第14話 おれは向かう(前編)
目的を果たしたガングニールは一旦、香港に移動する。そこからベルガエ首都のブルクゼーレまではサマルカンドを経由してたどり着く手はずになっていた。
「飛行機乗るの?」
「船だと2か月以上かかるからな?」
東シナ海を渡るわけじゃないのだ。距離感が何もかも違う。
「これから嫌というほど乗るんだ。今の内に慣れるんだな」
今、戦争は世界中の植民地を巻き込んで行われている。争いのある所に歪みは現れる。つまり、ガングニールの活動範囲も世界中…というわけだ。
「隊長が一々全部、出張ってるんですか?」
「まさか。隊長という職はガングニールに10人いるよ。常にブルクゼーレにいるのは2人くらいかな…加盟国政府よりの出動要請があり次第、順次出動する。今回、私がクレアを伴ったように、隊長1人につき少数名の魔法少女と100名単位の隊員が動くことになる」
「へえ…歪みなんて今回で初めて知りました…あっ」
「うん?どうした」
「ああ、いえ…その、父が軍人でしたが特にそういうの聞いたことないなって」
思わず、自分がそうだったかのように話しかけて、設定を思い出した。桜花は上手く方向修正を行う。
「ウム…軍の訓練場などには姿を現したことが無いのだ。にもかかわらず、酷い時には子供が兄弟喧嘩をしていたことが発端となって、歪みが出現したこともあるという。奴らの生態はまだまだ分からん」
「まあ、ワシらも何百万年と人類を見てきたが、ようわからんし」
「お互い様、という奴なのでしょうか」
今話しているのは香港に向かう車中。機械化が遅れている大和軍とは違って、国連軍は装備が潤沢なようだ。
「まあ、まだまだ全部隊に行き渡っているわけではないそうだ。陸のことはよくわからんが」
ニムツェ帝国のフレジュール共和国に対する電撃戦が有名だが、軍隊の機甲化や機械化は昨今の情勢のトレンドだ。
「大和は遅れてんだよなあ…」
「ハハハ、それは否定できん」
全歩兵に対する機械化率は10%も無いという数字を、佐倉は耳にしたことがあった。兵隊は歩くことが仕事、そう教えられて戦ってきたのだ。
「それはそうだ。それは揺るがん。しかし、歩くばかりが仕事でもない、ということだな」
マッカネンは桜花に対して本当に不思議な印象を抱いていた。父が下士官であった、というだけにしてはおかしいほど大和軍の内情を知っている。
「軍高官の娘か?」
そう聞いたこともあるが、あくまで下士官の娘だという。家族にペラペラと喋る下士官もいるのだろうか、とマッカネンは思うことにしたが―――
「怪しい」
クレアも疑念を持っていた。所々見せる動きが素人ではない。眷属から魔法少女になる過程である程度の教練も課されるが、それ以上の動きを既にしている。
「大和人って、皆、貴女のように動けるの?」
「え、どうだろうなあ…?」
「小夜子さんは違うようだけど」
「うーん…」
兵隊だったから、体は変わっても動きが染みついている。数々の兵士を見てきたマッカネンや自身が戦士であるクレアの目は欺けない。
「一応、武士の家系として戦闘訓練を受けてたんだよ。女の子にも容赦ない家だったからさ」
そういう設定を急遽、付け加えた。
「武士…サムライね?なるほど。理由にはなるわね」
大和開国以来、侍の威名は世界中に轟いて、一種の伝説と化していた。なお、佐倉家は大昔は武士だったらしいが、今は農家だ。
「何にせよ、貴女は良い魔法少女になると思うわ。良い魔法少女が増えたら、私も死ににくい。助かるわね」
「そりゃどうも」
そんな話を続けている内に香港に着いた。大型輸送機が待っている。
「でっか」
「50人乗りの大型輸送機だよ。隊員200名、4機に便乗して、まずはサマルカンドを目指す」
大昔のオアシス都市だ。今はエゲリア王国軍の軍事基地として、中央アジアに目を光らせている。輸送機だけなら直行可能だが、護衛の戦闘機のことを考えたらここに降りるしかない。
「空さんは大変なんだな」
「ああ、大変なんだ」
マッカネンも、往時を思い出す。空の進軍はいつだって命懸けだった。
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