夜月の文ーよづきのふみー

 よぉ、久方ぶりにこの私だぜ。そうだ、攝累きょうらお姉さんだ。

 いきなりのご登場には訳がある。宵の闇って呼ばれる今の時刻に私が目を覚ましたのは、首の横、危うくハスるかどうかの位置に細い六角が3本。嫌な角度で穿うがたれてきたからだ。


 多分やり手だろうさ。其処そこに投げられると外には避けられない。自然と部屋の奥に逃げるしかないからな。

 すると開けっ放しのふすまから遠ざかる理由わけで、自然と見える外の景色も家にさえぎられて小さくなる。



 「自分の位置を悟られない様にって所…だね。」



 そして3本の六角には細い布がご丁寧に巻き縛られてある。毒か、ふみかはたまた呪いか。頭によぎるのはこの前の夜月の賊のことだ。あいつはやたら自分の正体をばらすまいとした動きと思考をしていたからな。


 目に映る、月に照らされた白砂利が敷かれた庭。砂利に足跡、木枝に折れ跡、壁に傷跡、なんてものは全くもって見えはしないな。月明かりも動く影を写さない。


 六角が投げられた瞬間の薄い存在感も綺麗さっぱり消えてしまっいる。そして六角自体は殺しには偉く不向きでどちらかと言うと牽制や誘導に使うことが主だ。目的は我が弟の命ってわけじゃなさそうだね。


 そもそもこれほど正確に六角を3本も並べてせる技量があるなら命を取るなら微塵みじん蟀谷こめかみを狙うことも出来たはずだ。外しても動きは止められる。


 あの布からも馬酔木あせびの近くにいたときのような独特な毒の匂いは感じない。呪いならすぐ解ける様にあそこまできつく結ぶ事はしない。だとすると…。




 「文か…。何が書かれているんだか。流石の攝累お姉さんにも荷が重いねぇ。」

 

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