第31話 おれは生きる

 増援部隊には小夜子も志願したらしい。第2陣の輸送機に乗り込んで、アル=マグレブへとやって来た。


「桜花ちゃん~良かったあ~!」


「ちょっ、小夜子ねえ!」


 小夜子は桜花を抱きしめて離さない。歪みの骸も片づけ切ったため、魔法少女にはもうすることが無い。帰るのを待つだけだ。戦地に駆け付けた他の3人の魔法少女が囲んで見ていた。


「ブレねえなあ…」


 感心しているのはエイレーネー。最近、小夜子に悩みを聞いてもらい始めたらしい。ちょっと調子が良くなり始めた。


「義姉妹という話だものね」


 クレアもまた、小夜子に心を開き始めていた。彼女の弱った心を補強し、戦場まで来られるまでにしたのは間違いなく、小夜子の功績だ。


「人前で女同士とはいえ抱き合うなど…恥を知れ、恥を」


 ルーは手厳しいが、それでも口調が幾分か柔らかい。桜花には命を救われたばかりだ。彼女の活躍が、大禍撃破の糸口になったのだから。


「っていうか、非戦闘員のねえがなんで来てんだよ!」


「うん、私ね、ガングニールで正式な役職を拝命したんだ」


 曰く、「魔法少女メンタルコーディネーター」。魔法少女全体のメンタルを安定させ、戦力の安定化と向上を狙うのだという。


「だから、今はエイレーネーちゃんとクレアちゃんでお試し投入されたんだ」


「お試しって、もし大禍がなんとかなってなかったら!」


「その場合は、ジブラルタルでお留守番だっただろうね。あくまで、私は本部付き人員だから」


 なんでもかんでも戦場に出すわけではない、という約束で小夜子はこの役職を受け入れた。何より、彼女もガングニールの一員として、戦いたかったのだ。


「でもさあ…」


 桜花は嫌がる。あくまで、小夜子には日常でいて欲しいという思いがある。


「当然、普段はブルクゼーレにいるよ?今回は2人がメンタル不調だから、その管理についてきたんだから」


「うーん…」


「あたしらにとっちゃ、小夜子さんがいるのといないのとじゃ、大違いだからな」


 エイレーネーが感慨深げに頷く。


「そうね。いざという時に、抱きしめてくれる人は貴重」


 クレアも同意する。別に仲が良いわけではない2人が、こうして同意し合えるのも小夜子のおかげだ。


「でもさあ…」


 釈然としないものを抱えながら、桜花はブルクゼーレへの帰途に就いた。




 3日後、ガングニール本部の会議室で、アル=マグレブでの一戦の総括が行われた。現地責任者だったマッカネン隊長が言うには、


「調査の結果、当初、通常の歪みとされた存在は神を食らった大禍の第一段階であった、と結論付けられました」


 大禍にも段階がある。群響の後、共食いしたり、単体でも神を食ったりして強力な個体となる第一段階の大禍。共食いを進め、より多くの魔法少女を食った第二段階。この時点で既に大惨事だが、第三段階となると、都市を丸ごと食らいつくす。つまり、一般人であろうと糧にして強大になり続けるのだ。


「第一段階で済んで良かった。また、ルー・ド・キャヴァリエールが食われていたかも知れないとの報告もある。第二段階も間近だったということだ―――」


 瞑目して、マッカネンは断頭台に上るかのように口を開いた。


「此度、ルー及び桜花を危機に陥らせたこと、アル=マグレブの人々に災厄をもたらしかねなかったこと、このグレイグ・マッカネンに全責任があります。長官、本官はどのような責をも負うつもりです」


 しばらく考えて、ロンシャン長官は口を開いた。


「しかし、君ほど人望ある隊長も、そうはおらん。営巣に入れて遊ばせておく余裕はない。減給1/10を3か月、というところだな。誰も死んでおらんのだから」


 そう、歪みが出現した以上の被害は無い。魔法少女も誰も死んでいない。勝利以外の何物でもない。


「寛大な処分に感謝します。これまで以上に、誠心誠意、職務に精進します」


「ウム、期待している」


 事態をハラハラと見守っていた桜花も、胸を撫で下ろした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る