浮絹ーうきぎぬー

「生き髑髏の晒し首」


 えらく物騒な言葉ばかり並ぶ名だが。事実、20年ほど前に炙り出され打首そして獄門。江戸の川下にある刑場での見せしめのため並べられた隠密・隠行おんぎょうの一派。浮絹うきぎぬ一族。


 の一族の特徴。それはさっきひじりが言った一言。


 証拠がないことこそが証拠。

 それに尽きるだろう。


 逃げ、隠れ、潜む。この3つに恐ろしい程、特化・特出していた事だ。

 足跡、痕跡こんせきを辿られないように最低限の準備と最大限の警戒を心に宿す。どこにでも隠れられるように身体を柔らかくし、いつでも消え潜めるように吐息や息遣いが全くない呼吸法を身につけていたと言う。


 一族総打首の時に初めてみた身姿の印象は、骸骨。獄門の際、刑場の横木に乗せられた顔はコケて頬がくぼむ程やせ細り、手前に寝かされた身体は細く爪楊枝に生皮を被せただけの様な肉もなければ脂もない内臓すらも入っているのか怪しい程に痩せ細っていた。


「あの時に殆ど全てと言っていい浮絹一族はとらえられたって聞いたんだよ僕は。」


 だけれどね。と語る聖は何処どこか、何故なぜか嬉しそうだ。


「浮絹の生き残りが、生きてるとしたら?」


 もしそれが可能性として高いのなら、取り戻す事は愚か出会うことすらも困難になると考えたほうが妥当だろう。


 それはあの盗賊一派が浮絹と呼ばれた由縁にある。夕刻と夜にしか行動せず、相対した対象の姿は見えず、来ていた絹織だけが浮いたように見えたとの噂から始まったのだから。





 なんてかっこよく聖には返したけど…。どうしよう…。

 あぁ、不安だぁ…。勝手に返ってこないかな……。私の地動渦羽織…。

 

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