第12話 おれの仲間(前編)

 不意に、執務室の扉がノックされた。


「おじさま、入ります」


「ああ、どうぞ」


 入ってきたのは金髪の少女だった。手には立派な拵えの長い太刀を持っている。


「…そちらが?」


「ああ、佐倉桜花さん。ガングニールで働いてもらう。隣は同伴者の安藤小夜子さんだ」


「あなたが、あの雑魚を倒したのね?」


「まあね」


 金髪の少女からはただならぬ空気を感じる。相当な使い手だ。


魔法箒まほうきが無かったのは仕方ないけど、詰めが甘いわ。幸い、私が来るまで大人しくしてたみたいだけど、近隣の方にもう一暴れしてもおかしくなかった。何故、首を取らなかったの?」


 話によると、あの龍の怪物を消滅させたのがこの少女らしかった。


「なんでって…あれだけじゃ足りなかったのか?」


「ええ、眷属は歪みを滅すところまでがお仕事よ?」


「そうなのか」


 そこに、マッカネンが割って入った。


「クレア、そこまでだ。桜花さん、この娘はクレア・マウントゴッデス。おばあさんも眷属だったという筋金入りの『魔法少女』だよ」


「魔法少女?」


「ウム、ガングニールでは眷属の少女をそうぶ。最新鋭の魔法科学の装備を駆使して戦う少女、縮めて魔法少女とね」


 続いてマッカネンはクレアに桜花と小夜子の紹介を行った。


「魔法少女の保護者…?聞いたことが無いわ。眷属に保護者なんて」


「だが、君たちの精神安定には良いと思うんだ。まだ君は大人しくて助かるが」


「確かに…そうね…」


 クレアにも思い当たるフシはあるらしい。マッカネンに同意する。


「一匹狼が大好きな奇行種ばかりよ。貴女、友達作りは諦めた方が良いわね」


「まあ、元からそんなつもりねーけど…」


 これは桜花の心からの疑問である。


「そんなにヤバい奴らなの?」


「ええ。私も結構、バランスを踏み外す時がある。おじさまに迷惑をかけたこともあるわ」


「まあ、この子はそれを理解してくれるだけマシな方だな…」


 マッカネンは頭を抱える。


「酷いのは町一個を完膚なきまでに破壊して、平然としているんだ…」


「マジで」


 スケールの大きな話に、桜花と小夜子は言葉を失う。竜天が言っていた力とはそういうモノなのだと。


「その刀?が魔法箒なのか?」


「ええ、そうよ。ペットネーム『五月雨』。私には似つかわしくない、和風の武器ね」


 金髪の美少女が大物を振り回すのはそれはそれで絵になるだろうが、確かに完全な白人のクレアと、彼女の身長ほどある大太刀とは不釣り合いな印象を受ける。


「大体は、その少女の精神性を形作った武器が造られる。クレアの真っすぐな性格が五月雨を呼んだのだろう」


「おれにも造ってもらえるんですか?」


「もちろんだとも」


「組織…ガングニールって何なんだ?魔法少女を管理する団体なのか?」


 桜花の疑問は尽きない。マッカネンは説明を続ける。


「ウム、国連安保理直轄の組織だ。50年前から、歪みとの戦闘を開始している。もっと昔は列強国有志の団体だったが、今では安保理に承認された、国際連盟の正式な機関だ。給料は連盟が保証してくれるので、かなりの額を出せるぞ」


「家族に送っても?」


「それが希望ならそうしよう。まあ、魔法少女の大半は自分で散財してしまう娘が多いから、あまりしたことは無いな」


 きっと、ストレスの多い職場なのだろう。生きていることを散財で証明しているようなものだ。


「小夜子ねえは一家の稼ぎ頭だったらしいんだ。俺の給料なんて半分で良いから、安藤家に送ってあげてよ」


「半分でもまあまあな額だが…そこまでするかね?」


「そうよ、あなたのお金はあなたのお金でしょう?」


 マッカネンと小夜子が同時に諫める。


「だって、明日どうなってるか分かんないんじゃ、おれも散財しちゃいそうだ。なら、ねえの仕送りの足しにしてやりたいよ」


「桜花ちゃん…」


 その様子を、クレアは興味深そうに観察していた。それはもう、興味津々で。

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