第10話 おれは訪ねる
国際連盟・連盟直轄特務機関「ガングニール」隊長のグレイグ・マッカネン大佐は焦っていた。
「あのドラゴンを倒した者が見つからないとは、どういうことだ!」
最初は、大和帝国陸軍の聴取責めに遭っているものとばかり思っていた。あの軍はとにかく遅れている。上からの情報遮断具合がすごいのは、ある意味上層部の情報秘匿の素晴らしさに繋がり信用できるのだが―――
「ここまで隠されては困る…」
しかし、密偵を使ってもそれらしい者は軍駐屯地内に発見できない。そもそも、大和軍の情報によると病院は全滅で、生存者はいないと信じられている。
「現地住民の誰かが目覚めたのか」
マッカネンは4日目以降、周辺村落に捜索範囲を広めるべく人員追加の要請を本部に行う寸前だった。
「隊長!怪しい大和人の来訪がありました!」
「何…?大和人?」
病院は大和帝国陸軍の病院だった―――
「八百万の神の眷属と名乗っています!」
「良し!連れてこい!」
マッカネンは慌てて通信装置の電源を落とした。後一瞬で、ブルクゼーレのガングニール本部につながるところであった。
「ふーん」
「どうしたの、桜花ちゃん?」
「いや、良い軍人が揃ってるなって」
歩哨の立ち姿、案内役の所作、陸軍伍長だった佐倉太郎から言えば完璧なレベルである。桜花としては、これが国連軍のレベルの高さなのか、と感動すらしていた。
「如才ない、という奴かな?隙を見出すのが難しそうじゃ」
「隙を見出してどうするつもりなんだよ?」
「さあなあ?」
クックック、と笑う神様を肩に乗せる大和人の少女を、あくまで真面目に見送る歩哨の兵士たち。やがて、2階建ての屋敷の、主人の部屋に着いた。
「エゲリア空軍大佐、マッカネン隊長がお待ちです」
「どうも。でも、こんな小娘の言うこと、信じて良かったの?」
「どういうことかな?」
「スパイかも、とか考えない?」
「桜花ちゃ…」
案内役の士官はそれはあり得ない、と言い切った。
「小官はこれまでに18回、このような『歪み』討伐の現場に出動したことがある。まあ、貴女のような不可思議な少女が戦果を主張する場面に立ち会ったことは何度かあるよ」
「おれだけが変わり種ってわけでも無さそうだね。安心したよ」
「そうかね。では、入ってくれ」
扉を開けると、立派なヒゲを蓄えた、エゲリア軍制服を着こんだ軍人が待ち構えていた。
「グレイグ・マッカネン空軍大佐です。レディ。まずは年上の方から、お名前をお尋ねしても?」
「私は大和帝国陸軍、第15病院部隊の従軍看護師です。この子の…保護者的な役割をしています」
「保護者…?従軍看護師が?そちらの少女は一体、何者なのです?」
「おれは佐倉桜花。今は何者でもありません」
「どういうことかな…?」
マッカネンは混乱していた。状況からして、大和人の若い方の少女がドラゴンの歪みを叩きのめしたのだろう。その少女が保護者として、病院部隊の生き残りを連れてきた―――
「おれたちは、こいつにここまで来いって言われたから来ただけなんだ」
そう言って桜花が差し出した手の上には、八百万の神の一柱と思われる小さな白い蛇。
「お初にお目にかかる、神よ。よろしければ御名をお伺いしても?」
「ウム。長ったらしいのは好まんのでな、竜天の名で通っておる。まあ、大陸の果てに住む貴官は知らんだろうが」
「竜天。もしや、ゲオルギウスの御名をご存じでは?」
「む?ジョージを知っておるのか」
どうやら、共通の知人がいるらしい。マッカネンの顔色が一気に明るくなった。
「父と付き合いのあった眷属の主がゲオルギウス様なのです。父も軍人でして、私もゲオルギウス様の知遇を得ています」
「ほう。ワシも、最後に会ったのは何百年前だったかの?そうか、奴は頑張っておったのだな」
「おい、竜天」
すっかり話から置いて行かれた桜花が割って入る。
「ゲオルギウスって誰?」
「カッカッカ、知らんで当然、汝からすれば海の向こうの神様じゃからの」
その疑問には、マッカネンが分かりやすく説明してくれた。
「ゲオルギウス様の兄君に当たる方が、竜天と呼ばれる神なのだ」
マッカネンは幼き日の思い出に浸っているし、竜天も感慨深げだし、疑問が晴れても完全に置いて行かれている感が無くならない桜花だった。
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