第27話 おれは征く(前編)
魔法少女訓練官、朝比奈小羽からの報告書に、ガングニール長官のムーラン・ド・ロンシャンは満足げに頷いた。
「将来有望な魔法少女が誕生したとのことだよ」
「それは重畳」
向かい合って座る相手はグレイグ・マッカネン隊長。彼は次の歪みが出れば指揮を執る当番の隊長だ。
「次に歪み出現の警報が出れば、佐倉さんに行ってもらうことになる。新人を預けるわけだ。よろしく頼むぞ?」
「責任重大ですな…」
魔法少女の初回出撃でのPTSD発症率は40%を超える。そして、3回目までに半数の魔法少女がPTSDを発症する。初回でのPTSD発症を避けるのは、その半数に入らないようにする上でかなり重要な試金石だ。なお、健康に数えられるもう半数の内、3割は戦死者なのだが。
「責任重大だ。精神が健康な魔法少女ほどありがたい存在はいない」
現在、健在な魔法少女の8割が問題を抱えている。いきなり味方に刃物を振りかざす魔法少女を戦場には連れていけない―――
「本当に、重大な問題だ…」
組織運営上、個人としても。ロンシャンとマッカネンは魔法少女の健康を願わずにはいられない。
その3日後、アフリカのアル=マグリブ王国から緊急通報があった。
「謎の巨大生物出現、至急救援を請う」
四本足、体高は15mの巨大なラクダに似た生物が暴れまわっているらしい。行く先々で「爆発」を引き起こしたいるらしく、現地の機甲戦力も軒並み爆破され、地中海沿岸は壊滅状態だとか。
「魔法少女、出撃だ」
「ハッ!」
マッカネンは出撃する人員の選出に取り掛かった。主戦力となる魔法少女、彼女たちを心身ともに支える、適切な人員の配置―――
「今回は試験的なものだ」
桜花とその他隊員の心理的な組み合わせが未知数だ。誰にでも朗らかな彼女なら問題は少なさそうだが、人にはどこに問題が隠されているか分からない。
「なるべく、問題の少ない隊員で構成しておくか…」
桜花の相棒となる魔法少女も、ムラッ気の少ない魔法少女にする。彼女とは初体面になるだろうが。
「よし、これで行こう」
在ブルクゼーレの隊長たちとその副官たちを交えた会議を大急ぎで行い、2時間ほどで人事案を組み立てる。いつものガングニール出撃前の風景である。
「桜花とルーを」
マッカネン隊長は主力となる魔法少女を呼び出した。
桜花の前には、金髪を通り越して赤毛の少女がいる。ルー・ド・キャヴァリエール。桜花にとっては先輩となるガングニールの魔法少女だ。
「こいつは大丈夫なんだろうな…?」
思わず考えてしまう。自分は後衛なので、彼女は前衛ということになるだろう。いきなり、後ろを向いて刃向ってこられないか。ちょっとしたお化け屋敷気分である。
「心配召されるな。私はそのようなことはしない」
「!?」
心を読まれてた!と桜花は動揺する。瞑目していた赤毛の少女は、片眼を開けて桜花の方を見る。
「新人の
「なんだと!?」
戦場で最前線に立つ自分が仕留めそこなったり、窮地に立った時に助けに入る後衛。それが新人では確かに不安にも思うものだろうが。
「だからって、口に出すなよ!」
「本当のことだろう?」
どうやら、ルーは物事をはっきりとさせておかないと気が済まない性質らしい。気にしていることをズバズバ言って来る。
「これでも、一番マシな部類の魔法少女なのだ…」
その様子を見守っていたマッカネン隊長たち討伐隊首脳陣は、忸怩たる思いでいる。問題の少ない魔法少女はほどんど世界中を飛び回っている。たまたま空いてたのが、「ちょっと問題のある」ルーだったというだけのことだ。
「頼むから、暴発だけはしないでくれよ…」
無事ならクレアやエイレーネーと組ませられたら―――と思わずにいられないマッカネンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます