第25話 おれは掴む(中編)
桜花と小夜子はエイレーネーの変調を報告し、冷たい水を用意した。
「ホラ、持ってきたぞ!」
「はァ…ハァ…すまねえ…」
差し出された水差しの水を飲み干し、エイレーネーは扉を背に、そのまま崩れ落ちた。
「おい!?」
「心配すんな…気が抜けただけだ…」
彼女が言うには、エイレーネーの精神性は燃えやすい、炭のようなもの。一度火が付けば、燃え盛り、自分ではどうすることもできなくなると言うが、冷たい水を飲むことで抑えが効くようになると言う。
「大丈夫、今はな…」
ふらふらと立ち上がり、自室の扉を開ける。
「助かったぜ。もうちょっとで大爆発するとこだった」
そんなエイレーネーの手首を、小夜子は掴んだ。
「え」
ギュッと、抱きしめる。
「独りじゃ、ないんだからね?」
「…止めとけ。今のあたしに抱き着いたらやけどじゃ済まねえ」
無理やり引き離した小夜子の頬は、少しやけどしていた。
「ホラ、言わんこっちゃねえ…医務室に行ってきな。あたしは寝る」
言うが早いか、エイレーネーは自室の扉をパタリと閉めた。しかし、先ほどの抱擁は彼女の心に強く残った。
「ねえ、無茶しすぎ」
「うん、そうだね…」
言われた通り医務室に向かい、やけどの治療を受ける小夜子。桜花は呆れてものも言えないという風だ。
「まあ、まさか、まんま燃えてるとは思わないけど、今のあいつは危険すぎたよ」
「うん…」
でも、と小夜子は返す。
「私は普通の人間だから、無茶しないとみんなと並べないよ」
「うーん」
その必要はない。ないのだが、本人がそれを使命だと捉え始めていることに危機感を抱き始めた桜花だった。
そして、3日後。
「できたでー」
「おお!」
風呂敷に包まれた、棒状の物。少し凸凹しているようにも見える。あれが桜花の魔法箒―――
「精神鑑定なども加味して、こうなったんやな」
バサッと風呂敷を取り去る小羽。そこには、割と見慣れたものがあった。
「…サンパチじゃん」
「アリサカ・ライフルだね」
「せやな」
眉を顰める桜花。こんな見慣れたモノが、本当に魔法箒なのかと。
「よーく見てみ。ちょっとだけ
「ほんとぉ~?」
受け取って、銃口をのぞき込んで、銃床を眺め見て―――
「あ、ちょっと長いな?」
「おっ、気づいたな?さすが、良う知っとるやんけ?」
全長1.276mの三八式歩兵銃。小羽の持ってきたそれは、それより一回り、明らかに大きい。
「女の体にこれは、厳しくねえか?」
銃の大きさは取り回し、扱いやすさに直結する。体に対して大きければ大きいほど、扱いづらいのでは…?
「ちゃんと考えてのことや。射撃訓練所、行ってみよか」
一般のガングニール兵士も使う射撃訓練場。こんなところで魔法箒をぶっ放して大丈夫だろうか?
「大丈夫、通常弾を使えばただのライフルと変わらんから」
桜花は促されるままに、1発の弾丸を込める。
「やっぱ、ちょっと大きいぞ」
彼女の腕の長さに比して、与えられた銃の長さは長大に過ぎる。
「歪み相手は弾なんぞ込めへんから。今は撃ちやすさだけ見たらええねん」
「はあ…?」
そうして、立位での射撃体勢に移る。
「おっ」
銃が大きいせいか、保持が楽だ。筋力も上がっているから、大きくなって増した銃の重さが苦にならない。そして、一発―――
「ど真ん中ですね」
射撃線から標的まで、50m。腕が良ければいくらでもど真ん中に当てられるだろう。しかし、これが桜花の銃の初射撃と聞いて、管理者も驚いていた。新品の銃で正確に的を狙うのは難しいことを、管理者の大尉は嫌というほど知っている。
「まあ、悪くないけど…」
性能はともかく、形やら気分やら、何もかもが乗らない桜花なのであった。
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