第46話 おれは着飾る
長い話し合いの末、無理はしないで行こうということになった。
「桜花ちゃんが生きたいようにした方が良いよ。明日にでもやられちゃうかも知れないんだもん」
魔法少女の宿痾を、小夜子は思い出した。桜花がなるべく苦しまないように、という思いが今を生きる桜花を苦しめては仕方がない。そういうことで恥ずかしい写真も焼却処分してもらい、一安心の桜花である。
「あんなモンがあったら夜も眠れねえよ」
「若い時なんて一瞬なんだけどなあ…」
魔法少女には関係ないかあ…とは口にしない。小夜子はあくまでも魔法少女個人を見ようと決心しているのだ。魔法少女一般で語ってはいけないと自身を強く戒めていた。
「水着姿もハードル高いし…あ、そうだ」
小夜子は桜花がかつて語っていた願望を思い出した。
「フリフリのメイド服なら抵抗ないの?」
「まあ、肌を見せないで済むなら…」
かつて、退役後の夢を語った時、カフェのウェイトレスをやりたいと言っていた桜花。フリフリのメイド服を着てみたいと言っていた。
「女の子らしい恰好から始めてみようか?」
そうして、2人はブルクゼーレ市内のブティックへと足を運んだ。面白そうだということでエイレーネーまでついて来た。
「なんで来たんだよ」
「あたしがいちゃ邪魔だってのか?」
「結構邪魔だな」
「酷いぞ」
あまりの言い様に天を仰いだエイレーネー、桜花は知らね、とばかりにブティックへと乗り込んで行く。ここはブルクゼーレでも指折りの高級店だ。
「なんかサラサラだ…」
「こちら、カシミヤ100%のニットドレスになります」
自由に見て回れる店ではなく、店員が付きっ切りでお世話を焼いてくれる店だ。最初は桜花の風体に眉をひそめていた店員だが、小夜子が国連職員の身分証を見せた途端に態度が変わった。
「こちら、サテン生地のドレスになります。1着は持っておいて損は無いかと」
「なんかすごいな…」
生まれて初めて触る感触の生地に、桜花は軽く感動さえ覚えていた。あっちではエイレーネーがパンツルックのスーツを合わせていた。
「お嬢様、良くお似合いです」
「胸周りが楽でいいね。やっぱこういうのはオーダーメイドじゃないと駄目だな」
ガングニール随一とも称されるエイレーネーのスタイルだ。そんじょそこらの服では彼女の体にはフィットしない。
「お前、そんな服どこに来て行くんだよ?」
「ん?案外と要人警護も多いぞ?そんな時に体に合わない兵装で行っても締まらねえんだよ」
ガングニールの魔法少女の戦力は各国要人に知れ渡っている。加えて、歪みがいつ何時現れるとも知れない。それゆえ、各国王族や首脳たちの要請で護衛任務を請け負うことも魔法少女の立派な使命だった。
「お前も用意しとけよ」
そう言われて、桜花もパンツルックのスーツを仕立てに入る。彼女も大概スタイルに恵まれているため、一般の仕立て屋だと会わないことが多いが、ここはグラマーサイズだろうが取り揃える一流店だ。すぐに彼女に会った型が用意され、縫製されて合わされる。
「手際が良い…」
「ありがとうございます」
思わず漏らした感想にも律儀に答える店員は、ブラウスを着せ、縫製したばかりのスーツを被せ、満足そうに頷いた。
「これでようございましょうか?」
「おお…」
向かい合った鏡には、思った以上にびっしりした姿の自分が映っていた。後ろで見ていた小夜子も納得の頷きを見せる。
「料金はこのようなところです」
差し出された領収書に、桜花は目が飛び出そうになった。
「た…高い…」
「現金は難しいので、小切手で良いですか?」
伍長時代の月給半年分に相当する額を目の前にして唖然とする桜花と、平然と小切手を切る小夜子。まあ、その原資は桜花が知らず知らずの内に貯めていた給料から出るのだが。
「小夜子さん、こっちもー」
「はいはい」
エイレーネーの分の小切手を切りに行った小夜子を見送り、桜花は改めてとんでもない世界に足を踏み入れたと感じていた。
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