第24話 おれは掴む(前編)

 さらに1週間、桜花は未だに小羽から一本を取れないでいた。


「強すぎんだよ!」


「そらなあ」


 経験値が違うわ、と小羽。50年の経験値は、5年ほどの軍務しか経験していない桜花とは格が違う。


「でも、そろそろええかな、と思とるんや」


「何がだよ?」


 桜花は首をかしげる。小羽は説明する。


「だいたい、お前さんの戦闘スタイルが分かったわ。前線のドンパチは向いとらんな。後衛や」


「後衛ぃ~?」


 桜花は非常に疑念を口にする。嫌そうだ。


「そう言うなや。後衛は大事なんやで?前衛の援護だけが仕事やない。戦闘のバックアップ役やからな。前衛が苦戦しとったら助太刀したらなアカンし、もし討たれでもしたら代わりに歪みを討ち取らなイカン。視野が広く、確実に仕留められる実力が必要になる」


「おれにそれができるって!?」


 桜花は一転、目を輝かせて言った。物は言いようだなあ、と小夜子は思う。


「うん、できる。視野の広さが体の動きを凌駕してしもとるのは問題やが、見るべきモンは見えとる。問題ないよ。実力は歪みと戦う内に付いてくる。魔法箒を造ったろ」


「おっしゃあ!」


 魔法箒。魔法少女にとっての翼であり、一番の武器。魔法少女の戦力の心臓部。ついに手に入るのか。


「桜花ちゃん、やったね!第一歩だ!」


 小夜子も喜んでいる。やっと、義妹が本懐を遂げる日が近づいて来ていることに。


「魔法箒の製造は3日かかる。それまで、独りで頑張りぃや」


 クレアはまた不調に陥っている。エイレーネーもここ最近は不穏だ。相手をしてくれる人がいない。


「なんか、おれ、避けられてる気がするんだけど!」


 桜花はここ最近の不安を口にする。ああ、と小羽も答える。


「そりゃあな。理解者が身近におるなんて、他の魔法少女からすると羨ましいモンやで。妬ましい、とすら思う子もおるやろな。魔法少女は横のつながりが薄いから、噂にはなっとらんけど、桜花は敵愾心を持たれとるな」


「マジかよ…」


 基本的に孤独な魔法少女。常に死と隣り合わせの魔法少女。彼女たちからすれば、いつも隣に姉と慕う女性がいるのは、なんとも妬ましい限りだ。


「小羽ちゃんみたいに、皆が素直ならいいんだけど」


「あ、あてが素直やて!?」


 そんなんちゃうわ!と否定する小羽だが、こないだ見せた涙は否定できない。


「皆、あんな風に頼ってくれると良いんだけど…」


「え、皆にやるつもりなの」


 小夜子のハグセラピーとでも言うべき精神治療。絶賛、施術希望者募集中である。


「まあ、効くは効くからなあ…必要な子を見繕うのもええかも知れんな。隊長連中と連絡して、何かあったらどうにかできる魔法少女を配置して…ハードルは高いなあ…」


 それでも、小夜子の真心は傷ついた魔法少女にこそ必要だと、小羽は本心からそう思う。


「あてからも進言してみる。小夜子ちゃんは貴重な人材や。桜花だけに張り付けとくのはもったいないわ」


 自ら仕事を増やし、小羽は去って行った。




 桜花と小夜子は寄宿舎の自室周辺に戻って来た。眼前で扉が突然開く。


「ぐっ…お前らか…!」


「エイレーネー、大丈夫か!?」


 桜花は自然と小夜子を庇い、身構える。だが、魔法箒の槍は持っていないようだ。少し、安心した。


「離れろ…今のあたしは何してもおかしくないぞ…!」


 エイレーネーと桜花の力差では、例え魔法箒が無くとも圧倒されてしまう。桜花はじりじりと下がり始めた。そこに、エイレーネーから待ったがかかる。


「スマン、頼みごとが…あるんだ…水を飲みたい…持ってきてくれないか?」


「分かったよ。氷を入れたキンッキンの奴、入れてもらって来てやる。それまで、暴れるんじゃねえぞ!」


 小夜子の手を引いて、急いでその場を離れる桜花。その後ろ姿を見て、暴れ始めた右腕を抑えながら、エイレーネーは一言。


「良い奴だな、あいつ…」


 これまで、「冷たい水が飲みたい」なんてお願いは聞いてはもらえなかった。飢えと渇きの中、暴れ出しては嫌われて―――

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