第37話 日本一とは何なのだろうか? ~日本一の鉄旅~



 さて。

 再びこの地にやってくる日がこようとは!


 前回は、とある旅行のついでに立ち寄っただけだった。ちょっとした気まぐれだ。みかんの道だったのだ。


 今回は……。


 この地の向こうが目的地なので、まあ、スタート地点として、やってきたとでも言っておこうか。


 山口県下関市。歴史ある観光都市で、本州と九州を繋ぐ街。


 またしても、スタートは関門トンネル人道である。


 道路の向こうの大砲とか、武蔵と弁慶とかはほっといて、エレベーターのボタンをポチっとな。


 大きなエレベーターと小さなエレベーターがあって、どっちでも地下へと進める。


 地下に降り立つとオープンスペースに色々な展示物が……うん? 前回の時と違って、身体は子どもで中身は高校生の名探偵がいなくなってる? 期間限定だったのか? まあ、いい。


 壁面の関門海峡の地図を見て、その横の名所案内も見る。ただし、ここを歩いて下関までやってきた人が、この名所を回るような気はしない。名所を回る人は車でやってくる気がする……。


 人道は右側通行。スタート地点には「門司」と書かれている。矢印付で。


 歩き始めると下りです。


 途中、小さな注意喚起の黄色い三角の置物があった。『足元にご注意下さい』だと? どういうことかと思えば、すこ~しだけ、人道に水気がある。どこかからにじみ出て来たのかもしれない。


 足元が滑るぞ、ということだろうと思う。


 だが、私は、この水が突然、一気に溢れ出し、今、ここを歩いている人たち全員が沸き上がって流れてくる水に追われて、約400メートルの坂道ダッシュで逃げて、エレベーター前に押し寄せ、オレが先だ、おまえは邪魔だ、と争い、殴り合い、やめなさい、とおじいさんがそれを止めて、ここは未来ある若者を優先しよう。わしらは乗らずに次を待つ、その代わり、孫を……この子のことを頼む……みたいな感じで、殴り合ってた若者が、オレたちはなんて最低な人間なんだ……って反省するパニックドラマを想像した(創造した?)。


 申し訳ない、日本の若者たちよ。私の中では君たちはそんな感じだぜ!?


 ……まあ、ここを歩いてる人数から言えば、あの大きなエレベーターには全員乗れそうだから、そんなパニックは発生しないんでしょうけれどね。


 でも、海底トンネルの足元が濡れてるって、ちょっとしたホラーじゃないですかね? え? 違う? そんなことはない? あ、そうですか……。


 まあ、関門トンネル人道のホラーと言えば、海底トンネルなのに、どこかから車の走行音らしきものが聞こえてくることですかね?


 ここの構造から考えると、関門トンネルの車道がすぐそばにあるので、当たり前なんですけれど、人道で人間しか基本、いないのに、どこからか響く車の音……って、これもちょっとホラーっぽくないでしょうかね?


 そこにないはずの車の音が後ろから聞こえてきて、思わず振り返ると……って!?


 まあ、妄想豊かに関門トンネル人道を楽しみます。


 門司側からスーパーカブを押してくる人も発見しました。後ろの荷台にクーラーボックスがふたつ、括りつけられてましたね。魚でも入ってるのかな? 人道なので乗れないから押すしかないのでちょっと大変そうでした。


 約800メートルの間に、そんなこんなを色々と考えつつ、門司側に到着して、エレベーターで上へ。


 夏だ。暑い。でも歩かなければなりません。海沿いを、対岸の下関側を見ながら歩く。


 意外と、釣りしてる人が多い。投げ釣り。下関側では見なかったので、何か理由があるのだろうか。


 和布刈公園へと近づくと、プールがある。夏の風物詩。ただし、お客は少な目な感じ。意外とここって穴場なのでは? 子どもの頃、夏には自転車で通った市民プールを思い出した。50円でそばかうどんが食べられたという記憶がある……。


 で、本日の目的となる北九州銀行レトロライン、門司港レトロ観光列車、『潮風号』の……前に。


 和布刈公園で展示されているEF30を発見!? いや、展示されているのか、放置されているのかは微妙な感じ。野草に埋もれて廃墟化してるような気も……。


 それでも、下関側の大砲とか、武蔵と小次郎とかよりは、EF30がある門司側の方がすっごく羨ましい気がするのは私だけだろうか……。


 後ろには客車もあるけれど、こっちも野草に埋もれてる……。


 ここの管理責任者は誰なんだ……? もったいない……。


 ま、まあ、それは今回の目的ではないので、先へと進んで、関門海峡めかり駅で、1日乗車券を購入し、乗車待ちの列の先頭に並ぶ。今回、団体客がいるらしくて、一般客の先頭ではあるが、団体が先に案内されるらしい。ムムム……。


 JR九州のD&S列車の切符の確保などで、いつも団体予約に負け越している私としては、こういう扱いに悲しくなってしまうのだ。


 団体客が1号車を占領するように乗り込み、お待たせしましたー、っとイケメンくんが一般客を案内する。先頭の私は、2号車の一番奥、今回の場合は、進行方向の一番前にあたる座席をキープ。たとえそれを見て泣きそうな子どもがいたとしても譲らないぞ……。

https://discordapp.com/channels/1211498324264357888/1244275604275204107/1244693240125325433


 窓が完全に開放されて風が通る代わりに、エアコンとかはない。そりゃそうだ。仕方がない。その窓から見えた駅名看板を撮影。で、気づいた。『九州最北端の駅』って書いてある!?


 頭の中で九州地方の地図を展開し、自分の知識で埋めていく。私の中で、九州最北端の駅は門司港駅のはずだったんだけれど……。


 あ、確かに! このポジションの方が門司港駅よりも北になる!?


 今まで、トロッコ列車だとか、観光列車だとかで、ちょっと軽く見てて、特に乗ろうとしなかったため、気づかなかった事実に私は打ちのめされていた。


 なんというもったいないことを……。


 ……いや、今回、これに乗ることを目的としてやってきたのだ。私は九州最北端の駅を今、間違いなく制覇したのだ。


 あーっっっ。知らなかったことが恥ずかしい!?


 そんな私の心の羞恥心を置き去りにして、潮風号が動き出す。


 トンネルでの演出も面白いし、ノーフォーク広場駅と出光美術館駅の間から見える関門橋の姿もなかなか味がある。


 出光美術館駅とか……海賊と呼ばれた男が海賊と呼ばれた町じゃないですか!? リアルワンピースだぜ! お金を稼いで美術館を残すとか、やっぱり偉人さんは違う。


 沿線を歩く人に手を振られ、それに手を振り返して、到着したのは『九州鉄道記念館駅』だ。ふふふ、久しぶりの九州鉄道記念館。

https://discordapp.com/channels/1211498324264357888/1244275604275204107/1244695758167343266


 なんと、ただいま、20周年記念ということで、イベントがいっぱいだ。


 ミニ新幹線運行とか、軌道自転車乗車体験とか、Nゲージ運転体験とか、そういうのも面白そうだけれど、そっちは少年少女に任せておいて、私の目的は「キハ07」の客室公開なのだ!


 これは他の展示車両と違って、いつもは公開されてないので、このチャンス、逃す訳にはいかない。


 潮風号の1日乗車券を提示すれば、九州鉄道記念館は団体割引が適用されるので、割引料金で突入する。いつもは駐車場側の上の入口から入るので、こっちから入るのは新鮮な感じ。


 入口にパトカーがいたけれど、私を捕まえにきたはずがないので全力でスルーだ。

https://discordapp.com/channels/1211498324264357888/1249054356574179439/1250653530927136769


 中へ入ると、C59が「あかつき」のヘッドマークを付けてお出迎え。最高!


 続いてEF10がそこにいる。こうしてきっちりと古い電気機関車が保存・展示されてるのをみると、和布刈公園のEF30がとっても可哀想な気がしてくる。


 さらにはED72がいる。交流電化で九州を走った機関車で、かつては動くホテルと称された時代のブルートレインを牽引していたこともある。こっちにも何か、ヘッドマークを付けてほしいところ。






 そして、本日のメインイベント。「キハ07」がやってくる。


 ……おっと、靴を脱げ、と。どうやら土足禁止らしい。もちろん、粛々と従いますとも。


 うわぁ~、この古い、少しカビた感じの匂いが、ヤバい。今まで封印されてた感がありまくる。


 前後、どっちにも運転席があるんだけれど、この雑然とした配線が全部見える感じ、最高! あと、運転席、せまっっ!


 現在は重要文化財の指定を受けているので、ひょっとしたら中に入れるのはこれが最後、なんてこともあるかもしれない。来て良かった。

https://discordapp.com/channels/1211498324264357888/1249054356574179439/1250653897471692902


 じっくりと堪能する。


 ……浦和の御料車も、入れるチャンスとか、あるのかなぁ。


 そんなことをふと思った。


 今度、京都へ行ったら旧梅小路のてっぱくに行こう。そう心に誓った。






 さて、メインイベントが終わっても、旅は終わらない。次はクハ481だ。いわゆる「こだま」型の特急車両。ノーズが長い感じは今の新幹線にも通じるところがある。米子で見た「やくも」なんかのもうひとつ古いタイプの国鉄特急だ。


 昭和感が満載だが、それでも既に現代的ではある。車内に残された「旅先案内板」と書かれた九州の路線図と小さな特急の写真をみれば、意外と最近まで走っていたと分かる。まあ、最近といっても、1995年なんだが……。


 続けて、九州鉄道記念館といえばコレ! クハネ581だ!


 ここに「ネ」の字が入る意味。それは「寝る」ということ! つまり、寝台車だ! しかも、お昼は普通の座席特急で、夜は寝台になるという、両用型の車両だ。ヘッドマークはもちろん「月光」である。月光型とまで呼ばれたのだ。


 残念ながら、上段のベッドは下ろしてないらしい。あれ? 前は下ろして展示していたような……?


 旧国鉄の特急色といえば、クリーム色に赤のラインだが、「ネ」の字が入るこの車両は、クリーム色にブルーラインだ。寝台にもなるからブルートレインを意識したに違いない。



 荷物置きとなる網棚(網ではないけれど)の造りがベッドを支えるようになってるところとか、すっごく興味深い。


 運行時間によって車内の様子が一変するなんて、浪漫しかない……。


 そして、車両展示のラストを飾るのは……「スハネフ14」だ! さっきも言ったが「ネ」の字が入るのは寝台車です! テールマークは「さくら」だ。


 ブルートレインの客車をホテルにしたりしてるところはそれなりにあるから、今でも泊まろうと思えば、これに泊まることはできるんだけれど。


 泊まって、それが走ることは、たぶん、もう、経験できない。


 これは2段ベッドだ。端っこだけは壁があるので2人用になってることとか、4人用で窓側にあるはしごがなんか不安定な感じがすることとか、2段ベッドの上の、通路側には実は荷物がいっぱい置けたりすることとか、通路にはパタンと倒して座れる座席が隠されてることとか……。


 大阪から東京まで、「銀河」に乗って、真夜中にこの通路の座席を倒して座り、車窓を眺め続けたこととか、色々な思い出が蘇る。


 ……やっぱり、サンライズも、最初から最後まで、1度、乗るべきかもな。前は東京から岡山までで降りたし。


 旅は、新たな旅を誘う。どうもそうらしい。




 鉄道記念館は、建物自体も文化財だ。中は空調も整っていて、涼しい。もちろん、ずらっと見学はする。もう何回目か分からないので、じっくりと見ることはないけれど。


 お土産スペースで、寝台特急ヘッドマークの缶バッジが! やばい、つい買ってしまうところだった。我が家には既に、ポポンデッタで買ったヘッドマークキーホルダーが玄関に展示されている。私が乗ったことがある、出雲、なは/あかつき、はやぶさ/富士、日本海、あけぼの、の5つである。キーホルダーなのに鍵は付いてない。ちなみに鍵を付けてるキーホルダーは山寺駅の駅名看板と、かわせみ・やませみのミニチュアだったりする。


 鉄道模型の大ジオラマは、こういう「てっぱく」関係では定番だ。もちろん九州鉄道記念館にもある。私も子どもの頃、大阪の弁天町で、これにかぶりついていた。


 建物を出て、ミニトレインの方へ行く。ここではそこまで行列にはなっていない。浦和は大行列だったというのに。


 ちょうど、陸橋を渡っていると、青ソニックとゆふいんの森がすれ違っていた。なかなか面白い構図だと思う。写真を撮り損ねたのは残念だ。


 その先に、運転席の展示が3つ、ある。


 まさに首切りとか、首狩りとか、そういう状態で、運転席だけが切り取られて展示されている。


 ここにEF30がいるのだ。ここでは首切り、和布刈公園では野草に埋もれ、どちらにしてもちょっと悲しい。関門トンネルを走った名車両なのに。


 とはいえ、運転席は鉄ちゃんの浪漫でもある。もちろん、楽しんだ。


 そして、九州鉄道記念館を後にして、一度、門司港駅へ。


 門司港駅も確か、文化財の指定を受けていたはず。日光に行った時に、ここを思い出したくらいだ。駅前の噴水で戯れる子どもの姿に夏を感じる。

https://discordapp.com/channels/1211498324264357888/1244275604275204107/1244696838045564928


 さて、門司港駅は、果ての駅としては4線もあるため、果て感がいまいち、ないのだ。そこは日光駅とは違う。


 だが、駅舎はやっぱり、日光駅に通じるものがある。


 残念ながら、レトロラインの発車時刻が迫っていたため、今回はゆっくり見ることはできなかった。


 帰りは団体客はおらず、一般客のみ。今度は1号車の一番前、海側に陣取り、車窓を楽しみながら戻っていく。


 日本一短い鉄道路線であり、また、日本一遅い最高速度、時速15キロで進むこのトロッコ列車。実は日本一がふたつもある!? しかも、関門海峡の潮の流れは時速18キロなのでそれよりも遅いらしい……。


 沿線の人たちと手を振り合うのも行きと同じ。


 ただし、めかりのプールの監視員のみなさん! こっちに手を振ってる場合じゃないでしょ? 子どもたちを見守ってあげて!? 客は少なくてもいつ事故が起きるか分からないよ!?


 来た道を戻り、関門トンネル人道も歩いて、下関側へ出た。


 歩いて汗だく、夏の熱さで汗だくと、なかなか大変だったが、いい思い出はできたと思う。




 九州鉄道記念館と門司港レトロ観光列車、おすすめします。






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