第35話 寝台特急とは心の拠り所なり ~青列車への憧れ。あのクリスティだって実は鉄ちゃんだったはず!~



 あれは2014年の2月だったはず。3月に廃止されてしまうということで、最後に乗っておきたいからと、なんとかチケットを押さえたかったが、なぜか手に入らず、とある知人を頼って1枚だけチケットを手にしたのだ。裏技過ぎて教えらないし、ここにも書けない。


 ならばついでに、と。その知人に頼んで、もう1枚のチケットも手に入れてもらった。






 子どもの頃、まだ祖父母と同居していた時は、祖父が旅行会社勤務で、家に毎月、時刻表が増えていく環境にあった。


 時刻表は表紙が鉄道写真で、カラーページには色々な特急の紹介があって……あの駅の数によって歪んでしまう日本地図とか、最高ですよね……。


 中でも、ブルートレインは最強の存在だった。だって、泊まれるんだよ!? 列車の中に!? すごくないですか!?


 でもまあ、小中学生に自力で乗れというのは無理な話。


 千葉の伯母さんのところへ行くというタイミングで、わがままを言って、自分ひとりで頑張れるのなら、と、私ひとりだけ新幹線ではなく、前日から銀河で東京へと旅立ったのだが、たぶん、それくらいが子どもの限界だったと思う。実際、東京から千葉に行くまで、ずっと泣きそうだったし。乗り換えとか本当に意味不明だった。ほんと、子どもだったな……。






 いつか、ブルートレインに乗るんだ、と誓った少年は。


 バブルが崩壊して、就職氷河期がやってきたタイミングで大卒、就職、ブラック勤務……。


 大人になると、ブルートレインに乗る金を稼いでも、乗る時間が確保できない。特に、新人のうちは、うまく休めないというのもあった。休むって、コツがいるんだよね。実は。強引に休むと、ただ迷惑をかけるだけだし。若い頃は年末年始ぐらいしか休めなくて、そこは全部島旅に使ってた。


 そんな間に、ブルートレインの統廃合が進む。富士とはやぶさ、なはとあかつき、とかね。


 結局、大学生の時に乗った出雲と、社会人になってからは、富士・はやぶさ、なは・あかつき、そして、日本海にはなんとか乗れた。トワイライトエクスプレスは予約して、でも予定が合わずにキャンセルでマジ泣きした。


 あとは、サンライズ出雲・瀬戸も乗った。これはまだ乗ろうと思えば乗れるから。でも、いつなくなるかは分からない。


 自己実現って、簡単じゃない(これは自己実現なのか?)。


 そして、あけぼのの廃止がニュースになって……。


 裏技を使ってでも、チケットを手に入れたんですよ、相生は。大人の腹黒さを身に付けてましたよ。全てチケットの日付に合わせて仕事も調整して。


 まずは空路、北海道は千歳へと相生は飛んだ……。






 あの、千歳から札幌までの列車の車窓って、冬だとすごいんですよね。あっちの人には日常なんだろうけれど、西日本の温暖な気候で暮らしていると、あの、一面、見渡す限りの雪景色には言葉を失います。


 初めてではなく、何度目かの車窓なんだけれど、やっぱり絶句。


 それと、そんな中でも走る鉄道に感動もしてるという。鉄道、雪に強い。


 札幌では夜まで待たねばならない。


 とりあえず、お昼過ぎ。札幌駅に入線するトワイライトエクスプレスを撮影しまくる。札幌観光? ああ、これが私の札幌観光ですよ! テレビ塔とか、この後行きますし、時計台も見ますけれど、それって既に経験済みなんで!


 くう。大阪駅で見る姿とは違う、DD51での重連。重連ってめっちゃかっこいい……。やっぱり札幌まで来てよかった……。


 とり急ぎ、てきとーな感じで札幌観光も楽しみ、お寿司とかも食べて。夜を待つ。


 雪が降り続いているけれど、鉄道は雪には強いと信じてる。でも、なんか、止まってるらしくて、札幌駅が騒がしい。え? ほんとに大丈夫?


 でも、ちょっとだけ遅れたけれど、ちゃんと入線してきました。


 急行はまなす。


 雪が似合うと言っては失礼なのだろうか。


 今回、あけぼのに乗るために青森まで行かなければならず(上野発はどうしても押さえられなかった。裏技を使っても……)、どうせ青森に行くのなら、と。


 札幌からはまなすで行ってやるぜ、と。


 しかも! のびのびカーペットを確保! やっふぅ! カーペットカーですよ! フェリーとかじゃないのに、鉄道でカーペットカーですよ? なんでそんなに興奮してるのか、分からない? こんなのは分かる人だけ分かればいい……。


 真っ暗だから、車窓とか、そういうの、あきらめて。


 乗り合わせた人は、時々、仲間がいる。鉄ちゃん仲間だ。別に知り合いとかじゃなくて、その場で話すだけ。


 だいたい、雰囲気で分かる。というか、基本、カメラを持って走ってるから! フツーに分かる!


 そんで、お隣さんと小声で話すんですよ。


「ほら、いなほが廃止になるんで、乗っておこうと思って……」

「ああ、なるほど。私、あけぼのの方で……」

「え? よくチケット取れましたね?」

「いやあ、運が良かったですよ」


 そんな会話でぷちマウント合戦。鉄ちゃんたちも色々とあるねー。


 いなほの話とかは、省エネのために485系から切り替えるって話です。それを知ってるか、知らないか、マウント、仕掛けてきたんです。ダイヤ改正での廃止じゃないんで。

 私、あけぼのでうっちゃりました。思わず声のトーンが上がってましたよ、この人。ふふふ。これは私の勝利です。でも、やっぱ、あけぼのの切符、フツーだと取れないんだね……。


 この頃ってもう、転売ヤーがいたんでしょうね……。


 はまなすは函館でDD51から、ED79に変わる。ディーゼルから電気へ。そのためもあって停車時間が長いからゆっくり写真は撮れるけれど、やっぱり夜中は寒い! 北の大地って厳しい!


 ていうか、寝台なのに、寝てない。あ、寝台じゃなくてカーペットだったわ。ごめんごめん。


 青函トンネルもいずれ新幹線だけになるだろうって話で、みんな悔しがってた。新幹線に罪はないけれど、だが、許せなくて苦しい……みたいな……。


 ずっと乗り鉄自慢のマウント勝負で、互いにほめ殺し合いですよ? 何か問題でも? そのうち、他の鉄ちゃんも参戦して、楽しみました。最後は、あけぼのに乗ることを羨ましがられる。ほんと、なんでチケット手に入らないんだろうね? みんな、乗りたがってた。西日本から参戦してる人が少なかったから、ブルトレ関係は完勝でしたね。


 吉岡海底駅の話はガチで聞き入りました。これは完全に組み敷かれたようなものでしたね。やはり北の鉄民は青函トンネルに強い。


 青森で撮影して、握手して、みんなと別れる。たとえマウントの取り合いをしたとしても鉄道仲間には違いない。


 そして、青森。前にも来たけれど、とりあえず、市場で海鮮ののっけ丼を食べて、ねぷたのワラッセを見学しつつ、昼寝。でも昼寝がガチ寝だった。徹夜だったし。


 あとは、行者にんにくを使ったぎょうざ屋さんに行った。ここは前にも行った。なんか、近くの中華の店とご家族なんだとか。へー、って感じ。

 今でも、あるんだろうか。やっぱり、青森まではなかなか、行くことがない。ふらいんぐうぃっちの真琴ちゃんに会えるのなら行ってもいいかも……。






 そして、待ちかねた夜が来た。本州の北に夜が来た。


 ……夜っていうか、冬だから暗いけれど、夕方って時間ではある。


 夜なのに、あけぼの。深い。


 今回、裏技で手にしたチケットはソロ。なんと、ソロです。ゴロンとシートかと思いましたか? いいえ、ソロなんです。個室なんですよね。しかも、2階。せんまいけれど、それでも個室です。


 EF81の赤いあけぼのを写真におさめて、もちろん、最後尾まで走ってテールマークも撮影。乗り込んで車内も……って、意外と空席、あるな? なんでチケット、取れないんだ、マジで? 意味わかんないね?


 まあ、ソロの2階へと引き籠って、上から見下ろす車窓を楽しみます。


 とはいうものの、ほとんどが暗闇なので。


 途中、どこかの駅でうとうとしながら見えたのが、横断幕。冬季オリンピックのスノボの選手の応援だった。世の中ではオリンピックが行われているらしい。そんなことよりブルトレだ。


 ところが、相生、大失敗。うたたねのつもりがガチ寝に入ってた……。


 EF64への、青あけぼのへのチェンジを見逃してしまう……これが、はまなすまでも欲張ったつみなのですか、神よ……。


 ソロなので、鉄仲間がいないのも原因かも。ただ、鉄仲間たちはみんなチケットが取れないと言っていたので、いない可能性もあるし。


 まあ、いいです。上野で、到着後に、めちゃくちゃ撮影した。青をベースにクリーム色が入ったあの顔が男前だ。このイケメンが!


 上野で銭湯に入って身綺麗にしてから、千葉の伯母さんのところへ。


 従兄がいたので、札幌から上野までの旅を語り尽くしましたとさ。従兄の顔、かなり引きつってたきもするけれど、それは見なかったことにしよう……。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る