第32話 その島旅に何をもとめた? ~お宝は見つかったのか?~
そもそものきっかけは、作文を読んだことだった。
もう、はっきりとは思い出せないけれど、海と魚と、とにかく美しい情景が描かれていた。小学生だったのか、中学生だったのか、どっちだったか……。何か大きな賞を取った作文だったと思う。それを読んで、見てみたいと思ったのだ。
当時は、ブラックな職場からの現実逃避に夢中だったこともあって、島旅ブームがマイブーム。
友人と二人で、どこまでマニアックな、誰も行かないようなところへ行くか、話し合うだけでストレスの解消になってた記憶がある。
で、行きました。トカラ列島へ。国内なら、小笠原とか、南北の大東島とか、それに匹敵する僻地だと思う。
交代で島旅の企画を出し合っていて、この案は私が出したはず。「やられた~。いつか出そうと思ってたのに」とか、友人に言われ、じゃあ今年はここだな、と決定した。
鹿児島へ行くのは、やっぱり車だった気がするから、まだ九州新幹線の全通よりは前なのか? うーん、年齢を重ねると記憶はあやふやになっていく。あの頃はまだ若かったような気もするんだが……。
フェリーは大きかった。探検のし甲斐があるフェリーだった。友人はビールを飲んでごろり。私の方が船酔いには強かったというのもあるし、私は下戸で飲まないというのもある。
中で走り回る小学生男子と、それを追いかけてやめさせようとする背の高い女の子。
思わず笑ってしまったら、女の子と目が合ったので、「大変やね」と一言。
「はい。男子、ガキなんですよね」
「おねーちゃんは弟の面倒、みないとダメやもんなぁ」
「え? 同級生ですよ?」
「ウソやろ? どう見ても高校生か、ぎりぎり中学生にしか見えんけど?」
女の子、小学生で、走り回ってる男子たちと同級生の小学生だった。がきんちょな男子たちの世話を焼くからお姉さんになってしまったのだろうか。
なんか、島の子ではなく、なんとか留学とかで、島の学校にいるらしい。そういや、鳩間かどっかをモデルに初恋スキャンダルの人が島の学校のマンガを描いてたような記憶が蘇った。
女の子も男子を追いかけるのはあきらめて、3分くらい、私と色々と話した。
「誰かに叱られたらいいんです」
なるほど、納得。
中之島の学校らしい。私が宝島や小宝島に行くと言うと、「すごく遠いって聞いたことある」ぐらいの感覚だった。間隔だった? どっちも正しい気がする。同じ村なんだけれど、色々な意味でも距離感があるのか、ただ小学生だからよく知らないのか。
この女の子も、元いた学校に通えなくなって、島の学校へ行ったそうだ。こんなに普通にコミュニケーションがとれる子なのに、学校って場所は本当に闇が深いと思う。それとも、島の学校で癒されたのだろうか。そうだといいな。
私も、島旅で癒されてるから。
短い時間、話しただけだったが、中之島に到着した時は、見送りをして手を振った。そしたら、笑顔で手を振り返してくれた。走り回ってた男子ふたりと一緒に。あれは、私に対してだったと、勝手に思っておく。
友人と、いつか小笠原に行ったとしたら、このレベルの船旅になるんだろうか、などと話しながら、船中泊を楽しむ。食堂も、シャワー室もある。友人は食堂でビール、私は自販機でパンを購入した。
フェリーは激しく揺れたりはしないが、大きく上下に動くイメージ。これが南シナ海の大波か。
本当に、秘境なんだな、と感じる。そして、友人とふたりで、このまま天候が悪くて帰れなくなって、仕事を休み続けたい、という願望で盛り上がる。でも、たぶん、そうなったらめっちゃ叱られるのだろうと思う。なんでそんなとこに行ったんだ、って、ね。
アンタらとの仕事がストレスだからだよ!?
そんなことを言い合って笑った。
一度、小宝島はスルーする。色々と船便の関係でそうならざるを得ない。
そして、宝島に到着。港に、なんか、前衛的な絵が描かれてる。
レンタカーを借りた。というか、おそらく、厳密にはレンタカーではなく、誰かの車を借りたんだろうと思う。軽自動車だ。まあ、道の幅からいっても、軽の方が正解だろう。
今日の民宿では食事なしで素泊まりの予定。でも、持ち込んだ食料はなんと二人ともカロリーメイト。港で友人はビールを買い込み、民宿の冷蔵庫を貸してもらっていた。
宿を出て島を回ろうとすると、女性がふたり、声をかけてきた。同じ民宿に泊まる人たちで、どうやら、車を借りられなかったらしく、お金を半分出すから、一緒に島を回ってほしいとのこと。軽自動車に4人。パンパンだけれど、まあ、乗れない訳じゃない。
友人と顔を見合わせて、了承し、どこに行きたいのかを相談した。
私のイチオシはイギリス坂。『牛』を読んでるなら分かるはず。でも、みんなきょとんとしてた。一応、希望は通ったのでよしとする。
まったく『牛』も読まずにこの島に来るとは残念な……などと心の中でマウントしていた。今思えば情けない。
山の上の展望台、洞窟、温泉。以上。まあ、そこまでたくさん、回るところもない。
運転は下戸の私。だって、この友人、ずっと飲んでるからな。
まずは山の上の展望台。展望台っていうか、コレ、何? 馬? 馬なの? トカラ馬か! いや、馬ってイメージじゃないな? なんだこれは? 前衛的だな、宝島!?
でも、わいわいと楽しめた。女の子と一緒、というのがちょびっと、ある。ただ、こういう言い方はよくないが、こんなところに旅しに来る女の子って、ある意味でなんなんだろうって、私も友人も思ってた。全部、ブーメランだけれど。今だとポリコレか?
宝島の洞窟探検は鉄板。だって宝島だもん。ほぼほぼ真っ暗で、よく分からんが、笑えたのでヨシ。
で、イギリス坂。私ひとりで感動して、残り3人はぽかん。まあ、いいでしょう。君たちはそれで。吉村昭大先生の作品ぐらい読もうよ。せめて『間宮林蔵』とか。世界地図に名前を残した男だぞ?
温泉はなんちゃらセンター。島旅は意外とこのパターンがある。なんでか島に温泉が。火山島だからだろうか。
民宿に戻って、車も返却して、女の子ふたりとは、ぺこぺこしつつお別れ。といっても、別の部屋に行っただけ。別に、めくるめく愛欲のトゥナイトとかはない。そういうの、面倒だし。
私も友人も、こういう旅ではよく寝る。日頃は、仕事のせいで寝られないってのも、ある。寝貯めできたらいいのにといつも思っている。
翌日は、再びフェリー。今度は短い。お隣の、小宝島に上陸。昨日の女の子たちは鹿児島へ戻るらしい。宝島オンリー。もったいない……。地上と船上で手を振り合って別れた。別に涙は出ていない。
港に、丸太みたいなロープがブツっと切れているものがあった。これは何か、と質問したら、波が大きい時にフェリーを繋ぐロープが切れたものだ、と教えてくれた。こんなぶっといロープが切れるって、どういうこと!?
さて、小宝島。私は最初に学校が見たいと主張して、友人が折れた。
この学校に、あの作文を書いた子が通っていたのだ。さぞ、海と関係の深い学校なんだろう。そんなことを思ってたけれど、別に学校は学校だった。近所の学校よりもずっと小さいというだけで。島だもんね。小さいよね、そりゃ。
一度、民宿に行って大きな荷物を預けて、歩く。蛇に注意。ハブがいるらしい。島を一周できる道があるけれど、友人とウォーキングしつつ、がさがさっと音がしたら飛び退く、という間抜けなコントみたいな動きを何度か繰り返した。
どうして鹿児島により近い小宝島が後で、宝島が先だったのかというと、フェリーが鹿児島と奄美大島を行き来しているからだ。先に小宝島に上陸すると、次のフェリーは鹿児島へ行くので、宝島に行けなくなってしまう。私たちは、次のフェリーで奄美大島へ行き、そこからは飛行機で鹿児島に戻る予定だった。
小宝島にも温泉がある。完全な露天で、脱衣場とか、特にない。別に私と友人以外には誰もいないので、ゆっくりと温泉を楽しむ。
民宿の人に釣りはしないのかと聞かれて、しないと答えると、アンタらここに何しに来たの? と首を傾げられた。こういう島は来るだけでもう価値がある。プライスレスだ。温泉もあるし。
ウォーキング、温泉、ウォーキング、温泉。友人はどんどん民宿でビールを買う。酒飲みって金、かかるなぁ。
夕日と海が、信じられないくらい、美しい。どこかに魚影はないだろうか。日頃から海と魚に親しんでる訳ではないので、見つけられない。ただ、そこにはあの作文で見た景色があったのだろうと思う。
翌朝は、朝日と海の景色。これもまた美しい。ただ、風が強く、波が高い気がする。まさか、友人と話してた帰れなくなる未来が待っているのか!?
港へ行くと、フェリーは入港するけれど、急いで乗船してほしいとのこと。色々と大変らしい。私と友人も、本当にここに取り残される訳にはいかない。
乗り込んだ帰りの船は、来た時と比べてさらに大きく揺れていた。別に船酔いはしないけれど。
フェリーは宝島を経由して、奄美大島の名瀬港へ向かう。
2日間の島旅。船中泊もあるけれど。
何もないようでいて、いつも、何かがある。そして、そこでのゆったりとした時間に、ただただ癒される。
たぶん、ここには二度と来ない。行くことができないと思う。
でも、小宝島で見た夕陽は、きっと、一生、忘れない。
ちなみに、船旅で苦労すると言われるのがトカラ列島の旅なんだけれど、私と友人にとって一番大変だったのは、鹿児島空港から車を停めた駐車場までの移動だったという……フェリーで戻ればすぐそこだったのに……。
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