第28話 九州旅。それは親孝行(?)である その3 ~徒にイタズラするなと反省せよ~
でっかいホテルの朝食もバイキング。
いや、すげぇわ。お高いホテルのバイキングってすげぇわ。自分で金出すビジネスのなんちゃってバイキングとは違う。全然違う。
いや、なんですぐそこでフルーツが何種類も山盛りなん? あと、パンのところにやっぱりはちみつあるし!? パンってスイーツやったっけ? それとそのケーキコーナーって何? あれってプリンがケーキになったヤツやろ? カタラーナやったっけ? でっかいスプーンで取り放題とかどうなっとんの?
パスタがあるんはええんや。それはええんやで。でもな? 何種類あんねん? しかも全部大皿やし!? ナポリタン、ミートソース、たらこ、は基本や。そやけどペペロンチーノとか、タリアッテレとか、ラザーニャとかはもう朝食なんか? それは朝食なんか!? そんなんフツーに晩飯やで!? どうなっとんねん!?
……まあ、母子で腹一杯にして、昼食を抜くんです。二日続けてバイキングがヤバい。あ、そういや、夕食、一日目あら鍋フルコースで、昨日の二日目フレンチフルコースやったわ。夕食もヤバい。旅行終わったら体重計が怖い。
膨れた腹をズボンにおさめて、チェックアウトなんだけれど、3日目のこの日は定期観光バスに乗る。そのバスのコースにこのホテルに併設されてる美術館も含まれてる。だから、美術館を見学しながらバスを待って、美術館見学後に合流して、バス旅行になる。
で、その美術館。
……巨匠やん。日本の巨匠やん。かんてー団やったら、いち! じゅう! ひゃく! って、どんどんすんごい領域までゼロが続くヤツやろ?
黒田清輝。湖畔の人やん……。しかもこれ、でっかい。え? 億はいくんちゃうの? マジか。
しかも、湖畔の絵の中の人と同じ人のような気がする? あ、学芸員さん? あ、奥さん? 奥さん美人やな!? 自分でそれを書き残すとかかっこええな!? 憧れるわ!
ちなみにお値段を聞いてみたら、微笑みでかわされました。怖いわー……。
見学中に急にお客さんが増えたと思ったら、観光バスの乗客さんたち。今日のお仲間です。私と母はここから合流する。
バスは指宿からさらに南へ。バスガイドさんが豆知識を色々と披露しながら、どんどん進む。
そして、やってきました長崎鼻。正直、何回も来てますから、私は特にどうとも思わんのです。母は初めて。で、そこから見える開聞岳にびっくりしてる。
「ごっつい綺麗な山やなぁ」
確かに、美しい、バランスのいい形をした山。いや、ほんと、自然にできたの、これが? って感じがする。
3日目ともなると、母もかなり疲れてきた模様。神社まで歩いて、そこで休憩。長崎鼻までは歩かないらしい。
私も別に……と思ってたら、見てきてくれ、と。要するに写真を撮ってきて見せろ、と。ああ、そういうことですか。わがままやな。ま、全額負担してもらってるし、そのくらいはサービスしたろか。
私はぐんぐんと歩いて、途中、開聞岳の写真を撮影。さらには海岸まで下りて、砂浜と海と開聞岳のコラボも撮影。なんか、砂浜が黒っぽい。火山灰?
戻って先へと進んで、灯台を撮影して、灯台と自分を自撮りして、さらに先へ。
岩場を抜けて、かなり南へ。確かに「鼻」と呼ぶのがぴったりな地形。でも、確か、九州最南端は海の向こうの佐多岬の方だったと思う。昔、車で行った。端っこ、好きなんで。本州最北端とか、本州最西端とか、四国最南端とか、そういう端っこ。サスペンスの2時間ドラマとかに出そうなとこ。
でも、最南端の駅はこっち側にある。今回のバスのルートには入ってないが、そこも昔、車で行ったことがある。いや、駅なんやから鉄道で行こうよ? 残念ながらダイヤの関係で車の方がとっても都合がいいのだ。
その時はまだ沖縄にモノレールがなかったから、本当に日本最南端の駅で間違いなかった。その駅からも開聞岳は綺麗に見えた記憶がある。
神社にもどって、母に撮ってきた写真を見せる。満足そうにしてるけど、歩くのもだいぶきついんかもしれない。
バスは長崎鼻を離れて、開聞岳へと向かう。そこが昼食会場。ゴルフ場やん。でも、昼食は食べないので。私は海が見えるソファに座って、タブレットの充電をした。旅行中のタブレットは撮影する関係ですぐに充電が減っていくので、こういう機会は逃さない。
トカラ馬が開聞岳のふもとにいっぱいいた。トカラって、奄美大島までの列島のことなんだけれど、その馬がここにいるってことは、保護が目的かな? トカラは宝島と小宝島に行ったことがある。もちろん奄美大島も。何がもちろんなのかは分からんが。その島旅はまたいずれ語りたい。
昼食を終えて……食べてないけれど……バスは再び走り出す。海から離れ、山へ、山へと進んで行く。
そして、見えてくるのは、今度は湖。池田湖である。でっかいわー。こんなところにこんなでっかい湖とか反則やん。って、私はもん何回目か分からんけど、母はもちろん初めて。
しかも、ここからも開聞岳は見える。このへんって、どっからでも開聞岳が見える。これってすごくないですかね?
あと、ここは大うなぎ。あれはもううなぎには見えないけれど。母が「うなぎ、食べたいわぁ」とか言い出したからちょっとめんどくさい感じ。
イッシーの前でも記念撮影はした。
ここから先は知覧へ寄って、鹿児島中央駅まで戻る。
高速道路のなりそこないみたいな道で一路、知覧へ。もちろん、そこには特攻平和会館がある。
駐車場のところに、でっかい急須と、その急須からお茶を出してるモニュメント? みたいなのがあった。そういや茶畑が有名やんな。最近は静岡と鹿児島の生産量は互角らしい。
ちょうどバスから降りて、母が先に歩いていたので、タブレットでタイミングをはかって撮影。
まるで、でっかい急須から出てるお茶が、母の頭にどばーってぶっかけられてる感じになる角度でうまいこと撮影が出来た。私、ほくそ笑む。
こういうイタズラ写真っていいよね。いつか妹にも見せてやろう。
そんなことを思いながら歩くと、すぐに平和会館に到着。とにかく、多くの方のご冥福をお祈りします。
見学も、もちろん真面目に。ただ、痛い。ひたすら痛い。あの戦争で命をかけた人たちの何もかもが突き刺さる。
別々に見学してたんだけれど、ふと、母を見ると、めっちゃ泣いてた。
そういや、80だから、小さい頃には戦争の話を、その頃の苦労を、色々と聞かされた世代だ。オイルショック世代の私とは、また、あの戦争に対するものが違うはず。
ガチ泣きの老いた母を見た瞬間……。
……………………私はなんであんなイタズラ写真を撮ったんだーーーーーーーっっっっ!
いや、もう、私、生きてることを恥じた。だからといって、自殺とかはしないけれど。平和会館で本当に命をかけた方々の記録を見て、自殺とかできないけれど。
タブレットのイタズラ写真はこっそりと消しておいた。
バスは少し走って、今度は知覧の武家屋敷へ。ここも何度目かは分からんけれど、母はもちろん初めてだ。
庭園の借景の説明をガイドさんがしてくれる。母は真剣に聞いて、庭をじっくりと見つめる。もう泣いてないけれど、母が老いたと感じた。感じてしまった。
……この旅行、親孝行、に、なってるといいなぁ。
そんなことを思った。
鹿児島中央駅でバスを降りて、お土産を買って宅急便で送り、九州新幹線に乗り込む。
今夜は熊本で泊まる。
母はかなり歩き疲れたらしい。ぶちぶちと足が痛いの、腰が痛いの、と言っている。口はめっちゃ元気だ。流石は関西人。口から生まれたに違いない。
……その血は私にも流れてるんだが。
熊本駅からは、駅チカの……というか、駅の目の前のビジネスホテルにチェックイン。それから荷物を置いて駅ビルに戻って、夕食は、もちろん、馬刺しで!
そりゃもう、馬刺しを食べまくる。寿司も、刺身も、馬肉コロッケも、とにかく食べた。
ところがその支払いの時。
出たよ、情弱に厳しい旅行支援。電子マネー化しないと使えないって言いやがった。アプリをダウンロードしてうんぬんかんぬん……。紙で手渡したんなら、紙で使えるようにしといてくれ。
私と母が支払いを終えるまでに、私の後ろに支払い待ちの行列が誕生してましたよ!? いや、そうなると思ってた!? 思ってたけれどな!
くそーーーーっっっ! 全国旅行支援めぇぇぇぇーーーーっっ!
そして、その後……。
「足、痛いわぁ。ホテルまで、タクシー、乗ろか」
そんなことを母が宣った。
「いや、ホテル、アレやで……」
私は駅から見て目の前の道路を挟んだ向こう側にある建物を指差した。
流石に我儘な母も、タクシーはあきらめて歩いてくれた。
そんなこんなで、3日目にして、ようやく、親孝行について考え始めた旅でした。
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