第18話 海から山へ。餃子のはしごでお腹一杯。しかし、雨が旅の心を折りにくる……



 おそるべしJR東日本。早朝の熱海駅を発車すれば、乗り換えなしで静岡県・神奈川県・東京都・埼玉県・茨城県・栃木県の一都五県を跨いで宇都宮駅まで行けてしまうという……乗り放題切符の強い味方だ……。

 JR西日本だと、姫路からの新快速で米原? ぐらいまでと考えて、兵庫県・大阪府・京都府・滋賀県の二府二県くらいが限界なのでは? 負けてる!?

 とにかくJR西日本には、相生問題をクリアしてほしい。相生といっても私のことではありませんよ?

 岡山から姫路までをどうにかしてくれれば青春18きっぷが今よりもさらに便利になるのに……。いつもあそこだけ新幹線で贅沢課金ワープするんだよ……。


 閑話休題。


 この日の目的は餃子のはしごと日光東照宮だ。ただ、東照宮については、子どもの頃に行ったことがあるので2度目、ということになる。


 海が見える車窓が終わって都市部に入ると目をそっと閉じておやすみなさい。やはり鉄道の揺れは安眠効果があるらしい。


 ふと目覚めたら、住宅街の車窓と大きな川。利根川だろう。短い区間だが、茨城県を通過する。そして栃木県へと突入し、宇都宮駅へと車両は滑り込んでいく。東京駅がゴールではなく、途中駅だというのは不思議と新鮮な気持ちになれた。


 さっそく餃子……ではない。角館と同じく、まずはコインランドリーで洗濯だ。おそらく、これがこの旅で最後の洗濯になるだろう。


 洗濯が終わるのを待ちながら、タブレットで入念な下調べを行う。頭の中では横手やきそばのはしごの失敗がよぎる。もうあの二の舞はしたくない。


 私、もう、失敗しないんで。


 洗濯を終えて向かったのは、駅からかなり遠いお店。地元の人のオススメだったのもあるが、どうも本店ではないようだ。オープンは11時。ほぼオープンと同時に入って、焼き餃子と水餃子を食べた。うまし。焼くだけでなく、水餃子もあるとは、油断していた……。


 次は駅へと戻る途中にある中華のお店。なんと、懐かしのTVチャンピオンの店だという。そういえば五島列島に行った時も、五島うどんのお店がTVチャンピオンのお店だったことに驚いたことがあった。いや、本当に懐かしいな……。


 3つ目は完全に駅に戻って反対側の出口近く、既に行列が少しできている。しまった。出遅れたか。その列に並んで、しばらく待って中へ。餃子の形がまるっこい円形で、小さ目なのは、はしごの3軒目にちょうどいい。これもまた、うまし。


 最後の4つ目は、3つ目からすぐの、2階だ。いくら餃子とはいえ、4軒目ともなるとなかなかおなかが苦しい。若さが足りない。若さを下さい。エルフになりたい。結局、餃子のはしごはここが最後となった。


 横手の反省をいかし、餃子以外には目を向けずに歩いた。餃子のはしごは達成できた。4軒だけなのは、若さがたりないからだろう。


 餃子の像に手を合わせて、宇都宮を去る。






 東武ではなくJRで行く日光。あくまでも東日本パスでの乗り放題なのだ。


 ようやくローカル線らしい雰囲気が楽しめる。それでも、乗客は多い。流石は有名観光地。


 小学生の頃以来の再訪となる日光。今回、興味を持ったのは「不思議の国のバード」を読んだからだと自覚がある。ある意味では私にとっては聖地観光だ。


 日光駅では厚い雲におおわれた空から小雨が降り続いていた。


 JR日光駅がそもそもいい感じ。素敵な建物が駅だと心躍る。九州の門司駅とかね。たぶん、同じ感じでやってると思う。雰囲気は似てる。


 雨が勢いを増す中、東武バスで表参道へ。雨は弱まる気配はなく、一応、東照宮を目指すが、拝観料を支払う前にザザ降りの大雨になった。バックパックから取り出した折り畳み傘では対応不能。雨はこうして、旅人の旅の心を折る。


 まあ、小学生の頃、もう見たし……と、そんな考えで東照宮の前から雨とともに去りぬ。明日は明日の雨が降らないことを祈る。天気も、私も、わがままで身勝手な似た者同士かもしれない。


 思えば、ここにはかつて祖父母と一緒にやってきたのだ。当時は世界遺産ではなかったが。


 私の鉄道好き、旅好きは、おそらく無意識なのだろうが、祖父の影響が大きいと思う。

 祖父は旅行会社に勤めていた。祖父母と同居していた頃は、家に毎月、新しい時刻表があって、表紙から巻頭のカラーページで紹介される特急車両に夢中になり、あの駅の数で歪んだ日本地図に、自分で新たな路線を描き込んで妄想を膨らませた。


 ……これって、よくあることですよね?


 中学に入るまでは、祖父母にいろいろと連れて行ってもらった。日光東照宮もそのひとつだ。一番思い出深いのは常磐ハワイアンセンター(現スパリゾートハワイアンズ)なのだが、それは子どもだったからこそだと思いたい。フラのセクシーさに負けた訳ではないはずだ。勿来の関ではしゃいだ記憶もあるし。ただ、黄金のお風呂はびっくりしたと思う。あと、なんでかエリマキトカゲがいたような……?


 たくさん旅行に連れて行ってもらえたのは、あの頃は子ども料金だったのもあるだろうし、中学からは部活で遊べなかったというのもあるのかもしれない。


 大雨の中を走るバスの中で、亡くなった祖父母を思ふ。


 仲のいい夫婦だった。祖母の作るカレーライスは絶品だった。祖母が作る揚げ物は、とんかつではなく、牛かつだったのはなぜだろう。元は愛知の人で、戦争の影響で大阪へ来たと聞いた。それ以上詳しい話はしたことがなかった。今思えば、もっといろいろと聞いておけばよかったと思う。


 大雨とバス料金700円に心折られ、そんな中で懐かしい祖父母を思い出す。世界遺産をあきらめてもどこか清々しいのはなぜだろうか。


 残すところ、この旅もあと二日。枕を濡らして眠ったのは雨に濡れたせいか、それとも……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る