第42話 おれは覚悟する(後編)
桜花は大禍の上位を取った。散弾の雨を降らせて気を逸らせる。
「今だ、やれ!」
「はい!」
その隙に手ごろな岩を引っこ抜いた和が力の限り投げつける。今度はそっちに気を取られる。
上から撃ち、下から投げつけるのコンボで大禍の消耗を誘った。
「グラァアアアアアア!」
巨大な体躯は30mにも届く。体重は何トンあるのだろう?そんな相手に、その頭の半分ほどしかない岩ともっと小さな散弾ではたかが知れていた。余裕で跳ね返されるし、地上にいる和が狙われる。
「クッ…!」
もう何度、危ういところを救出したか分からない。銃撃だけでは危うくなり始めてきた。
「和、もう良い!逃げるぞ!」
「はい!」
魔法箒に跨って逃走を図る和を、大禍が追う。
「ガアアアアアアアアッ!」
「キャッ…!?」
大禍の爪が、彼女の身をかすめた。
「和!?」
和は、地に倒れ伏した。体が上手く動かない。食われる。和自身も、桜花もそう思った。その時だった。
「雷っ!」
痛烈な雷が、大禍を襲った。体が痺れ、和を食うどころではなくなった大禍は、距離を取った。そこに、2人の魔法少女が大剣に跨り、飛来した。
「良く、耐えたわね」
「偉いじゃん。新兵だろ?」
「あ…あ…」
和は言葉にならない声をどうにか形にしようとしていた。しかし、安堵が勝って、それは叶わなかった。この2人が居れば、どうにかなる気がする。
「教官!」
雷を放ったのは魔法少女たちの教官、朝比奈小羽根。彼女がリーダーとなって、精鋭の前衛2人を連れてきたのだ。
「3人で、どうにかなるのか?」
「アホ、お前さんらも働け」
小羽根は至極まっとうな指摘をした。今ここに、遊んでいていい戦力など存在しない。
「大体、動きぐらいは分かるやろ?それに合わせて援護射撃したり」
「わ、私は…?」
「ま、囮やな。最初からやれるとは思っとらんよ。死なへん程度に、敵の攻撃を引きつけえ」
「は、はい!」
5人に増えた魔法少女は魔法箒で飛ぶことなく、地上戦を繰り広げた。これ以上、ロンディニアに近づけるわけにはいかない。和は、囮としての役目を全うした。主力剣士2人に注目が行かないように、浅く斬りつけては後方に下がるを繰り替えす。主力剣士たちは、その隙を突いて突撃を開始した。
「援護するで、桜花!撃て、撃て!」
そういう小羽根は雷を幾重にもまとめて大禍の頭にぶつけている。痺れて、鉄砲でグチャグチャにされた頭部の修復に足を止めたところに、剣士2人の斬撃が炸裂した。
「グゥアアアアアアアア!」
腹を大きく裂かれ、大禍の再生能力の限界に達した。しかし、それだけに捨て身の反抗を企ててくる。
強靭な腕で剣士の1人を捉えた。その強打は剣を取り合とさせるのに十分なものだった。もう1人の剣士がフォローする合間に、後方に控えていた桜花と小羽根を狙う。
「やっぱ、すげえな。大禍は…」
「やろ?構えろ。ここはあたしらでなんとかするぞ」
小羽根は雷をさらに集約していた。
「招雷!」
これが彼女の最大の技か?桜花には技らしい技が無いが、他人の力ぐらいは測れる。彼女も、魔力を砲身に込め始めた。
「やああああああああ!」
その時、予想外のことが起こった。和が大禍の横合いから突撃を敢行したのだ。彼女の役目は陽動だったが、今度の攻撃は明らかに決めに行っていた。
「和!?」
「援護や!急げ!」
小羽根は纏めていた雷の力を解き放ち、桜花も腕や足元を狙いまくる。
「うわああああああああああ!」
和は、先輩たちが傷つけた個所を正確に抉っていた。そこに核があるのだろう、大禍は苦しんでいる。
「デジレ、今だ!」
「姉さん、仕留めそこなうなよ!」
2人の剣士は、大禍の両腕を寸断した。両脚は、桜花が破壊している。核が動くとしたら、後は頭だけだ。
「守り給え、守り給え。その神威を持って。道満の名に恥じぬ力を、見せたもう」
祝詞を唱え、小羽根は雷の槍を放った。それは、唯一無事に誇っていた大禍の頭を貫き、消滅させるにふさわしい威力を有していた。
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