第6話 すごいな、と思う店員と、大丈夫なのか、と思う係員



 あれは、福岡から仙台へと旅立つ少し前のこと。


 久しぶりの福岡だった。コロナで自主規制していた、というのもあったが。


 だから、久しぶりのお店に行ってみようと、ホテルを出て、福岡の街を歩いた。博多駅から天神の方へと。


 まあ、少しだけ迷子になって、地元の人に道を尋ねて、競艇場のところらへんからは、よく知ってる道になったので、いつもの公園の、いつものラーメン屋? 居酒屋? へと突入した。


 元々は屋台で、今も、屋台は残っているのかもしれないが、ここは屋台ではなく店舗経営でやってる。


 ライブハウスが近くていろいろなアーティストがやってくることもあるらしい。いつかあのJAMの解散ドームツアーのポスター、剥がす日が来たらもらえないかな、とか、毎回、ここに来る度に思ってたりする。


 コロナ禍があって、ここに来たのは3年か、4年か、それくらいは久しぶりのことだった。


「いらっしゃい……お、にいさん。ひさしぶり。いつものホルモンとラーメンでいい?」


 入って目が合った瞬間、注文まで言い当てられてしまった。


 ここに来ると私はいつも、ホルモン味噌炒めとラーメンを注文して、替え玉をするのだ。


 何より、数年ぶりだというのに、それを覚えてくれているというのが、嬉しい。


 そんな嬉しさを噛みしめながら、柚子胡椒をちょろっと付けたホルモン味噌炒めのキャベツを味わう。この味、どうして家では出せないんだろうか。やはりプロの腕なのか。


 ラーメンをずるずるとすすって、替え玉をして、にこやかに支払いを済ませる。


「今日は、なに、出張?」

「いや、明日の飛行機で仙台。旅行に行くから」

「へぇ~、いいね~。まいど~」


 ただの店員と、ただの客。それだけの関係。互いに名前も知らない。

 それなのに、覚えていてくれる。

 客商売とは、こういうものなのかもしれない。


 ……別に私がインパクトに残るタイプだとか、そういうことではないよ? たぶん。


 腹ごなしも兼ねて、歩いてホテルへと戻る。もう道は間違えなかったが、ホテルの部屋でノパソを開いてメールを確認すると、ANAから何度も連絡が!


 なんと、予約してた仙台行きが欠航らしい。マジか。機材が用意できないとか。


 おいおい。旅行が開始前に終了じゃねーか。


 そう思いながら確認した、続けて入っているメールでは、欠航の代わりに臨時便が30分遅れくらいで飛ぶらしい。明日、空港のカウンターで申し出ればいいとのこと。


 いきなり旅行終了? とか思ってたから、めちゃくちゃ安心した。


 ただ、30分、時間がずれると、その日の予定は大きく狂う可能性もある。そこは覚悟しようと、そう思って、大人しく寝た。






 翌朝、地下鉄で空港に移動した。福岡はメインの博多駅と空港がとても近くてナイスな場所だ。国内線なら、たいていの場所に飛べるのもいい。羽田とか、モノレールでも京急でも、東京からちょっと、かかるよね……。伊丹も、関空も、梅田からだとちょっと……。


 メールにあった通り、ANAのカウンターへ行った。機材の種類の違いで、あぶれて乗れなくなったら大変だと思って、かなり早めに、だ。


 たまたま、並んで、順番に進み、イケメンな空港男子の前に出た。


「あ、すみません。仙台行き、欠航ってメールが入って、カウンターで別の便に変えてくれるって聞いてきたんですけど……」

「チケットはございますか?」

「チケットレスなんで……クレカでいいです?」

「あ、はい。お願いします……あー、欠航ですね。申し訳ありません。では、12時台の仙台行きに……」

「はぁ!?」


 イケメンな空港男子に最後まで言わせず、不機嫌に遮った。


「メールだと同じ10時台の臨時便に変更できるってあったんですけど? まさか、この時間でもうそれが埋まったって言うんですか? カウンターに直接って書いてありましたケド?」


 いやいやいやいや。10時台の便を12時台に変更されて、朝の8時から12時までこの空港のどこで何をしろと? そもそも、そういう時間へ変更されないように早く来たというのに。


 思わず口調が強くなってしまったのは、相手がイケメンだからではない。たぶん。


「あ、えっと……少々、お待ちください………………あー、ありました。はい。10時40分発の仙台行きの臨時便、こちらへの変更でよろしいですか?」

「よろしいも何も、こっちはそれに乗れると思ってここに来たんですケド? まさか、空いてない?」

「い、いえ、大丈夫です。こちらに変更させて頂きます……」


 よかった。どうやら、予定は30分ずれるだけで済みそうだ。


 ただ、飛ぶのは10時台でも、今はまだ8時台だ。時間はどうにかして潰さないと。空港内の飲食店はまだやってないし……。


 でも、本屋はやってた。ありがたい。Dジェネの6巻がないかなー、と。サイモンたちアメリカチームが表紙なんだよなー、と。探してみるが、見つからない。でも、客は少ないのでレジで聞いてみた。


「あー、発売日ですね。でも、福岡は2、3日、遅れるんですよね」


 この大都会、福岡でもダメなのか!?

 そんな衝撃を受けつつ、重たいバックパックを背負ったまま、ふらふらと空港内を彷徨う。


 そのうち、時間になったので、いろいろと通り抜けて、本来の予定よりは30分遅れとはいえ、無事、仙台へと飛び立つことができた。


 それにしても、だ。


 乗客には丁寧に、メールで欠航を知らせて、さらにはその振替の臨時便についても知らせておいて、係員の方は何も知らない感じなのは……イケメンくん本人の資質の問題なのか、朝礼とかで情報共有できてない組織的な課題なのか……。


 ラーメン屋の店員さんに比べて、航空大手の係員さんがちょっと残念な気がしたのだ。


 ……ちなみに、この日の夕方。くだんのDジェネ6巻は、仙台駅のエスパルにあるくまざわ書店で普通に売ってた。仙台はフツーにあるのかよ!? って思った。その場ですぐに買ったけど。ごめんなさい、明日からの鉄旅に時間潰しはすぐ必要なんです。地元の書店を裏切った私をどうか許して。


 東京に近いって、有利なんだね……。





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