第35話 おれは指導する(中編)

「アンタ、いったい何を教えたの…?」


「あ?」


 魔法少女のお荷物と言われて久しいサラの、あまりの変わりように、アデライードは桜花を問い詰めた。


「サラがあんなに戦えるなんて!あり得ないでしょ!?」


「そんなことねえよ…」


 この戦闘を迎えるにあたって、桜花がサラにかけた言葉が1つだけあった。


「今回、お前が死のうがどうなろうが、おれは助けねえぞ」


 その代わり、援護射撃は目一杯してやる。それだけだった。


「そんな、無責任な!」


「あいつはただの歪みなら、あと足が2本増えても捌く力があるよ。それを、今まで過保護に矯め直して、弱々にしたのはお前らだろうが」


 今度は助けてもらえない。生き残るために、自分と魔法箒の特性をフルに活かせるよう、考えさせた。それが今回の戦闘法―――


「ヤアッ!ハアッ!」


 元々、斧を振り回す腕力はあったのだ。小さく取り回すには長すぎた柄を短くできるか試し、結果的に成功した。斧を片手で振り回し、空いた左腕は防御に使う。


「戦えてる…!」


 柄が長いのは利点だと思っていた。しかし、桜花との模擬戦で気づかされた。


「この棒でも、私には長い…?」


 自分の射程範囲は、もっと小さい空間だったのだ。無論、難点もある。


「危ない!」


 死角から迫っていた足が、桜花の援護射撃に薙ぎ払われる。見える範囲だけを反射神経だけで反応して回避しているため、どうしても取りこぼしがある。そこに、桜花の援護射撃が入る。


「センパイ、そろそろ行ってやれよ。サラだって疲れるぞ」


 もうかれこれ30分も1人で矢面に立たされている。サラが今まで、単独で前衛を担当した時間は、長くて5分間だった。


「だいたい、動きも掴めた。あの子のおかげね」


 アデライードが動き始める。足は少なくとも常時2,3本、次の攻撃動作の準備のために待機行動に移る。


「そこだ!」


 待機している足を狙い、まとめて狩る。再生する前に、サラを襲う残った足にも襲い掛かる。


「やるじゃない!」


「えっ…いや、はは…」


 サラと合流して感嘆の言葉をかけるアデライードにも、サラは微妙な反応である。


「とっとと片づけるわよ!」


 足を1本、2本と切り刻んでいく。援護射撃も胴体の目や足に当たり、なかなか効果的だ。


「良いじゃない!」


 これなら倒せる。アデライードが「勝利」の二文字を感じたその瞬間―――


「グッ!」


「アデライードさん!?」


 以下の巨大な足が、アデライードの胴を捉えて弾き飛ばした。


「チッ!」


 アデライードの容態を確かめるために、桜花が岩場を飛び出した。彼女は岩場に跳ね飛ばされている―――


「大丈夫か!?」


「ぐ―――」


 意識はありそうだ。頭を打ったわけでないのであれば、魔法少女はいくらでも蘇生できるし、障害も残らない。


「しばらくは無理そうだな…」


「早く、サラのところへ―――」


 この期に及んで他人の心配とは余裕があるな―――だが。


「それには及ばないようだぜ?」


「え―――」


「ギャイイイイイイイイ!」


 歪みが、断末魔を上げていた。




 アデライードがやられた。自分のせいだ。自分が、弱いから―――


「でも」


 分かったことがある。核は足にある。それも、自身を襲ってくる足にのみ、核は隠れている。


「一番、良い動きをする足。そこに核はある」


 攻撃の際、彼女を付け狙う足。そこに核はある。そして、それは不意に無防備な姿をさらした。


「アデライードさんを襲ったあの足―――」


 そこに核はある。サラは直感した。やれ、と本能が囁く。一瞬の判断。防御を捨てて、アデライードを弾き飛ばした足に突っ込んでいく。


「うわああああああああ!」


 足先を刈り、肉片をバラバラにした。足先を取られた時点で、イカは固まり、核が含まれた肉片を切り刻んだ時、イカは果てた。

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