第34話 おれは指導する(前編)

 その日、早速、小夜子からマッカネン隊長に「桜花とならサラは戦えそう」という本人たちの意見だけを元に上申がなされた。


「サラが?そう言ったのかね?」


「は、はい…」


 実際に言ったのは桜花だが、そういうことにしておく。マッカネンは思案する。


「確かに、彼女は面倒見が良いと評判だ。戦闘でもな。だが、経験の浅い者同士を組ませるのは―――」


 そこだけが懸念材料だ。まだ3度しか出撃していない桜花と、まだまだ19回のサラ。この間のように、大禍寸前の歪み相手では心もとない。


「うーむ、2人では心許ない。前衛をもう1枚入れておこう」


 そういう条件で次戦のチームが組まれることになった。




「はあ、ナニコレ。貧乏くじ」


「何だと?」


「はわわ…」


 現在目指しているのは、ルーシ国の黒海沿岸の都市、オデッソスである。この機内で、アデライード・オブスタクルは愚痴っていた。今回のメンバー割りに関して。


「お姉ちゃん大好きの新人ちゃんに、弱々のサラ。どう見てもあたしが大変じゃない!」


「悪いかよ!?」


「お、落ち着いて…」


 アデライードは10年目で、確かにこの中では一番年長だった。彼女はガングニールの平均的な魔法少女だ。個人主義で、気に入ったもの以外には排他的だ。


「ま、そんな奴だからサラが輝くんだけどな」


「何の話よ?」


「べっつにぃー?」


「はぁ?ムカツク…」


「あわわ…」


 非常に険悪な空気のまま、オデッソス近郊までやって来た。黒海沿岸の港町には、現在、イカのような姿の歪みが出没しているという。


「本当にイカみたいな姿だとしたら、厄介ね」


 歪みを消滅させるには核を撃たねばならない。イカの体なら、核は足の数だけ―――つまり10回以上も核を移動させ続けられる。


「かなりの消耗戦よ。敵は海に逃げるだろうし…」


「それなら大丈夫だよな?サラ」


「えっ!」


 何のことだろう、と困惑する。


「消耗戦は、お前の一番輝く舞台なんだよ」


「???」


 サラもアデライードも、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。基本的に、戦闘で作戦を立てるのは後衛の役目だ。桜花が主導権を握って作戦を説明していく。


「サラには囮になってもらう。なるべく多くの足を相手してくれ。その間に、アデライードが核を討つ」


 おれはその援護だな―――という作戦。アデライードは真っ向から反対した。


「アンタ正気!?弱い弱いサラが5本も10本も足を引きつけて戦う?無理!」


「サラならできるさ。危なくなったら、お前が回収して戻ってくれば良い。あのイカはまだ、それほど被害も出してないから急がなくて良いしな」


「さいってい…」


 しかし、アデライードは強くは反対しなかった。今回は桜花の後衛としての独り立ちのため、なるべく彼女の立てた作戦に反対しないよう、隊長から頼まれている。


「あたしがちゃんとしなきゃ…」


 如何に弱虫とはいえ、それを見殺しにしたらそれ以下だ。彼女は個人主義だが、仲間とされている存在を切り捨てて平然としているほど、落ちてはいない。


「それなのに」


 アデライードは目の前の光景が信じられなかった。弱いサラが、単独でイカの歪みの前に立っている。そして独り、イカの足を捌いている。


「もう10分…あれが本当にあのサラなの!?」


「そんな驚くことか?」


 桜花は当然の事実として受け止めている。今、2人は100mほど後方の岩場に隠れ、サラとイカの戦闘の様子を見守っている。主にイカの動きを観察していた。


「サラは元々、あれくらいはできるんだ。今まで、やらない内から周りが横槍入れてただけで」


「それにしたって」


 アデライードにはあのような戦闘をこなせる自信が無い。あんな、反射神経だけに頼った博打的な―――


「はあっ!」


 やがて、サラは足の内の1本を撃破した。

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