第10話 熱中症になりそうな夏なのに凍死しそうになったり、目的はちっとも達成できなかったりと、失敗だらけの旅路



 盛岡を出発して、秋田県へと向かう鈍行旅。でも、動き出しは朝の5時台だ。これに乗り遅れると、昼まで盛岡で足止めされてしまう。


 秋田新幹線に乗れば時間のゆとりはあるんだが……。そもそも、角館・大曲方面への鈍行の本数が少ないのは、元々なのか、秋田新幹線ができたからなのか……。


 秋田県は、泊まったことがない都道府県だった。寝台特急で通過したことはあるが。

 今回は、大曲と秋田で2泊する予定だ。


 早朝、盛岡を離れて、角館へ。


 出発時間が早ければ、到着時間も早くなる。早朝から観光地が動き始める訳ではない。到着しても何もできない……ということもない。長旅には、必要な日常の生活が内包されるからだ。


 それは、洗濯。

 既に福岡、仙台、水沢、久慈、盛岡と、5泊してきた。一度、水沢のホテルで洗濯はしたが、そろそろいいタイミングだ。下調べも済んでいる。ワンダーモールタカヤナギというスーパーの敷地にはコインランドリーもあるのだ。


 駅へ向かう高校生たちの流れに逆らうように、コインランドリーを目指して歩く。


 洗濯と乾燥の一体型となったドラム式洗濯機で洗濯を済ませる間に、Dジェネの6巻を読み終えた。洗い終わった衣類をたたんでバックパックへ。


 そして、角館駅へと戻る。それでもまだ朝、早い時間だ。とりあえず、バックパックをコインロッカーに詰め込み、小さいリュックだけにする。どうも、今日はコインなんとかに世話になっている。


 駅からは少し離れているが武家屋敷通りを目指して歩く。街並み保存を意識した看板なんかは、『みちのく小京都』を名乗るだけはある。


 正直なところ、「小」京都と名乗った時点で敗北感を感じてしまう私には、どこか残念観光地という印象があるんだが。そもそも京と名乗って武家屋敷とはこれいかに。小江戸でいいんでは?


 武家屋敷そのものはとってもいい雰囲気だ。それでも知覧の方がもっと雰囲気はいい。やはり道路が広く、しかもアスファルトだからだろうか。知覧は道が狭いんだよな。


 小京都的観光戦略だけだといずれ苦しい気はするが、角館だけでなく、湖や温泉といった近隣観光地とのセットメニューがこのへんの観光戦略だろうから、既に「だけ」ではないんだろう。ただし、そのセットメニューがやや離れてるのが問題だよな。


 ただの観光客にそんなことを思われたとしても大きなお世話だろうが……。


 実際、角館で一番印象に残ったのはとある洋菓子屋さんのカヌレがすっごく美味しかったことだった。また、角館にまた来たいと思ったのは、内陸縦貫鉄道に次は乗りたい、と思ったからだ。もちろん、私が特殊なパターンである可能性は高い。






 コインロッカーからバックパックを取り出して、大曲へと発車する。大曲は今夜のホテルがあるので、ホテルでバックパックを預けて、目指すは横手。


 主目的は『横手焼きそば』のはしご。


 ただ、暑い。ひたすら、暑い。そして、鉄旅の先は、交通機関があまりない……。


 歩いて、歩いて、歩いて、歩く。マジであっちぃ。もう汗だくですよ。


 最初のお店は豚角煮やきそばが有名だ。


 若い頃の沖縄旅行の繰り返しでラフテーにハマったせいか、豚角煮と言われたらとりあえず食べてしまうようになっていた。


 お冷を3杯くらいは飲み干してから、半熟目玉焼きとやきそばのハーモニーに、角煮を加えてしっかりと味わう。これはうまし。大満足。


 次の狙いは黒毛和牛やきそばのお店。残念ながら、最初の店とは、横手駅を挟んだ反対側にある。


 歩いて、歩いて、歩いて、歩く。もちろん、汗だくになる。いや、もう、熱中症の危機なのでは?


 そうして目的の店に……って、本日臨時休業の貼紙が……? マジか……。


 とりあえず、この暑さをなんとかしたい。汗だくだし。とりあえずこの店のすぐ近くにあったふれあいセンターかまくら館に突入した。夏なのにかまくら。ある意味すごい。


 ワンコインで突入したら、一年中かまくら体験ができ……って、いや、マイナス10度の空間に汗だくで入ったら凍え死ぬわっ!? バナナで釘は打てないかもだけど!


 それでも根性でかまくらの中に突入して、やっぱり耐えきれずにすぐに脱出。トータルで2分も中に入ってなかったと思うが、全身が震えてた。寒さで。この逆サウナ、地獄なのでは?


 やばいやばい。夏なのに凍死するとこだった……。


 そのままふれあいセンターで体温が回復するまで自分の体を抱きしめるようにして休憩。


 気を取り直して、下調べしておいた3軒目の牛バラやきそばのお店を目指す。ここからなら駅へと戻る途中にあるし、その場所は来る途中に確認済みだ。


 ……って、本日の営業は終了しました……だと?


 そんな感じで、結局、横手焼きそばのはしごは、達成できず。1軒だけだとはしごとは言えない。既に、追加で別のお店を調べる気力もなく、とぼとぼと横手駅へ歩いて、大人しく大曲へと戻った。


 いや、旅って、思い通りにはならないもんだよねって話ですね。


 ちなみに、ホテルでテレビをつけていると、ニュースで、秋田新幹線に熊がぶつかって遅れたと……。


 いや、やっぱり仙台のバスガイドさん、予言の巫女かなんかじゃね???





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