第23話 もう何度行ったのか、数え切れないお気に入りの場所。



 去年(2022年)の年末は、小説を書きたい欲が発散されていて、素直に実家に帰ることにした。


 その途中に立ち寄ったのが奈良だ。


 いつからかは忘れたが、奈良、なんでか大好きなのだ。もう何度訪れたか、思い出せないくらいである。


 大阪よりも、奈良。

 神戸よりも、奈良。

 京都よりも、奈良。


 あ、でも、万城目学大先生の『鹿男あをによし』はもちろん大好きなのですが、小説としては『鴨川ホルモー』の方がもっと好き。それでも、京都より、奈良。そこは譲れない(あくまでも個人の感想です)。


 何というか、『鹿男あをによし』はドラマも良かったですし。なろうのジャンルでならローファンタジーでしょうか? まあ、純文ですが。でも、ああいう作品こそ、ファンタジーなんじゃないかって思うんですよ。女優さんの中ではあの子が個人的に一番好きかもしれない。「マイ鹿です、先生」って言われてみたい(あくまでも個人の感想です)。


 恩田陸大先生の『夜のピクニック』の映画で主演だったあのピュアで可愛いデカワンコが、『ピースオブケーク』で濡れ場を演じたのを見た時は何故かNTRたような気持ちになり、血の涙を流しました(あくまでも個人の感想です)。


 そんなこんなで、とにかく、奈良が、好き。


 お昼頃、奈良に突入。近鉄を新大宮で降りて、いつものお店で、台湾まぜそばとあぶりもつ丼を頂きます。めっちゃ美味しい。丼ものを頼んでるのに、まぜそばにはもちろん追いメシです。


 いつもの……といっても、コロナ中は一度も行けてなかったので、久しぶりではあったかな。


 JR奈良駅まで歩いて、ホテルで荷物を預けると、奈良を歩く。ただ歩く。


 年末年始は、宿に花園出場チームの看板があったりしておもしろい。ワールドカップ以降も、ラグビーは盛り上がってるのだろうか。今はWBCかも(もう既にやや古い)。うろうろと歩いて何チーム分の宿が見つけられるか、楽しんでみたり。


 今回はどこに行こうか。一番有名なのは東大寺の大仏だろう。でも、新薬師寺の十二神将とか、かなり見応えがある。大仏はまたいつか大晦日に泊まる時に、夜から初詣に行けば無料だったはず。しかも年に2回ぐらいしか開かない顔の前の扉が開くんじゃなかったか。


 そんなことをいろいろと考えて、とりあえず興福寺を目指す。


 興福寺の国宝館へと入り、見学のメインは阿修羅像にする。惚れ惚れするほどかっこいい。なんなんだこれはいったい。すごすぎる。


 これを全国の博物館に運んだとか、ドキュメンタリーで放送してたし、実際、九州国立博物館まで見に行ったんだが、なんてことをするんだろう。九国で、満員御礼、学芸員さんが「では動きます、右へ回ってくださーい。はい」みたいな感じで阿修羅像を一周させられたのは笑えた。懐かしい。


 興福寺の国宝館ではそこまで満員にはならないから、じっくりと見ていられる。1時間ぐらいは堪能した。ただし背中側は見えない。残念。


 商店街を歩いて、いつものコロッケ屋さんを目指した。正確には肉屋さんだが。途中、高速もちつきで有名なお店とか、きつねうどんが有名なお店とか、お気に入りの手ぬぐい屋さんとか、楽しみながら。


 ところが……潰れてました。


 嘘だ~、マジか~。もうあのコロッケが、メンチカツが、食べられないとは……。くそっ、コロナのヤツめ。なんてことを。もっとも、コロナが原因とは限らないんだが。


 ショックを受けて、あてもなくうろうろとしていると、あれ? この名前、なんか覚えがあるな? というお店を発見した。


 その昔、近鉄奈良駅の近くにあったおだんご屋さん。いつの間にかなくなってたので悲しかった記憶がある。甘いみたらしだけじゃなくて、甘くないみたらしが美味しかった。甘くないだんごと言えば名古屋の八事の霊園のところにあるヤツが大好きなんだが、ここのみたらしも好きだった。


 中に入ってみたら、同じお店だった。昔、近鉄奈良駅の方の、あっちにありましたよね? とおばちゃんに聞いてみたら、その通りだと。


 知らなかった。移転してただけだったなんて!? 潰れたと思い込んでたのに!? 次からはここに通うぞ……。


 JR奈良駅近くのホテルへと戻る。


 途中、お気に入りのはちみつ屋さんでソフトクリームを頂く。相変わらず美味しい。ていうか、このお店、どこの観光地に行っても見るからな。すごいな。


 大宰府でも、宮島でも、銀閣寺でも、嵐山でも、草津温泉でも、日光でも、湯布院でも、黒川温泉でも、熱海温泉でも見た記憶がある。マジですごいな、全国展開。どんだけあるん? おまえこそ全国いろいろ行っとるやないか、という突っ込みは聞き流そう。


 ホテルに戻ってのんびり過ごして一泊し、大晦日を迎える。


 ホテルに荷物を預けて、近鉄を利用し、大和西大寺で乗り換えた。そして、西ノ京で降りる。


 駅から歩いてすぐ、薬師寺の入口がある。ここも久しぶりに来た。


 もちろん、お目当ては東塔。西塔も嫌いではないが、やっぱり東塔。約1300年前にこれを建築したって、どんな技術力やねん……。


 飛鳥・奈良の頃は、巨大な古墳で威信を示す時代から、高い技術力で建てる寺院で威信を示すようになっていく。もちろん、信仰の変遷もあるんだが。


 古墳を見て、すげぇ~、やべぇ~、って思ってた人たちが、お寺を見て、すげぇ~、やべぇ~、って思うように変化していくのかと思うと、いわゆる平民的な立場の人も文化的に成長していくんだと感じられる。社会全体の成熟度が少しずつ進んでいくから、歴史っておもしろい。


 そういえば高校の時、カタカナ嫌いのクラスメイトが世界史じゃなくて日本史を選択してたんだが、フェノロサが覚えられん、なんで日本史でカタカナ出てくんねんって、怒ってた。


 テストでフェロノサって書いてバツにされたらしい。


 ふとそんなことを思い出して笑った。確か、ペリーにも文句言わんと、あれもカタカナやろ、とか、からかったはず。懐かしい。


 私は漢字の方が嫌いで世界史を選択して、なんで中国史の漢字はこんなにムズいんや、と怒ってたと思う。ほら、画数的にカタカナの方が圧倒的に楽だし。


 最近、ふと、そういう昔のことを思い出す。脳がそういう動きをしてしまうんだろうか。それだけ歳をとったのかもしれない。






 薬師寺からは歩いて移動し、唐招提寺へ。


 前に来た時は、大改修とかなんとかで、まともに見られなかった。その前は見たんだが。


 薬師寺とどっちが有名だろうか。小学校の教科書で鑑真が出てくるから、唐招提寺の方が有名なのかもしれない。


 金堂や講堂の壮大さはもちろん、宝蔵や経蔵の校倉造も味わい深い。


 ふと見ると、テレビカメラが置かれて、スタッフがうろうろしていた。ひょっとしたら、今夜のゆく年くる年のスタッフなんじゃないか、とか、思った。


 一番奥の鑑真和上御廟へ入ると、それまでとは雰囲気が一変した。なんだか、清浄な空間で、なんとなく聖地っぽい。静謐な樹木と苔と水の世界。平泉の極楽浄土とは違う何か。


 私は現代の日本人らしく信心はそこまで深くないんだが、それでもどうしてか祈りたいような気持ちにさせられる。そういえば、ここまで唐招提寺の奥に入り込んだのは初めてかもしれない。


 唐招提寺を出て、教科書とかで見た平城京の図を思い出す。東大寺も唐招提寺も薬師寺も、全部その中にあったはずだ。


 実際には鉄道利用で移動しているので、平城京ってすごく広かったんだな、と改めて思う。当時の人はこれを歩いていたのか。






 西ノ京へと戻らずに、近鉄の路線に沿って、反対方向へと歩き続ける。


 見えてくるのは、池と小山。


 垂仁天皇陵だ。


 かなり大きな前方後円墳なんだが、横から見てもあの鍵穴のような形は絶対に判別できないし、想像もできない。これが古墳だと知らずに見たら、ただの池と小山にしか見えないと思う。そもそも気づかないのではなかろうか。


 昔の人は、どこかの山の上とかから見て、あの形を知っていたのだろうか。


 それでも、この大きさのものが人工物なんだと思うと、やっぱりすごいと感じる。いったいどれだけの人を犠牲にして造営されたのだろうか。


 薬師寺で当時の建築技術に感動し、垂仁天皇陵で当時の土木技術に感動する。なんだか、ひとつぶで二度美味しいみたいな場所だ。


 尼ヶ辻から近鉄に乗り、大和西大寺で乗り換え、近鉄奈良へと戻る。そこからJR奈良駅までは歩いて、ホテルで荷物を回収し、JRを利用して実家を目指した。


 年末の奈良旅は楽しい。


 なお、実家で紅白のあと、ゆく年くる年を見ていると唐招提寺が出てきて、あ、やっぱりと思って年を越した。


 おあとがよろしいようで。





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