足音ーあしおとー

 「それで、物音を聞き不審に思い、深夜の寝室に向かう廊下で逃げ去る複数の影と項垂れうなだれ座るひじりさんを見つけた…と。」


 頷き加えるように語る女将さん。

「ええ、旦那様に駆け寄り、部屋に目をやると荒らされた形跡はありませんでしたが、渦切の羽織。そう地動渦羽織もありませんでした。」


 「幾らいくら周囲にできた人間がいたとしても、幾ら近くにおいて管理していたとしてもあの羽織は、いえあなた方の羽織は噂通りに、噂以上に"異形すぎて異常・異様なほど異能"と称される程・称される分欲しい人間は五萬ごまんと湧く。」



 ◯

 確かに的を得すぎていたのにもかかわらず、誰もが暗黙の了解とし、いつかは起こると予見はできずとも予測していた自体ではあった。


 そんな必ず起こったであろう不幸を引き当てたがゆえに、一時とはいえ立場を退くひくことになったのがこの大鋸御 聖という男とそして馬酔木あせびの目の前で悲壮に染まった女将さんを含む大鋸御家だった。


 すみません。

 そう口にしようとする馬酔木の横で、黙って下がる頭があった。

 渦切の直系、そうせつである。


 深々と下げる姿は言葉なくともひしひしと慰謝いしゃの念が伝わってくる。その姿に目をやる女将さんはどこか納得、どちらかと言うと諦めたように縛られた体から力を抜いた。




 

 後ろの廊下から誰かがこちらに向かってくる足音を馬酔木の耳は聞き逃さなかった。

 目線だけを後ろに送る…。



 「誰です?」


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