女同士の休憩 三
「ま、そんなこんなと詳細は本人のご希望で省いちまうが、そこのサマージェンさんとお近付きになりたいとこの子が物欲しそうな眼で休憩室を覗いちまってたもんでお手手を引いてお邪魔しにきたってわけさ。悪いね」
「全然まったく省いてもいないし更に誤解が広まるような嘘を塗りたくって話さないでくださいましッ。あの違います、お近付きになりたいとかそういうはしたない表現では無く、とにかくお友達になれたらなと……
もう既にお澄ましな外装で取り繕わせる必要は無いと諦めたのか、笑いこらえな顔で事の経緯を説明するテティフとそれを誤解だと慌て訂正しようとするも何か感情が漏れ出ているベティの姿を見つめながらサマージェンは戸惑いと照れがちな笑いをみせ、リリィはその横顔を盗み見て薄く笑い、テティフとベティの仲の良さに意外なものを感じながら彼女達に視線を移した。
「君たちとはあって一日とも経っていないが、凄く仲がいいとわかるよ。付き合いは長いのか?」
リリィのなんと気なしな問いにテティフは机の上で指先をリズミカルに叩きながら応えた。
「いや、あたしもこの子と会うのは二回目くらいさ。そもそも魔獣討伐のための小隊が急遽結成されてから三十と何日かあまりだ、古い付き合いにはなりようもない」
「そうか、その割には姉妹のような仲の良さに見えたが」
「アッハッハッハ、ベティとあたしが姉妹に見えるってのかい。コイツはいいねぇ。プッハハ」
会うのが二回目だという想像するよりも短い付き合いにリリィは内心驚き、その割に距離の近しい姿に姉妹のようだと表現したが、何かがテティフのツボに入ったようだ。どこに笑い要素があったかは分からないが大きな声で笑いをみせる彼女の姿は見た目よりもどこか幼く感じられる。
「そんな、こんな姉か妹かがいましたら私の心労が耐えませんッ。う、想像しましたら胃を刃で貫かれるような錯覚が」
「そいつはそっくりそのままお返しするよ。なんだい初対面でお目目キラキラ息荒げな欲望丸出しにあたしに近づいてきたくせに」
「またっ、また誤解を招くような事をッ」
「誤解も六階も九回もありゃしないさ。真実は今のうちにさらけ出しちまった方がいいよ。何せあたしみたいな「
「──余計な事は言わないでよろしいんですよ貴女はっ」
やはり仲の良い姉妹のようにしか見えないこの二人が会うのが二回目なのだとは思えないとやり取りを観察しながらリリィはとある言葉が気になって彼女達の楽しげな言い合いに片手を軽くあげて割り込む。
「ひとつ聞きたいのだが、その「シャド」という言葉はなんなのだろう? フィジカも
リリィの疑問にテティフは「あぁ」と頷いて口を開いた。
「そうか、ガルシャでは当たり前に使われているから失念していたね。そりゃ隣の少国領といってもアギマスの人間には不思議に感じるかもね。教えたげるよ、シャドてのはね連絡役という意味さ」
「連絡役?」
「ああ、元々はガルシャにある森全体に住まわってた原住民「シャド族」から着てる名だよ。ま、ガルシャ人大半のご先祖さんとも言えるんだがそういうのを否定したがる輩も多いからね、あまり大っぴらには言わない方がいいてことさ」
「何故だ、ご先祖だというのなら敬うべき一族なのではないのか?」
「ま、理智的なガルシャ人の先祖が魔獣みたいに森を根城にしていた野蛮人だというのが我慢できないて事だろう。今は特にここ魔獣の森の魔力濃度が深く入るごとに高すぎて生身では住まえなくなっちまったから、シャド族も生き残るために街のガルシャに擦り寄って血を残してるんだがね。最後まで魔獣の森の奥ににこだわった連中は死んじまったと年寄りの昔物話で耳がイカれるほど聞かされてる」
テティフの語りにはどこか悲しさを感じられる。
「もしかして、テティフはそのシャド族の末裔なのだろうか?」
「ご名答だね。いや、森のシャド族がいたのは大昔すぎて末裔というほど濃い血でもなくなっちまってるんだが。うちの家系の年寄り達は血を誇りに生きてきたようだからね。一応の誇りは継承するつもりさ。まぁ、色々と歴史的な小難しいなんちゃらは省いちまうが、シャドの名を残すために森を渡る連絡役をシャドと呼ぶようになったという訳さ」
テティフは机上を指先でタタンと叩きこれで話はおしまいさと現してくるので、リリィもそこで話を終えようとする。
「あの、じゃあその
が、お隣で大人しくダンマリとしていたサマージェンが少し興味を持ってしまったか質問をしてきた。まだ緊張感は持っているのか余所行きな喋りである。
「はい、
何故かテティフでは無くベティが前のめりに説明をしてきた。テティフは彼女の肩をよっこらせと掴んで引き戻す。
「こらこら、なんでアンタが得意気に興奮にくっちゃべってんのさ。お嬢さんもドン引きてもんだよ」
「ちょっと私のどこが得意気に興奮し……て、ぇ、ドン引きしてませんわよね?」
「え、ぇ~と、あはは」
何か必死なベティにサマージェンは愛想笑いでなんとか返すしかなく、どうにか傷つけまいと「そうだ」と話を
「そのシャドて仕事が森を移動して情報を伝えるのは分かったけど、ガルシャの森は魔結晶や魔獣の影響で魔力濃度がキツイ筈だけど大丈夫なの?」
サマージェンの疑問に今度はテティフ自身がしっかりと応える。
「そいつはごもっともな質問だね。確かに魔獣の住まう場所は魔力濃度がキツくなっちまって生身で立ち入れるもんじゃないが、あたしら
「スモールガード? もしかして、あの
「はいはいそうです。あの板金鎧みたいなやつですわ。元々ガルシャの魔獣使いもシャド族の血筋が多く──」
質問の応えにまたベティが割り込んでくるのでテティフは苦笑いだがサマージェンは何処か自然な笑顔を見せて口を抑えている。
リリィはその表情を見て「これならば大丈夫そうだな」と頷き席を立った。
「すまないがそろそろワタシは失礼するよ。自騎の
「あぁ、そういや
立ち上がった
「ありがとう、
「あら、本当に行ってしまわれて? 今からラムナッハ自慢の果実とレイズサワークリームがタップリなフルーツサンドをと思いましたのに」
リリィが本当に席を立ってしまうのも心惜しいのか、ベティはどこからともなく取り出したバスケットに詰まったフルーツサンドをリリィに見せつける。
「ほう、これは美味しそうだな。しかし、新しい筋肉の慣らしも必要だからワタシは行くよ。また、女同士で話すとしよう楽しかったよ」
言って、リリィは片手を振り休憩室を出てゆくのだった。
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