憐憫ーれんびんー



 「き、貴様。ばばぁ!かつて分家の分際で!宗家たる親父殿が掛けた憐憫れんびんと親愛の情を踏みにじり、一度は諦めたはずのあたしらの命にまたもや手を掛けるつもりか。親父殿が黙っていないと思え。」


 息を荒げ、にじり寄る攝累。

 不穏な笑みを浮かべ、後ずさる累火。


 もはや、瀬戸際に立たされている攝累だが、次の瞬間乱れていた呼吸は整い、躙り寄る足は止まる。


「なんて他力本願な事は言うまい。それに、貴様が望む通り、望んだように。私はこの家を出る。否、捨てる。元から、元より2人だ。いいや、違うな。もう、一人か。1つ言っておこう。1つ覚えておけ。よく言うだろう、さいは投げられたってな。今の状況がまさにそれだ。その言葉の語源と起源に、ご丁寧になぞってやるなら。【羅馬ローマを率いて滅びを見た元老院】側がお前だって事は肝に命じて、覚えておくことだ。御意見番よ…。否、老傘咒ろうせんじゅ殿よ。」



「ほう、いきなり斜に構えよったな片割れよ。威勢いせいを捨てた代わりに威厳いげんを拾ったようじゃが、羽織のない今のお前様など。」



「取るに足らん……。といいたいようだな。老傘咒。」


 まっすぐ、睨む赤い眼光に交じる色は翡翠。その眼の中でうねり回る緑の光はまるでソハヤに書かれた一陣の風のようだった。

 

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