大穴のアミ・メレオゥ群


『──ッッ』


 アルフの叫喚あげずと短く押し殺した声が交信術式コンタクション越しに響く。無理はないだろう、いくら勇猛な男であろうともメレオゥの不気味蠢くまさに地獄の底と呼べよう大穴へと引き込まれていたかも知れぬ恐怖を想像としてしまえば叫びのひとつもあげてしまうというものである。


『来るッ。全騎、戦闘態勢トゥ・アームズ!』


 暴発衝撃の魔騎装銃アサルトガンをその身に受けたアミ・メレオゥ共が魔結晶と同化した肥大眼を幾つもの不気味に輝かせて地表を這い上ってくる。数で圧倒する耳障りなアミ・メレオゥの進軍音に怯むことなくガルシャ魔獣討伐第四小隊隊長フィジカ・トッシュの号令と共に全魔刃騎甲が銃をその手に構え、地獄よりの進軍者共アミ・メレオゥへ向けて発砲を開始した。


 可視化された戦熱ブラスト旋風ウィンの赤と緑の閃光マズルが闇に走り、迫り来る不気味色の光と混ざり弾け続ける。

 メレオゥ共の緑の体表は魔甲弾に連続と撃ち抜かれた反動で次々と奈落穴へと落ちてゆく。どうやらリリィ達が洞窟で襲われた黒曜石色のメレオゥほどの強度は無いようである。だが、数で圧倒とする進軍は魔甲弾の妨害をものともせず這い登り、大口を開けて先端に尖り磨いた魔結晶付きの舌を伸ばし反撃を次々と仕掛けてくる。


 その鋭く伸ばす舌を即座の反応で察知したエイモンは〈ハイザートン〉の大盾装甲ビッグシールドを前面に展開し、数打の舌攻撃を受け止め、弾き飛ばす。厚く鍛えあげられた新造の大盾は傷一つと着かず、尖る魔結晶付きの舌はだらしなく中空にふり投げられた状態となる。


 隙だらけとなった舌攻撃を放ったアミ・メレオゥへと向かい、エイモン騎の後方から下がっていたダイスの長距離支援〈ハイザートン〉が合着とさせずな長距離魔騎装銃砲ロングレンジバレル中距離射常態ミドルレンジモードで両手と持ち、ゼト騎の〈ガルナモ〉も魔騎装銃を構え大盾装甲の間から左右に別れ魔甲弾をアミ・メレオゥへと浴びせ、舌伸ばしなメレオゥ共を容赦なく撃ち潰してゆく。


 だが、数の利はメレオゥ側がいまだ圧倒的優勢である。這い登る進軍を止めず後続組が次々と地層を勢いよく登りきり大盾へとの仕掛りその体勢を崩そうとしてくる。


『背中のカバーをッ!』


 エイモンの声に魔騎装銃を失ったアルフが反応し、大盾装甲〈ハイザートン〉の背部にぶつかり飛ばすように両手支え、崩れかけた体勢を無理やりにでも押し上げる。


『上等ッ』


 エイモンは整った体勢を再び圧力で潰されぬように反撃に打って出る。


『そんなに煩わしいなら真ん中ボディをお留守にしてやるってんだよッ!』


 エイモンが叫ぶと同時に操術杖ケインを繰り前面に展開した大盾が火に熱せられた木の実が弾け飛ぶように一気に広げられた。大盾装甲へと次々とのしかかってきていた一部のアミ・メレオゥが中空へと弾き飛ばされてゆく。まるで風に巻き上げられた蛙の如くアミ・メレオゥ共は手足バタつかせ無防備を晒す。


 瞬間──弾き広げたエイモン騎の大盾へと向かって両脚を踏み締め、魔刃騎甲ジン・ドールが一騎、大盾を足場使いに中空へと舞い飛んだ。


 深紅双眼レッドアイの鈍い輝きと共に手にした鋼刃剣ソードを横凪と切り結び戦熱の焔を噴き上がらせ中空巻き上げなアミ・メレオゥを次々と両断するはリリィの指揮〈ハイザートン〉である。

 戦熱に彩られた上空を舞う〈ハイザートン〉の双眼は、下方に照らされるいまだ無数と群れるアミ・メレオゥを捉える。


 リリィは操術杖ケインを握る人差し指を律動に操り〈ハイザートン〉が片手持つ魔騎装銃を態勢崩しに構え、狙い定めずの戦熱甲弾ブラストブリッドを連射撃と撃ち込んだ。

 連続する閃光マズルと共に撃ち込まれた赤く細い尾を引く戦熱甲弾ブラストブリッドは何体ものアミ・メレオゥの身体を射抜いてゆく。焔燃えゆくメレオゥ共が地表を転がり落ちるさまはまるで溶岩石の如くだ。他のメレオゥ共を巻き込み、大穴の底へと次々と落下してゆくと、下方で燃えた木の実が破裂するような破音と巨大な篝火を崩し落とすのと似た炎の迸りが遠くで見えた。


 リリィの〈ハイザートン〉は連発した射撃反動をわざと殺さずと中空を舞い続け着地直前スレスレと重力低減を巧みに発動させエイモン騎の後方へと両脚を折り曲げ着地すると、再び屈伸体勢のまま飛び上がり、正確無比に下方から登りきらんとするアミ・メレオゥの群れに戦熱甲弾ブラストブリッドを浴びせ続ける攻撃を繰り返した。


『なんて戦い方なんですのっ』


 リリィの流れるような早業とした華麗なる中空戦法の流れにウェックスと共に登りきらんとするアミ・メレオゥ群の残りの処理をおこない続けるベティが思わず惚けた声をあげた。


『け、けれど、こんなのを食らわされたらヤツらも突っ込むタマも無しにからけつになるはずだッ』


 ウェックスも目の前で繰り広げられている中空戦闘を信じられないと目で追いながら大穴の底へと戦熱の焔に焼き転げてゆくアミ・メレオゥ共もしっぽを巻いて逃げ出すに違いないと楽観的な一息を吐いた。魔獣であろうとも大地を生きる物。圧倒的な力を見せつけられれば野性本能から獲物ではなく敵わぬ敵だと察し逃走をはかるはずであると。


『ウェックス隊員、油断は禁物ですッ』


 長大鋼刃剣ロングソードの両手構えに迫り飛ぶアミ・メレオゥを切り伏せるフィジカが楽観な言を吐くウェックスへ注意を促す。


『は、はい──ッッ?!』


 フィジカの言葉にウェックスが気を入れ、魔騎装銃アサルトガンへ魔甲弾を装填し直しアミ・メレオゥの群れへと構え、発砲を再開しようとした瞬間──。



 ──アミ・メレオゥの群れの隙間から、ベティの〈ガルナモ〉の脚部を掴む。ベティは悲鳴ひとつあげる間も無くまるで幼子が乱雑に遊ぶ人形のように地表に叩きつけられ瞬時に大穴へと引きずり込まれて行った。


『ベティさんっ?!』


 目の前で起こった惨状にウェックスが叫びを上げて追いかけようと手を伸ばそうとするが、アミ・メレオゥの進軍はそれを許さず隙のできたウェックス騎へと組み付き倒してゆく。その間にベティ騎は地表削られながら闇の底へと引き込まれてゆく。


『ひあぅあぁっ!?』


 自分の気の緩みから隣りだったベティを攫われ救いきれなかった後悔と目の前で組み付されたアミ・メレオゥ共の不気味に大口を開かせ自身に向けて浴びせられる攻撃への絶望にウェックスはおし殺せぬ悲鳴を上げた。


 その時、一瞬にして目の前のアミ・メレオゥ群が緑色の風刃と共に胴と首を両断とされ吹き飛ばされてゆく。


『たい──!?』


 それは両手の長大鋼刃剣ロングソードにより繰り出された隊長フィジカの魔力を込めた廻転剣撃による風刃波ソニックブレイドである。フィジカはその廻転力を高めた攻撃体勢のままにアミ・メレオゥ共を切り結び続け奈落の大穴へと飛び込んでゆく。


「フィジカッ!」


 同時にリリィの〈ハイザートン〉も背面に重力低減を集束破裂させた推進軌道で急速落下し、その背を追ってゆくのだった。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る