第41話 おれは覚悟する(前編)
その戦場で、桜花は魔法少女になってから初めて圧倒的な格上と対峙した。
「大禍…!?」
報告には共食いをしている可能性がある、とはあった。しかし、これは明らかに神を食っている。
「地元の神がやられたか」
竜天が唸った。八百万の神々は人と交わることで現世に影響力を及ぼせる。パートナーとなる眷属のいない神は無力だ。
「おれも出るしかない。なんとか切り抜けて、体勢を立て直す」
後方射撃で援護に徹していた桜花は、和を救出に向かった。彼女もこれが初陣とは思えないほどの技量で抵抗していたが、大禍を相手に押され始めている。
「これが、大禍だというの…!?」
絶望的な気分になりながら、日本刀を模した魔法箒で抵抗するも、大禍の前には無力に近い。押されているところに、桜花からの援護射撃が届いた。幾筋かの魔法弾が、熊の手を捉える。
「パァン!」
大きく破裂したそれは、再生を始める。しかし、その間の動きはひどく緩慢なものになるのは、魔法少女なら誰でも知っていた。
「和、逃げるぞ!」
「は…はい!」
逃げない、とは言えない。言えば死ぬ。自分を助けに来てくれた桜花の気遣いを無駄にはできない。振り向いては切りつけ、撃ちつけ、遮蔽物の多い山まで身を退いた。
「怪我は無いな?」
奇跡的に、2人とも戦傷は無かった。仮に怪我をしていても、放っておけば治るのだが、敵は放っておいてはくれない。
「はぁっ、はぁっ…あれが、大禍…」
「逃げられたのは奇跡的だな。お前が雑魚なら即死だった。おれも道連れだったかもな」
和はこれが初陣だ。戦場でも面倒を見てやれ、と桜花が派遣されていたのだが、このような強大な歪みに育っているとは聞かされていなかった。
「死んで、なんとかなりますか?」
グッ、と奥歯を噛みしめながら、和は言った。あの時、命を捨てて守ってくれた先輩方のように、自分も―――
「馬鹿野郎。ここがどこか、忘れたのか?」
「えっ―――」
ここはエゲリア王国の首都ロンディニア郊外。桜花と和を食った大禍は力を増すだろう。そして―――
「町を襲う。ロンディニアは今は安全圏だが、ほんの数か月前までバトル・オブ・ロンディニウムを経験していた都市だ。戦争の臭いは残ってる。歪みの大好物だ」
「じゃ、じゃあ!?」
どうすればいいの、と和。自分たちが生きてても止められない強大な神の災害。死んで止めることすらできないのかと嘆く。
「簡単に死ぬなんて言うな。おれらにできることはある。例えば、ここに精鋭部隊が到着するまでの4時間、あの大禍の気を引き続けることだ。見ろ」
大禍は東―――ロンディニアの方向へと移動を開始していた。都市の持つ戦場の臭いを敏感にかぎ取ったのだ。もしも大禍がロンディニアに到達し、市民を食うことでもあれば。
「歪みの好きな阿鼻叫喚、大混乱。もっと強い大禍になるだろうぜ」
「あれが、もっと強く…!?」
和はゾッとした。エゲリア、延いては人類の滅亡が見えてくる。
「分かったな?おれらで4時間、何とか稼ぐ」
桜花の立てた戦略は単純だった。
「お前を食わせたらその分、アイツが強くなる。よって、斬り込みはしない」
技量があるとしても半人前の和では大禍を相手に単騎戦闘するのは厳しい。桜花は後衛なので、和よりも近接戦闘の適性に劣る。
「おれと固まって、動きながら狙撃する。お前も岩ぐらい投げて挑発しろ」
魔法少女は筋力も強化されている。石などと言わず、岩でも、一番の記録では200m近い標高の丘を引っこ抜いた記録がある。
「できるな?」
「はい!」
返事が良い奴は大概何かをやらかすもんだが―――桜花は気にしないことにした。こいつが何かミスをしたなら、その尻拭いをしてやる。それが先輩の役目だからな、と桜花は自分に言い聞かせた。
2人は魔法箒に跨がって、空を飛んでいる。これは魔法箒自体の能力ではなく、主神の飛行能力を魔法箒に付与している。
「ヘマすんじゃねーぞ!」
「はい!」
2人並んで飛んでいたのが別れる。和は大禍に真っ直ぐ向かい、桜花は上位を取る。
「作戦通り、行くかな…?」
強大な大禍相手に、自分の力がどこまで及ぶか?
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