだろうか。
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