浮つき者ーうわつきものー

 久しぶりに出だしの語りをするのは不肖ふしょうこの僕。渦切せつです。相も変わらず言いにくい名前ではあるのですけれど、そんな事はさておいてお家に来ていただいたひじりさんが父の自室に入って半刻。


 長らく話し込んでいるようなんですが父の自室、どちらかと言うと渦切の頭首の部屋というのはやっぱりというのか否応なしに声が聞こえづらい部屋の作りをしているようで、何をしているのか皆目検討もつきません。

 馬酔木さんが父の部屋を見て顔を赤らめ、少しソワソワしていたのはなぜなのでしょう……。


 ◯

 「そうだ。浮絹の特徴はもう1つあるんだよ。丹兄たんにい。」

 更に声を低くし、ちょいちょいと手をふる聖。


 「浮絹ってのはさ、名前に必ずって言っていいほど魚の名前を混ぜることが往々にしてあるのさ。それは身体に名の付く魚の特徴があったからって話だよ。これがね、僕が知っているそして丹兄に伝えたかった事の全てなんだよ。」


 なんでお前がそんな事を知っているのだ。そう切り返す丹波に鼻高はなたかのように腕を組む聖。

 一見浮つき者に見える聖だったがその明るく楽観的な性格も、人を引き付ける要因の1つなのだろう。

 一通り話が終わってあとは帰るだけと言う時。聖が足を組み替え正座する。その顔には先程までの楽しそうな表情は無く、哀愁の色が覗く。


 「この大鋸御家頭首おがみけとうしゅ、聖。頭目とうもく、丹波から授かった地動を愚行で失った事。面目の次第もございません!」

 

 

 頭を畳に打ち付け声を震わせる聖の肩に手を置く丹波。

 ごめんよ…。丹兄。と呟き流れた涙は丹波の決意を固くした。

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