第13話 おれの仲間(後編)

 魔法少女クレアが口を開いた。


「失礼ですが、お二人はどういった関係なんですか?姉妹には見えませんが」


「複雑なんだよ…な?」


「そうね…」


「しかし、説明しないわけにもいくまい?」


 適当にはぐらかそうとしても、マッカネンが許さなかった。仕方なく、簡単な経緯を説明する。


「なるほど、戦場で出会った義姉妹―――中々、無いことです」


「そうなの?」


「ええ。大体、魔法少女は追い詰められて独りで覚醒することが多いですから。ゆえに、孤独。ですが、あなたには理解者がいるんですね」


 羨ましい。ポツリと漏らしたのは、偽らざるクレアの本音だった。彼女もまた、孤独に戦う魔法少女の1人だ。


「って、仲間がいるんじゃねえのか?」


「仲間?ああ…」


 同じ魔法少女、という枠でなら同列の存在はいるにはいる。だが。


「ガングニールの子供は人格破綻者の集まりです。軍人さんは、マッカネンのおじさま始め、人格者ばかりなのですが…」


 後方要員は信用できるが、最前線で自分の身を守ってくれるのは自分だけだ、とクレアは言う。


「私も、あまり人付き合いの良い方ではありません。今は虫の居所が良いだけで、次会うときは無視するかも知れない。だから、今の内に忠告しておきます」


 魔法少女を信用するな。むしろ、大人を信用しろ。自分の側に立ってくれる貴重な人々を。それが、クレアが15年間、魔法少女をやってきて学んだ鉄則だった。


「15年…15年!?」


 桜花には15年やってきた、の方が気にかかった。


「15年も少女やってるの?」


「ウム…」


 マッカネンは苦笑いしている。


「魔法少女はある時まで…およそ60年間と言われるが、年を取らないのだ。そして、ある時一気に老化して、灰になったかのように死んでいく。生き死にの感覚も違う生き物だよ」


「マジか…」


「何もかも、常人と違う。でもだから、人との交わりは大事よ」


 クレアは瞑目していた。


「私たちは簡単に歪みと同じ存在に振り切れることもある。人間性を保つために、努力していないと簡単に人として死ぬわ」




 桜花は天井を見上げていた。先ほどまでの話を反芻している。


「人間性…竜天も言ってたな」


「ウム。眷属…魔法少女が歪みと同等の存在になって人に仇為したことは聞いたことがある。片手に足るほどのことだが」


 竜天の指は4本。4回以内ということだろう。


「私がいる限り、そんなことさせないから!」


「ねえ…」


 小夜子は最初からそのために参加したのだ。桜花が1日でも長く生き抜くために。


「あのクレアって娘、独特だったな。眷属ってのは皆ああなのか?」


「さあなあ…千年前に弟の眷属ぐらいしか見たことが無いが、人としてはまともだったと思うぞ?」


「気の長い話してんなあ…」


 千年前と今の人間ではまるっきり違うだろうし、基本的に竜天は信仰者のいる晋大陸の江南地方を離れることは無かったから、情報に乏しい。


「じいさん、何も知らねえじゃねえか…」


「ハハハ!面目ない」


「本当に思ってんのかあ?」


「でも」


 小夜子なりの感想が1つ。


「兵から士官まで、国連軍の人は誠実そうで良い人ぞろいだったね」


「そうだな。大和とは全然違う感じだったな」


 権威主義が根強い大和帝国軍と、リベラル気味な国連軍。個人として放り出されてからわかる、後者のありがたさであった。


「2日後にブルクゼーレに出発だって。ヨーロッパだよ。行ったことある?」


「無いよ。ねえは?」


「無いねえ…」


 ガングニールには大和人の職員や魔法少女もいると聞くが、職員はともかく魔法少女は難しそうだ。前途は多難そうにも思える。


「でもさ、小夜子ねえが付いてきてくれるんだろ?なら、頑張るよ」


「うん。頑張ろう。歪みを倒しきるために」


 敵は強大で、味方はまとまりに欠ける。しかし、自分たちがしっかりしていれば、折れることは無い。小夜子は桜花を支えるという思いを、新たに、強くした。

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