第5話 後悔した過去と、この先、後悔しないための、日本海の旅
青春18きっぷ、最後の1回分で行きたいと考えていたのは、後悔の地、余部。
かつては鉄橋があったところに、今はコンクリート橋がある。いつか行きたいと思っていた、余部鉄橋。行きたいという思いだけで、行くことはなく、架け替え工事によってコンクリート橋となったのだ。
鉄橋時代、強風で山陰本線が停まったという話を聞く度に、なかなかすごい場所だと、そう感じ、一度は行きたいと思っていた。強風による痛ましい事故の話もある。ご冥福をお祈りします。
そして、結局、行く機会を作らず、二度とその鉄橋を渡ることはできなくなってしまった、という後悔の地。
このまま、コンクリート橋になったからと、行かないままでもいいものか。そんな疑問があった。
行かずに後悔するのなら、行っておいた方がいい。そう思っての、今回の旅。
朝、6時少し前の、福知山線に乗る。この路線も痛ましい事故の記憶がある。ご冥福をお祈りします。
淀川を眺めてからは、都市部を走る車窓をぼんやりと見る。
都市部を複線で抜けてきたが、篠山口駅からは単線だ。車内には、高校生の姿も多い。春の青春18きっぷ最終日は、既に春休みを終えた高校生が普通に通学しているのだ。
今回の青春18きっぷ、5回のうちの最後の1回分を春の最終日で使うなんて、なかなか粋だと、個人的には思っていたりもする。
篠山口駅からしばらくは、篠山川の、水と岩のハーモニーが目を喜ばせてくれる。それほど長い区間ではないが、渓谷の景色がとても美しい。
その後しばらくは道路沿いを走りつつ、何度もトンネルを抜けて、明智光秀の聖地、福知山に到着する。
さて、ここで私は、青春の日々を捨てて、裏切り、ダンディな大人として追加で乗車券と特急券を用意した。青春18きっぷは特急に乗れない切符なのだ。
鈍行旅に特急を織り込むことを私は『贅沢ワープ』と勝手に呼称している。そんな呼称を脳内で使うなんて私の脳は故障していると言われても反論できそうもない。脳内どころか、ついにこんなエッセイで表に出してしまったではないか。どうする気だ。
ちなみに乗り放題切符の区間外の路線に追加で切符を購入して乗るパターンについては、『課金プレイ』と呼称している。さらにそれで特急などを利用すれば『贅沢課金ワープ』になる。熱海へ行った時の下田までの伊豆急行が『課金プレイ』で、その帰りに伊東まで特急『踊り子』号に乗ったことが『贅沢課金ワープ』になる。うん。伝わらないかも。わかる人だけわかればいい。
今回は特急『きのさき』号だ。福知山駅から城崎温泉駅まで『贅沢ワープ』をすることで、約30分間の城崎温泉での滞在時間を買うのだ。時間の売買なのだ。
そして始まる山陰本線の旅。
山陰本線は在来線では日本最長の路線だ。山陰本線は京都から始まるので、残念ながら大阪スタートの今回の旅では全路線制覇とはならないが、日本海を楽しむ路線としては北陸本線や羽越本線と並ぶ、好路線でもある。
特急『きのさき』はノーフェイスなのっぺらぼうの287系だ。ヘッドマークやテールマークがないタイプなので、本当はちょっと残念な気持ちもある。JRが懐かしの入場券とやらを販売しているが、それを思わず買いたくなるのが私なのだ。
https://discordapp.com/channels/1211498324264357888/1252642655091818567/1253735985204690944
そんなこんなで城崎温泉駅に到着して、温泉街へと繋がる商店街を足早に抜けていく。
ここって風景は完全に山なのに、カニさんがイチオシなんですよねー。日本海が近いから。
川と柳の温泉街の風景を心におさめて、私的なメインイベント、コナンのゲンタが絶賛した蟹まんのお店で、蟹まんではなく、肉まんとコロッケ、メンチカツを購入して、再び商店街を早足で戻る。
駅前の足湯に入りつつ、まずはコロッケ、次にメンチカツ、最後に肉まんを頂きました。
あとは有名なたまごぱんなるものを食べようと思っていたのですが……。
なぜか、私より先に買いに来たご夫婦がず~~~~~~~~っとレジ前を占領して、これっぽっちも買えそうな雰囲気がなく、次の列車の時間が迫っていたこともあって、あきらめました。
……こんな接客のお店なら、このためにもう一度ここに、とは思いません。はい。
さて、城崎温泉駅から改めて鈍行さまで出発して、青春の旅に戻る。やっぱり青春18きっぷは最強だ。
佐津駅を過ぎたくらいから、海とトンネルを繰り返すようになっていく。「津」の字はやっぱりそういう意味があるのだ。以前、旅した、三陸鉄道を思い出す。リアス海岸を走る路線は、そういう共通点がある。
山陰本線は本線という名だが、完全にローカル線の雰囲気。それがいいのだ。
どの駅も、ほとんど降りない、ほとんど乗らない。そんな感じ。
そして、今回の旅のメインイベント、餘部駅へとやってくる。
トンネルを抜けると、橋の上から日本海が見える。その橋を渡り切って、停車したら、そこが餘部駅なのだ。
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ここまでの駅と違って、一気に乗客が降りていく。私と同じ目的の人がたくさんいたらしい。
何人もが何枚もの写真を撮っていく。
ホームには、かつて鉄橋だった廃材によるベンチがあった。
ホームの向こうに、かつての線路が残されていて、それが遺構として一部が残された鉄橋へと繋がっている。もちろん、鉄橋はどこにも繋がらず、途切れているが。
遺された鉄橋部分は、見学施設として保存され、その上を歩ける。もちろん、鉄橋そのものの上を歩く訳ではないのだが。
餘部の駅看板を、その後ろに日本海が入るようにして撮影した。
待合室にあるノートの隅っこに日付と名前を書き込んだ。
残された線路の上を歩いてみた。
遺構の一番先の、鉄橋が途切れた部分を覗き込んだ。高所恐怖症タイプの人には無理だろう。
現在のコンクリート橋とかつての鉄橋部分が両方見えるように写真を撮影した。
入線してくる特急「はまかぜ」が余部橋りょうを渡ってくる姿を動画におさめた。残念ながら餘部駅は通過なのだ。
余部橋りょうの下にある道の駅に行き、お土産を買った。昼食は、先に城崎温泉でブランチとして食べ終えていたので食べていない。
エレベーターはガラス張りなので、そこから見える鉄橋の橋脚部分を余すところなく動画におさめた。余部なのに、余すところなくとはこれいかに。
このエレベーターがこの地区に住む人たちにとって、実は最大の恩恵だったのではないか、とか、そんなことを思ってしまった。だって、餘部駅までの登りを歩くの、めっちゃ大変だったんですよ、うん。
そうして。
ここにやってくる観光客がやりそうなことをひと通り全部、やり終えてから。
ふと。
……やっぱり、鉄橋の上を列車が走っているうちに、来とけばよかったなぁ。
なんてことを思うのだ。
結局、後悔は消えない。でも、ここに来て良かった。
餘部駅を発車する列車に乗り込み、青春旅を再開する。目指すは、鳥取。北近畿から山陰へ。
乗り込む私と、それに対する、降りる乗客。
観光客らしい人たちの中に、ふと、制服を着た女子高生がいるのを見つけ、ああ、ここも地元の人にとっては日常の大切な駅なのだと思い至る。
どうか、私のような観光客が、地元の方の騒音となり過ぎませんように。
身勝手ながら、そんなことを願ってしまったのだった。
鳥取へ向かう道中、ふと気づいたのは、タブレットの充電がやばい、ということ。
車窓から荒れ果てた滝山信号場を撮影した時には、もう限界だろうと思った。
残る力を振り絞り、検索をかけて、解決策を考え出す。
それが鳥取~米子間の『贅沢ワープ』だった。
この区間で特急『スーパーまつかぜ』を利用することによって、鳥取駅で充電する時間を確保するのだ。確認したいメールもあったので、この作戦を実行した。
そして、私は、またしても青春の時を捨て、裏切り、ダンディな大人として、乗車券と特急券を購入した。もちろんクレカで。
鳥取駅のドトールさんで、タブレットを約1時間、じっくりと充電する。その間、ノパソでメールの確認と返信を行う。もちろん、黒糖ラテとかなんとかと、あと、モンブランっぽいものも注文したからただの盗電行為ではないと思いたい。
米子駅までは『贅沢ワープ』だ。これは仕方なかったんだと、心で言い訳する。
そして、米子では青春の旅へと復活を果たした。ここから出雲市までは水郷の車窓が待っている。
しかし、その前に、私の目の前に特急『やくも』が入線してくる! これは今日の午前中に乗った『きのさき』と違って、381系でヘッドマークがあるタイプなのだ! やべえ! しかも復刻の国鉄カラーではないか! なんということでしょう! ああ、せっかくの充電が……。
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中海と宍道湖はどちらもかなり大きな湖で、汽水湖でもある。車窓からの見応えは十分なのだが、ああ、ここでも充電が……。
それにしても松江での停車時間の長さはなんとかならんものか……。
夕方となった今、高校生はもちろん、仕事を終えた社会人も含めて、車内は人だらけ。東京や大阪の満員電車よりははるかにマシとはいえ、ボックスシートタイプの車両での混雑感はやっぱり大変だ。
宍道湖がみえなくなって、これで充電も大丈夫……と思っていたら!
なんと単線の待ち合わせで、出雲市駅の一歩手前、直江駅にて、『TWILIGHT EXPRESS 瑞風』が!
もう私のタブレットの充電を殺すつもりでJR西は罠を仕掛けているに違いない!? (そんな訳はないが混乱しているのでお許しを)。
そんなこんなの事件がありながら、出雲市駅で、この日、最後の乗換。益田行き。
やっぱり日本海が美しいし、このタイミングだと日本海へと陽が沈むんだよね……ああ、充電が死んでいく……。
残念ながら、赤い夕陽、という感じではなかったんだが、それでも、沈む太陽と日本海という車窓はなかなか乙なもの。
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次第に車窓は暗闇へと消えていき、駅舎が素敵な静間駅ぐらいになると、残念ながら写真を撮っても暗くてイマイチという状態に。むしろ、車窓は鏡状態で、車内を映す始末。
車窓はあきらめて、それなら暇潰しにネット小説でも……って、タブレットの充電があっっ!?
いつの間にか乗客は2両編成の列車に私だけの貸切となって、ワンマン運行中の運転手との二人旅で到着した益田駅。降りた車両を撮影した時のタブレットの充電は残り2%だった。ぎりぎりセーフだ……。
青春旅のしめくくりはこの益田駅。明日は最寄りの新幹線の駅となる新山口へ向かう。どこが最寄りだ。県が違うじゃねーか。あ、そもそも島根県は新幹線が通ってないや。これは島根県民も花巻にならってネクタイをしめて百姓一揆を起こすべきなのか。むしろここからだったら石見空港の方が近いぞ? ANAだったよな? あ、でも、今、マイルは貯まってないか……。
余部橋りょうの余韻を、タブレットの充電ピンチが潰した変な旅路も、ここまで。
おあとがよろしいようで。
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