第6話 おれはどうなる(中編)
「お、オイ!?ちょっと待て!」
「なんじゃ、ようやっと正気に戻ったか?」
「竜天、お前!」
「佐倉さん」
合意はどうなった!と神に向かって抗議する眷属の少女を、安藤は制した。
「私がお願いしたの。私はあなたの担当として、あなたの身に何が起きたのか、知らなきゃいけない」
「お前にはこの娘が必要じゃ。ワシは人の子の面倒など見れん」
「そんな勝手な!」
「じゃあ、佐倉さん。自分の面倒は自分で見れる?男性と女性に差はほとんど無いけど、教養は違うのよ?」
突然、正論を叩きつけられた佐倉は口ごもった。
「私が教えるの。あなたは私の担当患者で、命の恩人。この後の人生はあなたに全部使ってあげる」
「な、なんでそこまで…」
佐倉は理解ができない、と頭をブンブン振った。
「私の患者の中で一番、私を買ってくれたから、かしらね」
安藤は佐倉に逆に問うた。
「佐倉さんは、人が一番幸せを感じる時っていつか、知ってる?」
「な、何の話だ…?」
突然の問答に戸惑いを隠せない佐倉。
「私は知ってる。自分を一番評価してくれる人のために世話を焼く時。それに勝る幸福は無いの。少なくとも私は」
たった10日。意識を取り戻してからは3日の付き合いだが―――
「あなたも、あなたから話を聞いた竜天さまも私を評価してくれる。私が人生を懸ける理由なんて、それで十分」
安藤は佐倉の右手を取って、彼の目を真っ直ぐに見て言った。
「どこへ行ったって、ついて行ってあげる。お世話が必要なら、何だってしてあげる。あなたは私の…一番の担当患者だから」
「…と、いう覚悟らしい。続けても良いかな?」
「お、おう…」
思った以上に決まり切っていた安藤の覚悟。佐倉は押し切られる形で話に参加した。
「さて、どこまで話したか。そうそう、渾沌が破裂したところか」
一千万に分かれた渾沌の肉片から生まれたのは、竜天たちのような神だけではない。二百万近い「歪み」なる渾沌の悩みや苦しみが具現化した存在も併せて生まれた。
「渾沌の予想通りだったらしい。ワシらと歪みらは、生まれた時から争ってきた。しかし、神代の時代はそれで良かったが、人類が渾沌を忘れ、渾沌に由来する神々に対する信仰心を失った時代となると、危機が訪れた」
八百万の神々は歪みに対する対抗手段を失い、歪みは天敵が消えた地上で猛威を振るった。時には、神々を食うことすらあった。
「人類が相争う時、歪みはより活性化する。歪みの元の姿は今倒した通り、ほとんどが巨大な体躯に凶暴な見た目をしておる。だが、思いもよらぬ形で現れる現象がある」
古来からあるインフルエンザの大流行はその最たる例だ。性病やペスト、近頃ではエイズウイルスも歪みが由来となった疫病なのだと言う。
「病気の、大元…!」
この言葉に、安藤は運命を感じた。この世のあらゆる疫病の根源と戦うなど、医師であっても叶わない戦いに身を投じようとしている。医療従事者として奮い立たずにいられようか―――
「こりゃ無理だな…」
佐倉はここに至って、安藤の説得を諦めた。なんとか彼女を必要とする、未知の患者たちに引き渡してやりたかったが。
「安藤さん」
佐倉は右手を出した。
「敵は大きそうだけど、一緒に戦おう」
「…ええ!」
やっと自分を受け入れてくれた嬉しさで、安藤のテンションは最高潮に達した。
「で、竜天さま!私たちはどうすれば良いの!?もう軍は頼れない感じに聞こえたけど…」
「心配するでない」
竜天は血気に逸るなと言わんばかりに尻尾を安藤の頭に当てた。
「ワシの聞いた話が確かなら、近日中にははっきりする話じゃわい」
「仲間がいるのか?」
「そういえば、八百万の神って…」
「うむ、味方はおる。しかも、少なくはない。汝らが想像しておる万倍はおるが…」
竜天は腕組みして悩んでいた。
「神々とは顔馴染みじゃが、信用できるのもできらん奴もおるし、それ以上に彼奴らの動向は知らんのじゃ」
「…彼奴ら?」
「ウム」
一拍置いて、竜天はその名を明かした。
「国際連盟とかいう人類の組織の下に属しておると聞く。特務機関だとか」
本当に予想以上の事態に、軽く戦慄する2人だった。
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