第3話 広がる海が美しい南国の島、夜の酒盛りで聞いた驚愕の話の思い出がある



 どうしてか、島旅が好きだった。あ、今でも、好きなんだが。最近だと、去年の7月に飛島と佐渡島へ行ったくらいか。鉄旅と島旅、どっちが好きかと聞かれたら甲乙つけがたい。


 昔、偉大な本木修次先生の本を何冊か読んで、気が付けば遠くの島へ旅立つことに憧れて……。


 ブラックな職場で唯一まとまった休みが取れる年末年始に、遠くへ逃げたいというほぼ無意識の逃避行動の結果として、沖縄、それも八重山諸島を目指した。職場の友人とともに。同じ環境だからね、癒しが必要だったんだよ、きっと……。


 実際、何回くらい、行っただろうか。ほぼ毎年のように行った気がする。そんな記憶がある。南の島へ毎年のように。

 当時、『島へ。』という雑誌も創刊されて、それを読んでは「今度はここにも行きたいよな」みたいな話をしてた。二人で島旅プランを立てて、居酒屋で意見交換することがストレス解消とか、やばくないか? よく耐え抜いたよな……。


 そうやって訪問した島の中に、波照間島、という有名な島がある。3回? 4回? それくらいは行ったと思う。フツーは1回で、いや、そもそも1度も行かないのが普通なのではないだろうか。

 有人離島としては日本の最南端の島で、私が行った当時は、まだライブドアのほりえ〇んさんがここの泡盛の「泡波」を紹介する前で、知ってる人は知ってる、という島だった気がする。


 ……今も、私の部屋の机には「泡波」のミニボトルが飾ってあるし、ウォーキングに行く時に波照間島と書かれたTシャツを着ることもある。


 石垣島からは付近の島々への船が出る港があって、そこに島の役場があったはず。竹富町だったかな? 役場が自分たちの町にないって、合理的なんだけれど、面白いと思った。


 まるでジェットコースターのように海を飛び跳ねる船に揺られて行く、いくつもの島々の中に、波照間島もあった。美しい海の中に浮かぶ、穏やかな島。


 船着き場のある港に集まる民宿からの迎えの車。

 左右の視界を遮る背の高いサトウキビ畑。

 そこを抜けて少し下ると、ひたすら視界に美しい海が広がる砂浜。

 ぎゅっと握れば手の中に集まる星砂。

 ロープにつながれたまま草を食む山羊。

 小さな飛行機がひゅーんっと離陸する小さな空港。

 昔の駄菓子屋みたいな、島のお店。


 何もないようでいて、最高の時間が流れるところ。


 初めて行った時は、予約したと思ってた民宿の予約が取れてなくて……。


 めちゃくちゃ親切な他の民宿の方が、空き部屋に入れてくれなかったら野宿するところだった。

 しかも、食事なしのはずなのに、大晦日だからって、鍋とお酒を用意してくれて、私は下戸なのでよくわかんなかったんだが、友人は「うまい。これは、うまい」と言い続けて泡盛を飲み続けてた。


 その夜は最南端の浜で年越しをしよう、とか言ってたんだが、友人は酔いつぶれて「うーん、ここがいいー」とか言ってた。

 私も疲れてたこともあって、そのままその民宿で紅白を見ながら年越しを済ませたのはいい思い出だ。次の年か、その次の年に、最南端で年越しした時に笑い話としてみんなで笑った記憶がある。


 その1回目での経験によって、ここがお気に入りの目的地、毎年の年越しの地、みたいな感じに認定されて、何年間か、年末年始に行くことになった。


 それくらい、この島での時間に、癒されてた。本当に、ボロボロにされた心と身体を癒してくれた。まるでヒーラーの島。


 何回目だったか忘れたんだが、たぶん最後に行くことになった時だったか。


 ある年、民宿の屋上みたいなところでまた年越しを酒盛りで過ごした時に、地元の青年がそこに同席してて、その人の話が、警察に任意同行で連れて行かれたって話だった。


 殺人事件の容疑者みたいな扱いだったらしい。いや、無実の人が疑われただけで済んで、無事でよかったとは思う。それとは別に、殺された方のご冥福を心からお祈りします。


 楽園のような南国の島に似つかわしくない、殺人事件という4文字だが、実際に起きていた。


 そのせいで、キャンプなどの野宿系は、その頃の波照間島では禁止になっていたという。


 私は、初訪問での予約ミスの反省から、波照間島へは確実に民宿を予約して行くようにしていたから問題はなかった。


 その青年は、警察での任意同行による取り調べを笑い話として教えてくれたんだが、民宿の人によると、その青年のご家族も含めて、本当はいろいろと大変だったらしい。


 疑われるというのは、そういうものだ。疑われるだけで、そうなるものだ。だから、人権というものが憲法によって保障されている。


 だからこそ、簡単に疑ってはならないし、それでいて、どこかにいる殺人犯を野放しにする訳にもいかない。とても難しいことなのだ。

 人権を保障しつつ、確実に真犯人を捕まえる、というのは、身体が子どもで中身が高校生の名探偵たちが四角い画面の中でやってくれているような、簡単なことではないのだ。


 波照間島でのんびりとした贅沢な時間を過ごし、仕事で疲れた心を癒す旅、のはずが、石垣島へと飛び跳ねるトビウオのように進む帰りの船の中で、いろいろと考えさせられたことを未だに覚えている。


 ……そう考えたら、異世界恋愛の婚約破棄と冤罪って、中世ならでは、なのかもしれない。


 こんなことに思考が繋がるなんて、私もすっかり、なろうに染まってるなぁ。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る