第33話 おれは聞く(後編)

 小夜子に促され、サラは具体的なエピソードを語り始めた。


「私はこれまで19回出撃してて、まだ歪みを倒したことが無いんです…」


「それは…どうして?」


「私が弱くて、後衛の方が手を貸してくださって―――」


 前衛が危機に陥れば手を貸すのが後衛の役目だ。しかし、その頻度があまりにも高すぎる、と彼女自身も周囲も思っていた。


「私の戦闘は誰の目から見ても危ないらしくて、19回とも後衛の方に…」


「マジかあ…」


 黙っているつもりだった桜花は、つい声に出してしまった。自分が後衛だから分かる。「いくら弱くても、前衛から助けを求められない限りは手を出すな」と、教官である小羽からも、初めて組んだ相手のルーからも強く念押しされている。それが何も言わない内から手を出してきたというならば―――


「余程…弱いんだな…お前…」


「はい…」


 桜花の呆れとも驚きとも取れる声に、しょんぼりとサラは返答した。


「つまり、サラちゃんは弱い自分を変えたい…と?」


 何とか話題を実りある方向に持って行こうと、小夜子がフォローを入れる。ここに来てもらったからには、何かを持って帰ってもらわないと困る。


「はい、強くなりたいんです…けど、人に相談したところで」


 強くなれるわけないんです、とサラ。もっともな話だ。もちろん、小夜子には魔法少女を強くする手段は無い。


「そんなに弱えーって、逆に興味湧いてきたな。模擬戦やってみようぜ?」


「え、えぇ…」


「そうね、弱い弱いって、歪み相手だけかも知れないし」


 そうやって小羽から模擬戦用の白樺棒を借り、芝生のグラウンドにやって来た。既にサラはビクビクしている。


「ひっひえぇ~」


「いや、構えろよ」


 こっちから行くぞ、と軽く仕掛けてみる。


「ぴえっ!?」


 どうにかこうにか受け止めて、頭への直撃を避ける。


「オラオラオラァ!」


「ひええええええええええ!?」


 桜花は力任せに打ち込むが、そのいずれも、刃はサラの肌まで届いていない。


「うーん…」


 小夜子には、1つの疑念が生まれていた。休憩を取り、2人を呼び寄せる。


「ねえ、桜花ちゃん。サラちゃんって弱いの?」


「えっ!?」


「ああ…」


 うーん、と唸って、桜花は答える。


「別に、メチャクチャ…棒にも箸にもかからねえ!ってんじゃねんだけど。こう、攻撃する意思というかな―――」


 守勢一方になって、折角の武器が台無しになっている、と桜花は見ている。


「武器は斧なんだって?どんな斧なんだよ?」


「えっと、柄は…この棒くらいは長くて…豪華な刃先が付いてます」


「刃先は?どんくらいでかいんだ?」


「こ、これくらい―――」


 サラは芝をなぞった。おおよそ、人の頭3つ分の形だ。


「重いんじゃね?」


「う、うん…結構」


「なるほどな」


 桜花は合点が行ったと手を叩いた。そして、小夜子に言った。


「小夜子ねえ、こいつの面倒見てやるよ。次は俺と一緒に出撃できるように掛け合って!」


「ええ!でもぉ…」


「でも、じゃねえの!このままお荷物扱いで良いわけねえだろ!」


「でも、なのは私も同じかな。あなたが危険にさらされるのを看過するわけには」


「まあ…そりゃそうか」


 桜花は問題点を挙げていく。


「こいつに足りないのは、経験だ。敵を倒す経験。後は武器の扱いに関する経験。19回も戦ってきやがったくせに、こいつは何も経験しちゃいねえんだよ」


「そっ、そうなんですか!?」


「…あなたが付いていれば、サラちゃんに戦い方を教えられる、と?」


「今まで誰にも教わってないってんなら、仕方ねえよな。でも、教官は教えてくれなかったのか?」


「その、私以外に3人、同期入隊した魔法少女がいて…教官はお忙しそうで―――」


「まあ、その性格じゃあな…」


 教官には世話になったんだし、その穴埋めは俺がするよ!と請け負った桜花であった。

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