第28話 おれは征く(中編)

 アル=マグリブへは直通できる距離だが、ガングニール部隊本部は地中海を挟んでヨーロッパ側のジブラルタル基地に置かれることになった。


「現地の混乱が極まっており、また、敵歪みの行動範囲が広範囲に渡るためだ」


 ジブラルタルに降り立ってすぐの作戦会議で、マッカネンは言った。今回の任務は難しいだろう、と。


「空挺作戦を行う。爆撃機で索敵し敵に接近、魔法少女を放出して脱出。魔法少女は背水の陣となるが―――」


 大丈夫だろうか?とマッカネンはルーに目線を送る。


「大丈夫です。どのような状況であろうと、戦うのがノブレス・オブリージュ。魔法少女に選ばれた私たちの役目です」


 あ、勝手に「私たち」にしやがった。巻き込みやがって…まあ、やるけどさ。そんな桜花の思いを置いて、会議は進む。


「―――では、各員一層の奮起を望む。配置に付け!」


 桜花とルー、魔法少女2人は出動命令に即応できるように、滑走路脇の搭乗員詰め所に一室を与えられた。周りはガングニールのパイロットたちの部屋だが―――


「なんだ、あの娘たちは?」


 一般の戦争に従事するパイロットたちも詰めている。彼らから見ると、若いフレジュール人はともかく、黒髪の美しい大和人は珍奇にも程がある。


「マグリブでの極秘作戦に送り込まれたエージェントらしい」


 正確な噂を基地上層部に頼んで流してもらうことで、事態は収拾したが―――


「これだよ、これ!」


 注目を浴びる羽目になったはずの桜花はとても喜んでいた。ヨーロッパ人だらけのガングニールに放り込まれて、無視を決め込まれている(個人主義ゆえに注目されない)と思っていた。そこに、沢山の兵士たちからの視線。しかも、熱い視線は非常に心地よかった。


「突然、現れた謎の戦士!注目して当然だよなあ!」


「うるさい」


 興味なさそうにルーが切り捨てる。実際、全く興味が湧いていない。


「何だよ…静かに良い子ちゃんぶってさ」


 しかし、ルーの興味は別の方向を向いている。


「…来る」


「何が―――」


 来る?何が?尋ねようとした桜花の耳にも、「それ」は大きく響いてきた。


「特別機出撃要請、発令。繰り返す。特別機出撃要請。要員は至急集合せよ」


「行くわよ」


 ルーは傍の得物を引っ掴んで飛び出していった。遅れて桜花も有坂銃を抱えて走り出す。


「なんで分かったんだ…?」




 スクランブルで7機のエゲリア軍戦闘機隊が飛び出し、桜花とルーを載せた爆撃機も飛び立った。先に飛び出した戦闘機隊は、万が一ニムツェ軍機と鉢合わせした時の備えだ。


「うわぁ…」


 人生5度目くらいの飛行機だ。慣れないものだが、今回はそこから飛び降りろと来た。


「落下傘って、大丈夫なんだろうなあ?」


「怖いなら、機上で援護していれば良いわ」


 誰に言うともなく、ルーは言った。彼らは会敵し次第、搭乗員口を開けて飛び出していく手はずになっている。何とも荒っぽいことだが―――とマッカネンが言っていたのが気になる桜花である。


「怖いわけねえだろ!?」


「どうだか」


 ルーはどうやら、戦闘前に戦法を示し合わせておきたかったらしい。


「基本的に、敵と刃を交えるのは私の役目だ。君は私に当てないように、魔法弾を撃っていれば良い」


「そりゃそうだけどよ」


バックアップこうえいの役目とは、前衛の骨を拾うことだ。私が死ぬまで、手出しは結構。さて、来るぞ」


 ヘッドセットから、索敵係員より連絡が入る。敵歪み、発見―――


「だから、なんでわかるんだよ!?」


「…行くわよ」


 言うや否や、ルーは飛び出していく。だから、なんでそんなに思い切りが良いの!と言いたいがために桜花も続く。爆撃機は歪みと距離を取るようにして上空で旋回している。

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