飾屋ーかざりやー

 そろそろ私の代も終わらせなくては。


 攝には多少早い受け継ぎになるだろうが、あの年で1領羽織を織り上げて見せた実力は流石私の息子だと、私以上だとこの丹波は思うのである。元同僚、着飾の所にも訪ねたが浮絹の情報は得られなかった。


「まぁ待てよ、丹波。早まるもんじゃないよ。いくら纏言衆に入っていたお前だとしても八咫鴉の敷居を再度跨ぐまたぐことは、特に三羽鴉は許さない。丹波よ、お前が八咫鴉に向かおうとしている理由は詠狡疑よするぎ先生に会うだめだということはわかったがね。」


 元纏言者てんげんものであるよしみだ。1つ教えてやろう。そう話す着飾つきかざりは長い黒髪を女性のように耳にかけするどくつり上がった目をこちらに向ける。


 「私等の師であり三羽鴉にも匹敵する立場にあった天狼てんろう・詠狡疑先生はもう纏言衆てんげんしゅうにはいやしないよ。私が放たれる前には"飽きてしまってね"と告げてそれから行方知らずだ。その後、八咫鴉は後継を見つけるのに酷く労を要したみたいだがね。」


 わかったよ丹波。浮絹に関しては骨を折ってやろうじゃないか。だが現状に甘んじて待つだけというのはやめることだよ。弱気なのは昔からお前の悪い癖だ。


 そう言って手をひらりひらりと履けるように仰いだのを見て、私は飾屋かざりやを後にしたのである。



 はぁ…、昔からあの人やっぱり苦手だなぁ…。でもそうこう言ってられないかなぁ…。

 

 攝累きょうらが気がかりだなぁ…。



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