第8話 世界遺産を見るためとはいえ、年齢的には体力の限界を感じる観光地



 早朝、仙台駅を出発して、水沢駅を目指す。今日泊まる予定のホテルがあるからだ。


 切符は鈍行乗り放題のJR北海道&東日本パスだ。7日間連続での乗り放題。ただし、JR全線ではなく、東日本と北海道のみ。のみ、とは言うものの、かなり広範囲をカバーしている。


 そもそも、なぜ、この旅を計画したのか。


 みなさんは、「経県値」というものをご存知だろうか?

 経験値ではなく、「経県値」である。都道府県の県だ。


 地理情報サイト「都道府県市区町村」という地理好きが集まるサイトで考案され、全国47都道府県の経験(経県)を6つのレベルに分けて判定し、47都道府県の得点合計を「経県値」とするもの、また、この経県値を日本地図で塗り分けたものを「経県値マップ」とする、という。


 この6つのレベルというのが、各都道府県に、住んだ、泊まった、歩いた、降り立った、通過した、 行ってない、という6段階で判定されるのだが、実は私は、47都道府県のうち、岩手県だけ、「行ってない」に該当していたのだ。


 コロナ禍で旅行を自粛していたのだが、どうにも我慢ができなくなり、世間の方も、旅行してもいいんじゃないの、みたいな空気へと変化しつつある中で、東日本で乗り放題な切符を発見してしまい、これはもう、まとめて休みを取って、とりあえず岩手に行ってやろう、と。さらには、ついでに東日本に多かった「泊まった」ことがない都道府県も全部泊まってやろうと、そんなことを思ってしまったのだ。


 きっと、我慢し過ぎた反動なのではないかと思う。


 あと、都合がいい乗り放題切符の責任だと思う。うん。間違いない。


 昨日購入したDジェネの6巻を読みながら、東北本線は宮城県から岩手県へと突入していく。この時点で「行ってない」から「通過した」にランクアップ。


 本日の目的地である平泉駅を一度はそのまま通り過ぎ、水沢駅で降車した。ここで「降り立った」にランクアップ。さらに、最寄りのホテルへと「歩いた」のでまたランクアップだ。今夜には「泊まった」が実現する。


 ホテルで大きなバックパックを預け、小さなリュックだけを背負って、すぐ水沢駅に戻り、仙台行きに乗って、今度は平泉駅で降りた。


 観光目的は世界遺産である。まあ、そうでしょうね、普通。


 平泉 ─仏国土(浄土)を表す建築・庭園及び考古学的遺跡群─


 まあ、たくさんあるが、とりあえずはあの有名な中尊寺金色堂が代表だろう。


 それと、世界遺産の構成資産ではないが、あの、源頼朝以前の征夷大将軍としては最も有名な、坂上田村麻呂ゆかりの達谷窟毘沙門堂には行きたい。


 ところが、ここで、鉄旅あるあるなんだが、目的地の鉄道駅までは楽チンだとしても、そこから先の足がないというのが、鉄旅なのだ。


 平泉なら、バス・タクシー・レンタカー・レンタサイクル・徒歩、という鉄旅ネクストがあるんだが、バスはまだしも、タクシーやレンタカーというのは、ケチケチ乗り放題切符の旅にそぐわない。


 徒歩、で回れる範囲に目的地がそろっているのなら、徒歩でもいいんだが、メインの金色堂ですら、駅から徒歩というのは躊躇してしまうポジショニングだ。達谷窟毘沙門堂は徒歩とか絶対ムリ。


 まあ、残る選択肢はレンタサイクルだな。そして、ここで最後の2つ。電動アシストか、なし、か。


 年齢的にも、体力的にも、電動アシストを選択すべきだろう。

 なしとありの料金差は誤差の範囲。レンタサイクルのレンタル時間内に目的地を制覇して戻る。つまりは、今から体力勝負なワケだ。


 最初はまず学習してから、ということで、平泉世界遺産ガイダンスセンターを目指す。レンタサイクルしたところでもらった地図が大活躍。車のナビに慣れた身に、地図読みはなかなか難しい。紙の上に描かれた平面図と、視覚がとらえる立体図って、なかなか一致しないんだよね。


 ガイダンスセンターで、無料貸し出しの解説用レコーダーを借りて、平泉の構成資産についてしっかりと学習する。もちろん、給水も忘れない。夏だし。熱中症とか、しゃれにならん。


 そして、メインイベント。金色堂を攻める。


 途中で、なんたら跡地とかそんなのを眺めながら、電動アシストにサポートされて、やや登りっぽい道を行く。


 自転車置き場に自転車を停めて、しっかり鍵をかける。そして、お土産屋でちょっと休憩と、ソフトクリームを頂く。


 ここからは、ひたすら登りだ。しょうがない。この時代の寺というものは基本、山とセット。○○山△△寺、という山号寺号が当たり前なのだ。


 ただし、ここの登り坂はハンパなかった……いや、平泉の浄土信仰で極楽浄土だのなんだのと言うクセに、この坂道はオッサンにはもはや地獄でしかないという……いや、この坂、殺す気か? あ、殺されたら極楽浄土が待ってるとか? いやいや、そういうのやめて……。


 そんな坂道地獄の果てに、辿り着いたのは金色堂。確かに金ピカだ。


 どうしようもないので、言っても仕方がないんだが、巨大なガラスケースの中にあるんだよね。保存のためだし、仕方がないってのはわかる。わかるんだよ。


 でも、味気ないよなぁ……。いや、仕方ないんだよ?


 中尊寺をぐるっと回って、芭蕉の句碑なんかも堪能してから、帰りの下りはニコニコですよ。


 すれ違うこれからの人たちに微笑みかけて、「あと少しですよ」とか、「あと半分くらいです」とか、コミュ障が笑顔で頑張りましたよ。嫌がらせか……。


 お土産屋さんの駐輪場まで戻って、再び自転車に乗る。


 近くにいくつか見所があるんだが、とりあえず、一番遠い目的地をまず制覇しておきたい。それが達谷窟毘沙門堂だ。


 もらった地図も、同じマップじゃなくて、別枠で描かれてるし。めっちゃ遠い。


 これ、電動アシストにしてなかったらと思うと、怖ろしいわ~……。


 当然、初めての道だから、不安がある。間違ってないとは思うが、それでも、目的地に着くまでは正しいとも言い切れない訳で。


 他の観光客を見かけないというのも、不安を煽る。え? 不人気なのかな? 私、坂上田村麻呂とか、もう名前だけでなんかかっこいいとか思ってしまうんだが? 実は京都の清水寺もこの人のゆかりのお寺だし。


 電動でアシストされているにもかかわらず、ぜぇはぁと息を切らせて、なんとか辿り着いた。道があってて本当に良かった。


 拝観料を払って、毘沙門堂に上って、中で休憩。見晴らしはいいし、日陰だし。ここで飲み物はダメだと思うが……。


 ……え? この道、また自転車こいで戻るのか? うわ、マジかぁ。


 大人の力(主にお金)でレンタカーにしなかった自分を呪った瞬間だった。


 それでもまあ、自転車をこぐしかない。不安だった行きとは違って、帰りは安心の正しい道だ。


 そして、第3の目的地、毛越寺へと突入する。


 でも、庭園の池の近くのベンチでひたすら休憩なワケですよ……。それはそれで、極楽感があって良かったですよ? ですけどね?


 とりあえず用意していた飲み物もなくなってしまったので、水分補給を考えた時、あ、最初に行ったガイダンスセンターのところに道の駅があったな。お土産と休憩がセットで済ませられそう。そんな考えで道の駅平泉へ。


 で、せっかくなら地元っぽいものを、と。買ったのは100パー果汁のリンゴジュース。でも、冷やされてはなかった。水分補給だから飲んだ。甘くて美味しい。でも、冷たくない。だからといって、自販機のジュースとかお茶は地元感がないし……。


 その結果なのか、全然関係ないのか、どっちかわかんないんだが、そのまま道の駅で、長めのトイレ休憩が必要になってしまったのだ……。そういや、ろくに食べてなかった。飲み物だけだったし。


 そもそも、年齢的にレンタサイクルには無理があったのかもしれない。もちろん、体力的にも。


 残されたレンタル時間も少ない。最後の目的地は、かの源義経の最後の地と言われる、高館義経堂。これがまた、坂道なんだよ……。


 でも、タイミング的に日陰になる時間帯らしくて、すごく涼しかった。


 北上川を見下ろす感じも、いい雰囲気。


 ここで義経公は亡くなったのか、と。本当かどうかはわからんが。体力的には、私も今、この場で死にそうではある。


 そこから平泉駅までは全体的に下りっぽいので、気持ちよく風を切って進み、ゴール。自転車を返却して、駅舎へ。


 ベンチに座ったらもう動けん……。


 寝過ごす訳にはいかんので、ホテルがある水沢駅までは気合で目を見開いて、ホテルに入ったらすぐに風呂。着替えて、外に食事に出て、再びホテルに戻ったら、朝まで死んだように寝てた。


 いや、平泉に限らず、鉄旅で観光地を回ろうとしたら、これから先も、体力的には限界がくるんだろうな、と。


 まだまだ、少しでも動けるうちに、あちこち、行っておかないと。


 そんなことを思った平泉の旅だった。





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