第26話 おれは掴む(後編)

 そうか、そんなに気に入らへんなら―――と、小羽は提案した。


「その魔法箒を使って、模擬戦やろうやないか?」


「え」


 小羽はハンデとして白樺の練習用魔法箒で相手をすると言う。つまり、銃剣術と剣術の戦いだ。


「いやあ、正規の魔法箒が手に入ったくらいで―――」


 勝てねえよ、とためらう桜花だが、小羽によって、ズルズルと外に連れ出されてしまった。


「うーん…」


 十分な長さがあるので銃剣は着けない。1.4mの長さがある三八式・大型と1mちょっとの白樺の棒なら、確かに銃剣の長さは有利だが―――


「ほな、行くで」


 ゴッ!と迫って来る小羽に、慌てて銃床を突き出す。頭、額を狙ったものだが、首を捻って避けられる。そのまま、銃床を下に振り下ろす。小羽は後ろに下がる。

 とにかく距離を取る。リーチが長くなった桜花にできることと言えばこれくらいである。こちらの武器の方が重い。とにかく相手の間合いに入らない、こっちの間合いギリギリで戦闘する。


「消極的やなあ」


「うっせぇ!」


 そういうところが後衛ポジション―――銃の魔法箒に選ばれた所以だろう。小羽の持論は、魔法少女が魔法箒を選ぶのではなく、魔法箒が魔法少女を選んでやって来る。だから、魔法少女はその武器に恥じない戦いを見せないといけない。


「今のでそれができてるとは、言い難いで!」


「うっせえなあっ!」


 小羽の間合いに入らないことで、戦える時間は長くなってきているが、無駄に大型となった三八式は取り回しが難しい。しかし、桜花にとっては今までよりも明確なイメージに近い戦い方ができている。兵士時代に身に付いた基本動作を、今の身体能力でダイナミックに、より緻密に―――


「おっと」


 渾身の突きが小羽の剣を捉えることが多くなってきた。今まではいなされ、避けられてきたものが、徐々に当たるようになってきている。


「これか、これなのか…?」


 大型の三八式歩兵銃が彼女の武器として渡された理由とは。兵士として今まで磨いてきた基本動作を目一杯、活かして戦うためなのか…?


「それだけなわけないじゃろ」


 竜天が言う。魔法箒とは、桜花を介してつながる形となる。その彼が言わんとしているところとは。


「まだできることがあるはずじゃ。考えてみろ」


 そんなこと言われても…と考える桜花。これは銃だ。銃の本領は撃つこと。


「でもさ」


 確かに小羽は言った。通常弾を込めれば普通の銃として使えると。なら、何かをすれば特殊な銃として使えるということ―――


「おりゃあ!」


 随分と大振りな小羽の攻撃。仕掛けるなら、ここだ!


「行け!」


 自分の中の、神の力。それをほんの少し切り離して、魔法箒の銃に移す。それは、瞬時に銃弾に変わる。


「パパパ…」


「うおっ!」


 いきなり射撃。それも3発連続。たとえ受けても死なないにしても、これには小羽も面食らって大急ぎで回避行動をとった。


「そこだ!」


 小羽の回避地点、ちょうど頭が動いてきたところに、桜花の銃口が突き付けられていた。


「やっと気づいたかあ…なんでそないな簡単なことに気づかんのやろなあ?」


「うっせえ!おれの勝ちだからな!」


 銃型魔法箒の基本にして最大の武器「魔法弾」。込めた力によっては歪みの頭部を一撃で消し飛ばす一撃をもたらす、持ち歩ける大砲だ。


「そんなモンを人に向けるなんて、粗放モンやなあ…」


「知らなかったんだよ!?」


 ギャーギャーと言い争う桜花と小羽。何が起こったのか、傍から見ていた小夜子には一切、分からなかったが、これだけは言えた。


「多分、これで桜花ちゃんは魔法少女になったんだなあ―――」


 小羽がこの訓練で教えたかったのは二つ。魔法箒の取り扱い方と、神の力の使い方。これらができなければ、歪みとの戦闘に赴くことはできない。


「つまり、満点やないけど合格っちゅうことやなあ」


 この日、1人の魔法少女が誕生した。

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