第47話 おれは訓練する

「セァッ!ハァッ!」


「おらあっ!」


 ブルグセーレ本部の中庭で魔法少女たちが木剣を片手に飛び跳ねている。そう、文字通り飛び跳ねているのだ。ピョンピョンと飛び回るように立ち回る者もいれば、静かに跳びかかって来るのを待ち受ける者もいる。


「よくあんなに飛び回れるよな…」


 佐倉桜花は後者である。機動力に長けた先輩魔法少女に付き合って体力を浪費する趣味は無い。静かに構えて、やがて襲い掛かって来るのを待ち受けていた。


「ハァッ!」


 大上段に振り上げて来る和。彼女は名前に反して極めて攻撃に積極的だ。ガシガシと木刀を打ち合わせてくる。


「足元がお留守だぞ!?」


 足首から軽く掬い上げられ、和は尻餅を突く。


「キャン!」


「おーおー、可愛く鳴きやがって」


「くっ…っ!」


 桜花は派手好きな性格をしている割に、静かに構えて技術でいなすのが得意なのだ。そのスタイルで大和皇国陸軍にいた頃は剣術大会でも上位の成績を収めていたので、腕に覚えがある方ではある。

 一方の和は名士の家に生まれたため、魔法少女になってから初めて箸よりも重いものを持ったほどだ。そのため、技術云々は置いておいて攻め一辺倒にならざるを得ない。


「教官に習いな。あの人はマジモンのプロだから」


「で、ですね…でも高度過ぎて付いて行けるのか…?」


 その朝比奈教官は先程からエイレーネーと高速戦闘を繰り広げている。かれこれ5分間は打ち合っている。


「あの、先輩は見えてるんですか?あの動き…」


「まあ、5割くらい…」


「5割、ですか…!」


 それでもすごいと言いたげな和。桜花は見えた部分だけを解説していく。


「エイレーネーの奴は大振りなんだよな。けど、お前のように見境なくブンブン振り回してんじゃなくて、打つところを決めてる感じがする。いや、お前も決めてるんだとは思うぜ?けど、精度が違うんだよ。エイレーネーは最短距離の軌道で剣を振ってるけど、お前は無駄が多い」


「うぐぅ…」


 ぐうの音は出たが、それ以上には何とも言えない和。桜花は続ける。


「教官はエイレーネーの強気な性格を良く知ってるから、なるべく手数を出させてミスを誘発しようとしてるな。けど、エイレーネーも馬鹿じゃねえからあまりやり過ぎないようにしてる。でも、なんとなーく横薙ぎに胴を狙う動きが増えてきてる気がする」


 糸を手繰り寄せるように、小羽はエイレーネーの動きを単純化させていき、その動きだけに固執させていく。そして脳天を優しく叩いた。


「うわっ!?」


「白熱すると相手が見えなくなってくるの、悪い癖やから早よ直し。せっかく筋はええんやから」


 尻餅を突かされたエイレーネーの手首を掴んで立ち上がらせる小羽。エイレーネーは悔しそうに呟く。


「生まれ持ったモンがそう簡単に直ってたまるかよ…」


「直し!でないと、早うに死んでまうで!」


 そう、魔法少女が歪みと戦い負けた時、待っているのは「死」である。今までエイレーネーは戦い、生き残ってきたがいつ彼女と拮抗する歪みが出現するかは分からない。拮抗した時、エイレーネーの一本気な性格は彼女を死に追いやるかも知れない。


「熱くなって良いのは落語の時だけやで」


「その落語?っての面白くねえだろ!」


 小羽は時折、寄宿舎の食堂で大和で覚えてきた落語を披露していたが、大和語の細かい言い回しを連盟共通語に落とし込むことに失敗しており、通算100回以上に渡る寄席は1度として受けていない。同じ大和人ということで桜花にも相談が来たことがあったが、彼女も落語など習ったことも無いので成果は上がらなかった。


「おもろいんやけどなあ、落語…どうやったら分かってもらえるんやろ」


「あの…」


 これは優しく指導してもらえるチャンスと捉えた和は、小羽に話しかけた。


「わ、私の祖母は詩吟が趣味で、私も習ってたんです。2人で知恵を出し合えば何かできるんじゃないかと思って!」


 勇気を持って仕掛けた和の姿勢に、小羽も感じるところがあったらしい。


「そうか、手伝ってくれるか!」


 こうして、和は丁寧な実戦指導を受けられ、小羽は落語改良の協力者を得た。次の寄席はある程度見直され、和も桜花と互角に渡り合う場面を見せることになるのだが、これはまた別の話である。

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廃兵、魔法少女になる 司書係 @lt056083

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