第7話 おれはどうなる(後編)
最後に、安藤はどうしても聞きたかった話題を切り出した。
「竜天さま、佐倉さんの身には何が起きたの?」
「そうだよ!それ!俺は一体、どうなったんだ!?なんで女の子なんだ!」
「ウム」
それもそうだとばかりに竜天も切り返す。
「さっきも言ったと思うが、ワシら神の眷属というのは、若いおなごに限られておる。何故か?処女性の問題ではない」
「そうなの?」
処女の問題じゃないなら、と安藤は一番の疑問をぶつける。
「じゃあ、なぜ私では駄目だったの?いえ、私は経験が無いんだけど…」
どうでも良い情報も提供する安藤であったが、核心に迫る。
「今の佐倉さんの年頃は15から17歳ぐらい…この年頃の子は感受性が豊かだわ。それが何か、関係あるの?」
「ウム。まさにそうなのだ。ワシが若い娘が好きだからだというわけではない」
「どーだか」
腕で体を庇うようにして、安藤の後ろに隠れるしぐさをする。佐倉はかなり疑っている。
「我が眷属の持てる力は、先ほど見せたモノが全てではない。無論、常人では望むべくもない膂力と頑強さではあるのだが、それだけではないのだ」
「へえ、まだあるのか。じゃあ、早く出してよ」
気軽に催促する佐倉に、竜天は言いにくそうに返す。
「ウム…実はワシら由来の力ではないため、ワシが与えるモノの中には入っておらぬのだ。人類側…国際連盟の特務機関と合流してからになる」
「なんだよ」
使えねーな!と茶化す佐倉をよそに、安藤は疑問を深める。
「不思議だわ…なんで、見えもしない神様の力を私たち人類の代表機関が解析して神様以上の力を与えることができるのかしら?」
「良いところに気づいたな?それこそが本旨じゃよ。人類は我ら神々が持っておらぬ力を持っておるのじゃ。混沌を、始まりの神を殺すほどの力を」
「へえ…どんな力だって?」
竜天は感慨深げに述べる。
「想像力じゃ。神はな、視野が広い。それゆえに分析力に優れるが、ならばその視野の外にはどれだけの世界が広がっているのか?という問いには興味が無いのだ。だが、人類にはそれがある。想像や空想をし形にする、発想力じゃ…」
神代に
「人は魔法科学と呼んでおるらしい。神々の争いに終止符を打ち、あるいは人類を破滅させかねないほどの、未知なる力。それがあれば、汝はさらに強くなる。全力のワシを殺せるほどにな」
「俺がそんなことするように見えるって?」
「言うておらんよ。じゃが、汝はこれからそれほどの力を手にすることになる。…最終確認じゃ」
竜天はその小さな両手を佐倉の額に付けて尋ねた。
「最早その身は人ではないが、さらにその上、神を殺せる力を身に付ける。そこに人間性など皆無じゃ。耐えられるかな?」
佐倉は小さな蛇の頭を見上げて言った。
「安藤さんはバケモノ同士の戦争に、身一つで死ぬ気で挑むんだ。男の俺が尻込みしてどうする?」
この期に及んで佐倉の性自認は男性だった。これには神様も噴き出してしまう。
「そうか!そうか…懲りぬ男じゃの。良いのお、気に入ったわい」
良い話で終わろうとしていたところに、安藤が待ったをかけた。
「ちょっと待って。もう1つの疑問は?なんで佐倉さんじゃなきゃいけなかったかが分かってないわ!」
「え、もう良いじゃん…」
「のお」
「良くありません!」
安藤は竜天の胴体を握りしめて揺さぶりながら叫ぶ。
「なんで成人男性が少女になるの!それなら女性を若返らせるだけで良くない!?担当患者の身に起きたことをちゃんと知っておく必要があるの!」
「わ、分かった分かったから落ち着くんじゃ!ふう。まあ、あれじゃな。若い娘を求める理由とあまり変わらんよ」
解放された竜天は伸びながら答えた。
「思いの強さじゃ。あの時は眷属の方が敵を倒すという思いが強かったから、ワシとの契約が結べた。じゃが、今となると…あるいは汝と結ぶことになるかも知れぬ。そんな流動的な理由じゃよ」
それだけ、佐倉は必死だった。自分を守るために…その事実が、若返れなかった安藤の無念を和らげるのであった。
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