第43話 おれは安堵する

「助かった…」


 桜花はその場にへたり込んだ。大禍を相手にして生きていられるとは思っていなかった。決定的な役割を見せた和も無事そうだ。


「大変やったなあ…新兵連れてこんな相手はきつかやったやろ。上層部の判断不足や。怒ってええで」


「怒る気力も湧かねえよ…」


「まあそうやろうなあ。さかい、あてが代わりにキレとくわ」


 早速、小羽根は通信機を取り出した。


「シュトラン大佐!アンタなあ!現地の調査と適正な戦力の選定は指揮官の役目やろ!大禍にルーキーを差し向けるって、何考えとるねん!」


≪そ、それは申し訳ない…しかし、言葉を返すようだが、最初は15m級の大したことない歪みだったのだ。それが、いつの間にか3倍の体になってしまっていたのだ…!≫


 現地の神が食われたことは間違いない。もしかしたら、群響が起こった可能性もある。


「今回はみんな生きとるけど、次に死者が出たら、あてが暴れるぞ!ええな!?」


≪それは勘弁してくれ!≫


 現場の指揮官、責任者である隊長も、魔法少女全体に影響力を持つ小羽根には敵わないらしく、また弱みもあって、非常に弱腰だ。


「ま、まあまあ…教官…」


 桜花がとりなそうとしたが、それが余計に小羽根の心に火をつけたらしい。


「こんな小娘に庇ってもらって、恥ずかしくないんか!?これが大和人なら、ハラキリやっとるところやで!?」


「いや、切腹まではしねえだろ…」


 桜花がツッコむが、小羽根の怒りは収まらない。


「とにかく!この件は長官によーく報告しとく!こってり絞られるんやな!」


「はい…」




 シュトラン陸軍大佐は明らかにしょげ返っている。桜花はかわいそうになって、フォローに回ることにした。


「な、隊長。最初の時点では、おれと和でなんとかなるって分析、おれは的外れだったとは思わねえよ。実際、実物見て即、教官たちを呼んでくれたから俺たちも助かったわけだから、判断も的確だったと思う」


 それは偽りなき本心だった。


「でもな、アンタも軍人なら分かるだろ?状況ってのは刻一刻と移り変わっちまうもので、それに対応できなかった。それをアンタは責められてんだ」


「うむ…分かっている…」


「心配すんなよ、あんたも十分に優秀な軍人だ。長官だって、そんな人間の首を挿げ替えられ続けるほど余裕はねえさ」


 だからさ、と桜花は続ける。


「今回のことは良い糧になるよ。ちゃんと、自分を見つめ直してくれればおれは良いからさ。また頼むよ」


「桜花さん」


 ん?と桜花は振り返ったら、ちょっと気持ち悪いものを見た。


「あ、ありがとう…」


 野郎の赤面なんて何にも嬉しくねえ…と思う桜花であった。




「私はアニエス。アニエス・バルテだ」


「その妹、デジレ。新兵を連れて、大禍の攻撃を凌ぐとはやるな、ルーキー」


 小羽根とともにやって来た剣士たちは、姉妹ということだった。桜花はちょっとプライドが高そうだなあとは思ったが、大禍と打ち分けるほどの力の持ち主ならそれも仕方ないだろう。


「助かったよ。アンタらみたいな手練れじゃなかったら、おれらみんな仲良く大禍の胃袋だった」


「まあ、いずれはそうだっただろうが、私たちの到着まで持たせた。君の技量は中々のものだと思う。小羽根が認めるわけだ」


「教官が?おれを?」


「ああ、佐倉桜花が戦場にいると聞いて、30分余計に作戦計画を練り直したほどだ」


「いや、それは止めてくれよ!?」


「しかし、結果的に良かった。一番、保護すべき新兵をいの一番に保護できたのだ。作戦の練り直しのおかげだぞ」


「そうなのか…?」


 桜花には承服しがたいことだが、自分に向けられた信頼故に助けてもらえるタイミングが遅らされたということは好い気はしない。


「次からはもうちょっと早く助けて欲しいね」


「善処しよう」


 姉が呟き、妹も頷く。これは次もさっさとは助けてもらえないな…と身構える桜花であった。

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