第11話 おれは属する
グレイグ・マッカネンは既に亡くなった父親と親子二代でガングニールの任務に従事する軍人である。ガングニールはその特殊な「神殺し」という任務、そのための様々な人間関係から、組織運営側の人間には血縁関係が重視される傾向がある。
「ですので、父の後釜ではないですが、自分もガングニール隊長として任務に当たっているのですよ」
「なるほどの」
「大佐殿のお父上もおじいさまも、海軍提督であらせられましたか!」
「む?嫌によそ行きの言葉を知っているな?」
「あ…」
「ハハハ、ワシがそれっぽく訳しているんじゃ」
「そうでしたか」
竜天のフォローに、桜花は胸を撫で下ろした。元男の軍人であることは、奇異の目で見られる元にはなっても、得にはならない。それは隠そうと、3人で決めたばかりだ。
「おっと、失礼。レディと立ち話はいけない。どうぞ、そちらの席へ」
「あ、はい…」
「失礼します」
桜花には難しい時間だった。相手は他国軍とはいえ大佐と高位にある人間だ。その人間相手に、馴れ馴れしい口を利くことは彼の常識からはあり得ない。しかし、下士官風の言葉は相手に疑念を与えるに違いない。
「竜天、上手く頼む」
「仕方ないの」
主神と眷属間でのみ伝わる念話で、口裏を合わせるばかりだった。
「しかし、大和陸軍の病院に生き残りがいるとは存じなかった。直ちに救援隊に連絡を取りましょう」
「それなのですが」
マッカネンに水を向けられ、小夜子は初めて口を開いた。
「私の生存報告はもうしばらく待ってからにしてもらえませんでしょうか?」
「む、何故?」
マッカネンは理解に苦しんだ。従軍看護婦とはいえ、貴重な人員だ。1人でも多くいた方がありがたいに決まっている。それがわからぬ人間なのか、と。
「私は、この子に命を救われました」
小夜子は、ここは動機だけはぼかさないで、正直に話そうと懸命に話した。
「この子は…たまたま私が担当することになった患者です。怪我のリハビリのために、外に出ていたところ、あの怪物…歪みに襲われました。この子は私を守るためだけに、勇気を出して歪みに立ち向かおうとして覚醒したんです」
「フム」
マッカネンは、部屋に入ってきてからの2人の様子を興味深く観察していた。桜花の方は自分の方を向いて直立不動に近く、小夜子は自分の目を見ていることは多いが、それと同じくらいの頻度で桜花の方を見ている。
「保護者…保護者か」
桜花に対して姉のような、母親のような、そんな空気を小夜子は持っていた。
「小夜子さん、こんな話を知ってますか?」
マッカネンが語ったのは、主神と眷属の依存性の高さだった。
「正直、眷属と呼ばれる少女たちは…私はこれまで100人近い眷属の少女を指揮してきたのですが、扱いが難しい。繊細なのです。絶えず身近に主神がいて、『自分は特別だ』と刷り込まれる。選民思想と言っては残酷ですが、それに近い思想を持って他者に当たる少女が多い。ゲオルギウス様の眷属や…桜花さんはまだ違うようだが」
「大変なのですね」
「正直、人生の模範となるべき存在がもっと身近にいれば違うのかも知れない、と考えることもありました。貴女は桜花さんの保護者だとおっしゃった」
「はい」
マッカネンは小夜子の目をじっと見た。
「戦いばかりの人生に潰えていく眷属の少女は多い。桜花さんにも、そのレールは既に敷かれている。それでも、桜花さんを応援できますか?」
小夜子はさらに姿勢を正して応えた。
「私は看護婦です。担当患者は見捨てません。何があろうと。最期まで付き添い、看取ります」
「グレート」
マッカネンは希望する返答を得られたことに満足していた。
「あなたの身柄は、国連軍で預かりましょう。給与も出します。ただし、試用期間です。桜花さんはもちろん、ガングニールに悪影響をもたらす存在と判明すれば」
「大和へ帰ります。その前に営巣でも。当然です」
「話の通じる方で良かった。しかし、英語が上手いですね」
「ワシはそこまで手伝いしておらんぞ」
「グレート」
こうして、桜花と小夜子のガングニール就職面接は成功裏に終了した。
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