勝機の焔 後
〈ハイザートン〉が放った燃え上がる鋼刃剣は紅蓮の矢となり、巨大装甲へと吸い込まれる。深々と突き刺さり、噴き上がった焔の渦が密集とした根を中心としてヤツを焼き払い切るのだ。
リリィの描く
『──ッ!』
だが、リリィの真っ直ぐと射抜き見る
一瞬の動きを止めた焔纏わぬ鋼刃剣は根の集合体に深々と突き刺さった。
突き刺さるのみである。
あの巨大な存在を燃やし切るための焔は無く突き刺さっただけなのだ。
(なんだ今のは?──ッッ?!)
リリィは一瞬と困惑に支配されかけるが、蠢きを激しくした巨大な根が怒るように
ヤツの障壁現象に疑問をていする暇なぞはありはしない。鋼刃剣の焔矢が失敗したのなら次なる攻撃に打って出るのみである。
リリィは這いつくばりから
(丸々と肥え太った根の集まりに鋼刃剣は突き刺さっている。あそこへともう一撃、ワタシの全力を打ち込めれば)
リリィは武器持たず自由となった両手脚を活用とし、縦横無尽と回避しながら鋼刃剣の突き刺さった装甲の隙間へと眼をやる。こちらに勝利を呼ぶにはやはりあそこへの攻撃しかない。
(まだだ、持ってくれよッ)
回避専念としながら巨大装甲へと近づかんとするリリィを嘲笑うかのように巨大な根は次々と集まってゆき、リリィへの攻撃の手を緩めない。もはや兵とするではなく完全に天敵を壊しきるという攻撃衝動である。
リリィの〈ハイザートン〉は、ここまでであるのか。
『リリィさんッ』
その時──重くも強い声が
『フィジカッ!』
『それをッッ!!』
短く交信術式で交わした言葉にフィジカの言わんとせん事が分かる。これは、
(風がよく馴染んだ刃だ。我が戦熱を馴染ませる隙は無いほどに──)
アギマスの民であるリリィの得意とするは戦熱魔法だ。風には己が体内魔力の馴染みは無い。このまま風馴染む長大の刃を戦熱の刃と書き換えるには残された時は無きに等しい。
(──ならば、馴染ませるは、我が内にッ)
──我が体内に風を呼べ 聴け、風の声を 我は旋風 我は戦熱 誰にも止められはしない 風と焔を纏いし魔刃となれッ──
リリィの内に流れる体内魔力に刃馴染む風を受け止め、瞬時体内に循環させると共に
〈ハイザートン〉の真紅の双眼が大きく開かれ輝きを増す。
『オオッ!!』
リリィが叫ぶと同時に両手持ちに構えた長大鋼刃剣を振り回し、周囲の巨大な根の襲撃を一気に弾き飛ばす。辺りに
『行くぞフィジカッ!!』
風と焔を宿した刃を構え、リリィは限界と背面脚部と集めきった
狙うは突き刺さったままの
超絶なる突撃に
リリィは渾身の力を込めて
リリィは風焔の圧力に歪む
更に噴き上がりを強める焔は地表壁に潜る根をも焼き潰さんと地上へと一気に這い上がってゆく。それはまるで焔竜の軍勢である。
***
(!?──いまだッ!!?)
ダイスは勝機運ぶヒビ割れに広がった焔色が中心魔結晶に到達した瞬間──
戦熱閃く超加速の魔甲弾は中心魔結晶へとついに到達し、いま喰い破らんとする。
阻む障壁現象は無し。
甲弾の穿つ牙が中心魔結晶を撃ち砕くと巨木魔獣の中で炸裂する。同時に内部を走る焔が噴き上がり、苦しげに小刻みに震え続ける巨木魔獣の枯枝から無数の腐種が不気味に揺れ、全身が一気に焔に包まれた。それは一本の火柱となって黒に染まる夜天を更に焦がすように登ってゆく。
『やっ──』
やったぞと、ダイスが口にしようとした瞬間、エイモンの「離れろッ」という声が耳を劈くように響き、ダイスは反射的に長距離照準を解いた。視界を元へと戻した瞬間、驚愕に眼を見開くしかなかった。
大穴から超高熱の焔が登り上がってゆく光景を眼にしているのである。
『り、リリィ隊長ッッ?!』
ダイスは思わずと熱焦がす大穴へと向かって叫んでいた。
***
『こ──これはッ』
フィジカはいまだ焔を噴き上げ続ける長大鋼刃剣を握る〈ハイザートン〉の異様なる姿を見つめるしかなかった。辺りの異形植物の巨大な根共がもはや暴れもなく地に転がり黒く燃え落ち、媒介としていた〈グラーゲ〉の巨大装甲もその形を崩し始めている。もうこれ以上、焔を燃やし続ける必要は無いはずなのに彼女は風焔を吐き出し続けている。
『リリィさん』
逆巻く風焔の壁に阻まれ続けるフィジカは近づく事さえもできない。彼女が正気を保つのを待つしかないのか。
『ッ──リリィッッ!!』
フィジカは衝動的に〈リ・ガルナモ〉を前進させた。阻む風焔の壁なぞもろともせずに走り続けた。
フィジカの黒い眼に捉えられた〈ハイザートン〉の外装が溶け始めている姿に魔力が暴走をしているのだと瞬時に理解できた。このままではリリィは己が魔力で自滅としてしまう。巧みに制御された魔力は己を攻撃しないものであり、標的にのみ向けられるものだ。
フィジカは焔を送り続ける〈ハイザートン〉の両腕を
『終わったんですリリィさんっ!
もう終わったんですよッ!!』
フィジカの喉潰す叫びは届かず、焔は噴き上がり続け、外装の溶解が侵攻してゆく。こんな所で彼女を失うわけにはゆかぬ。彼女はもっと強く果たさなければならぬ使命が未来にあるはずだ。貴女が救えるものはまだ幾らでもあるはずなのだ。フィジカは己の身がどうなっても構わないと引き剥がす手を離しはしない。
──剥がれろッ! 剥がれてくれッ! 頼むッッッ!!!
フィジカの耳に魔結晶の軋み砕ける音が響いてくるがそれが何かと理解なぞするつもりは無い。ただ、
『──ッッ!!?』
ひと際高く──魔結晶の砕ける音がした──同時に、リリィの〈ハイザートン〉の両肩が弾け別れた。
瞬間──長大鋼刃剣を掴み続ける両腕部を残し、リリィとフィジカは後方へと吹き飛ばされ……意識は途絶えた。
──
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